【MotoGP】最高峰クラスから日本人ライダーが消える?
第17戦マレーシアGPのレースウィーク中に、2015年の暫定エントリーリストが発表された。MotoGPのエントリー数は総計25台14チーム。うち23台は選手がすでに確定しているが、そのなかに、日本人選手青山博一の名前は記されていなかった。
青山は今年、「ドライブM7アスパル」というスペイン系のチームに所属し、ホンダの市販レーサーRCV1000Rで参戦している。第15戦日本GPの段階で、同チームの来季のシートはすでにニッキー・ヘイデンとユージーン・ラバティという2名の選手に決定していた。青山が来季もMotoGPで戦うことを希望するのであれば、どこか他のチームにシートを探さなければならないことは、この段階ですでに明らかであった。
ツインリンクもてぎで10月10日(金)から12日(日)まで開催された第15戦日本GPの際、青山は2015年シーズンに向けた去就について、「選択肢はそんなに多くないけれども、まだ可能性は多少ある」と話し、わずかな希望に賭ける思いについて以下のように説明した。
「僕としては、ホンダのマシンで走りたいというのが正直な気持ちです。ただ、すでにホンダのシートは(ファクトリーマシンも市販レーサー枠も)すべて埋まってしまっている。ホンダの枠内に残れないのであれば、他の陣営に移ることになるかもしれません。今週のうちにものごとが大きく動くことはおそらくないだろうから、日本−オーストラリア−マレーシアの3連戦の期間中にじっくり考えたいと思います」
この第15戦の結果は13位。ホンダの市販レーサーを駆る選手たちのなかでは最上位のリザルトで、翌週のオーストラリアGPに臨んだ。メルボルンからさらに南へ下ったフィリップアイランドで開催された第16戦のレースは、同地独特の冷えたコンディションのために荒れた展開になり、多くの選手が転倒リタイアを喫した。だが、青山は最後まで生き残って、今季自己ベストリザルトのタイ記録となる8位でチェッカーフラッグを受けた。
そして、3週連続開催の締めくくりとなる第17戦マレーシアGPを迎えた。このレースウィーク中には、上記のとおり2015年の暫定エントリーリストが発表されたが、そのなかで"TO BE CONFIRMED"(未定)とされている空きシートはわずかふたつ。ひとつは来季からMotoGPにファクトリーとして復帰するアプリリアの「ファクトリー・アプリリア・グレシーニ」チーム。もうひとつは、今季、アプリリアの市販レーサーで参戦しているイオダ・レーシング。両チームとも複数の選手と交渉していると伝えられているが、ともにイタリア系のチームである関係上、そこに取り沙汰される選手の名前がイタリア人中心になるのはやむを得ないだろう。
アプリリアファクトリーの空きシートは、スーパーバイク世界選手権の最終戦が行なわれる11月2日を待って決定し、イオダ・レーシングは、現在MotoGPクラスに参戦しているイタリア人選手でほぼ確定だとも言われている。
つまり、事実上、青山が来季のシートを失う可能性は非常に濃厚になった、ということだ。
もちろん、この苦しい状況をもっともよく理解しているのは、ほかでもない青山自身だ。2週間前の第15戦日本GPの段階では、「レーシングライダーとして継続したいという気持ちはまだ強い」と話していたが、その後、オーストラリアからマレーシアと約2週間を経ることで、その心境にも変化の兆しが見えていた。
第17戦マレーシアGPに先だつ木曜日、週末に向けた準備作業が慌ただしいピットボックスで青山が話す来年の展望は、見据える方向が2週間前とは明らかに違っていた。
「イオダ・レーシングに移籍する可能性は10%......、いや、5%くらいだと思います」
ホンダから他陣営へ移ってでもレーシングライダーとして参戦を継続するよりも、以前からオファーを受けていたホンダのテストライダーとして新たな道を切り拓くことのほうに、今の青山は意義を見いだしている様子だった。
「イオダに移籍したとしても、チームの規模や体制を考えると、いい成績を残すことは難しいと思います。しかも、来年イオダで走ったからといって、その翌年にアプリリアのファクトリーチームに行ける保証があるわけでもない。それならホンダのテストライダーとして活動したほうが、今までの自分の経験をマシン開発という形で活かすことができるし、もし誰かが負傷欠場などをした場合には、代役参戦というチャンスが巡ってくることがあるかもしれない。だから、今の気持ちとしては、95%くらいテストライダーという方向に傾いています」
この第17戦で青山は、30℃を超す気温のなかで行なわれた土曜午後の第1予選で上位2名に入り、第2予選へ進出。その第2予選でファクトリーライダーたちと計12名で決勝のグリッド位置を競い、今季ベストの4列目11番グリッドを獲得した。そしてこの日、10月25日、青山は33歳の誕生日を迎えた。チームが用意したサプライズパーティの誕生ケーキを前に相好を崩し、「このパワーをポジティブに活かして、明日はいい結果を出したい。この暑さだから20周のレースは厳しいと思うけど、バイクのセットアップもいい方向に仕上がってきています」と日曜のレースに向けた意気込みを語った。
日曜の決勝レースは、今季ベストリザルトも狙える位置で走行し続けたが、レザースーツの背中に背負ったタンクのトラブルのために序盤から水を補給できない状態だった。これが原因で軽い脱水症状で集中力を欠いてしまい、レース終盤に転倒。マシンを引き起こして再スタートを切り、11位でチェッカーを受けた。
レース直後には悔しさもにじませたが、「これもレースです。この気持ちを最終戦のバレンシアにぶつけて、今年のベストリザルトを目指します」と言い切ってマレーシアを後にした。
来年の去就は、レースウィーク前に話したとおりの方向で話が進んでいる模様だ。青山が2015年シーズンに参戦をしない場合、来季の日本人選手はMoto2クラスに1名(中上貴晶)、Moto3に2名(尾野弘樹、鈴木竜生)という構成になる見通しだ。
参考までに、今からちょうど10年前の2004年は、MotoGPクラスに参戦する日本人選手は4名、(玉田誠、中野真矢、阿部典史、青木宣篤)。250ccクラスではこの年に初の世界選手権フル参戦となった青山博一を含む3名(青山、松戸直樹、関口太郎)、125ccクラスには1名(宇井陽一)、と計8名の選手が各クラスで活躍していた。
そしてさらに、次戦のバレンシアGPで青山と中上のいずれかが表彰台を獲得しなければ、1986年サンマリノGPの平忠彦以来連綿と、日本人選手の誰かが毎年必ず表彰台に登壇し続けてきた記録が途絶えることにもなってしまうのだ。
西村章●取材・文 text by Nishimura Akira