待望のF1復帰まで5ヵ月、海外メディアから湧き出るマクラーレン・ホンダの不安とは!
来年3月15日の開幕戦、オーストラリアGPまで残り5ヵ月余りとなった10月1日、ホンダは現在開発中のエンジンの画像を公開した。
いよいよ「マクラーレン・ホンダ」の“黄金コンビ”復活だとF1ファンの期待は高まっている。しかし、その前途には暗雲が立ち込めているとの情報が……。
そこで日本GPのパドックを駆け回り、海外のジャーナリストや元F1ドライバーなどに、「現実的で率直な」意見を聞いてみると、来季マクラーレン・ホンダの現時点での本当の姿がおぼろげながらも見えてきたのだ。
「率直に言って多くの不安要素があると思う」と語るのは、イギリスを代表するモータースポーツ雑誌『オートスポーツ』のF1エディターも務めたマーク・ヒューズだ。
「マクラーレン・ホンダという組み合わせに、誰もがセナやプロストが活躍した1980年代終盤から90年代初頭の栄光を思い浮かべるだろう。だが、それは四半世紀近くも前の話だ。
忘れてはいけないのは前回、つまり第3期ホンダF1の活動が、多くの時間と資金、エネルギーを注ぎながら満足な結果を残せなかったという事実。エンジン性能に限っても、ホンダは一度もトップレベルの性能を見せることはなかった。
そしてホンダは、F1に対して非常に高い『プライド』を持っている。そのプライドが時に正しい自己認識を狂わせていないかと心配だ。前回の失敗の原因がどこにあったのか、自分たちの何が間違っていたのか、という真摯(しんし)な反省なしにF1に再挑戦しようとするなら、その先には困難な現実が待っているかもしれない」
一方、ホンダが「順調」と語るエンジン開発に疑問を呈するのは、同じくイギリスの若手F1ジャーナリスト、ウィル・バクスター。
「当初、メルセデス、ルノー、フェラーリといったライバルの1年遅れでF1に復帰するホンダは『有利』だと思っていた。今のF1はシーズン中のエンジン開発が基本的に禁止されているけれど、1年余裕を持って参戦するホンダはライバルメーカーの様子を見ながらエンジン設計を決め、事前に十分なテストをしてから実戦に備えられるはずだからね。
今シーズン、メルセデスのエンジンが圧倒的な強さを見せている理由のひとつも、彼らが今季開幕戦の18ヵ月も前からエンジンのテストを繰り返してきたことが大きいと思っている。
ところが、ホンダがテストベンチ(エンジンの試験台)で本格的なテストを開始したのはつい最近で、パワーユニットを実車に載せての走行も早くても来年頭の合同テストというじゃないか? それでは『後発のメリット』どころか、今季、テスト不足で多くのトラブルに苦しめられたルノーよりも厳しい状況だと思う」
今年から導入された新エンジン(パワーユニット)は、1.6リッターV6エンジンに2種類のエネルギー回生システムを搭載した超複雑なハイブリッド。しかし、ホンダは具体的な走行テストの予定すら立っていない。
また来年、開幕前のテストが始まっても、複数チームにエンジンを供給する他のエンジンメーカーと違い、マクラーレンのみにエンジン供給をするホンダが、テストから得られるデータは極めて限られるはず。開幕までに十分な戦闘力と耐久性を確保するのは簡単ではないだろう。
そのマクラーレンについても不安の声が上がる。「ここ数年、パートナーとなるマクラーレンが低迷しているのも不安要素のひとつだね。マシンの空力開発にも苦しんでいるようだ」と話すのは、BARホンダのエースとして、ホンダの第3期F1初期を支えた元F1ドライバーのジャック・ビルヌーブだ。
「当時の僕の経験から言えば、ホンダには優秀なエンジニアが大勢いるのに、その力が十分に生かされていない気がする。
どうやら、ホンダの社内には『ネガティブなことを上司に報告できない』という不思議な文化があるみたいで、そのために情報が歪(ゆが)んだり、正しく伝達されなかったりして、エンジンの開発を進めるにつれて逆に悪くなるなんてコトもあった。ホンダがF1で成功するためには、そういう部分を改善する必要があるだろうね」
もちろんホンダの失敗を祈っているワケではなく、「第3期」の失敗を繰り返してほしくないからこそ、あえて鈴鹿の現場で海外のF1関係者から「厳しい声」を拾ってみた。華やかな栄光に彩られた「マクラーレン・ホンダ」の名前や、ホンダ関係者の「勇ましいコメント」による期待が勝手にひとり歩きしてしまえば、かえってその分、「失望」も大きくなるだけだからだ。
一部で噂されているフェルナンド・アロンソの移籍が実現すれば、周囲の期待は一層膨らむだけに、プレッシャーもまた大きくなるに違いない。
華やかな栄光に彩られた過去の栄光やプライドと決別し、謙虚な「チャレンジャー」としての立場で一歩ずつ着実に上を目指す姿勢が「第4期ホンダF1」には求められているはずだ。
(取材/川喜田 研)
■週刊プレイボーイ43号「日本GPパドック裏で直撃したマクラーレン・ホンダ“これだけの不安”」より(本誌では、ホンダ関係者の話も掲載!)