おおかたの予想どおり、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)は第15戦日本GPが行なわれたツインリンクもてぎで2014年の年間総合優勝を確定させた。

 10月12日午後2時にスタートする決勝レースで、マルケスがチャンピオンを決める条件は、年間獲得ポイントを75点差で追うランキング2位のダニ・ペドロサ(レプソル・ホンダ・チーム)とペドロサから3点差のバレンティーノ・ロッシ(モビスター・ヤマハ MotoGP)の両選手よりも前でチェッカーフラッグを受けること。

 厳密には、リザルト次第ではロッシと12点差のランキング4番手、ホルヘ・ロレンソ(モビスター・ヤマハ MotoGP)の着順も関係してくるのだが、ここまで14戦で11勝を挙げているマルケスの高水準の走りを見れば、ロッシとペドロサの前でフィニッシュすることがチャンピオン獲得のための唯一の必要条件、といっても差し支えない状況だ。

 普通に考えれば、ロッシとペドロサの前でゴールすることなど至難の業だが、相手がマルケスであれば話は違う。実際に、ロードレース界の史上最年少記録を次々と塗り替えてきた21歳の若者は、この日のレースをロレンソに次ぐ2位でゴール。スタート時はやや出遅れて序盤数周こそ5番手を走行していたが、中盤で前の選手をひとりずつ確実にオーバーテイクし、最後は3位のロッシと4位のペドロサに対して充分なマージンを開いてチェッカーフラッグを受けた。

 21歳237日での2年連続王座獲得は、マイク・ヘイルウッド(23歳152日:1962−1963年)の記録を51年ぶりに大きく更新し、またひとつ新記録を塗り替えた。

「今日の目標はレースで優勝することではなく、ダニとバレンティーノの前でゴールし、チャンピオンを決めることだった。序盤は硬くなってしまったけれども、少しずつ体がほぐれてきて、レースをリードするホルヘのことは気にせず、バレンティーノだけに集中した。バレンティーノを抜いてから、最後は100%の力で走り、ホンダのホームでタイトルを獲ることができた」

 そうレースを振り返ったマルケスは、昨年と今年の2年連続で王座を獲得したことについて「去年、最高峰に昇格した年にチャンピオンを獲得できたことは素晴らしかったけど、今年はもっと大変だった。いつもニコニコしていたから、きっと簡単だったのだろう、と外からは見えたかもしれないけどね」と語り、大きなプレッシャーを感じていたことを初めて明かした。

「去年はルーキーライダーだったので多少の失敗は許容範囲だったけど、今年は期待も大きくなっている分、プレッシャーも大きかった。自分ではうまく対応してきたつもりで、シーズン前半は完璧に推移した。ただ、後半になると、第13戦ミザノと第14戦アラゴンでは無謀なことをして(転倒につながって)しまった。ここは来年の課題だね。まだまだ改善の余地はあると思う」

 これらの言葉からうかがえるのは、自分自身のライディング技術やメンタル面の強さにさらに磨きをかけようとする貪欲な向上心だ。

 現在21歳のマルケスは、2010年に125ccクラス(当時:現Moto3)で、2012年には中排気量のMoto2クラスでそれぞれチャンピオンを獲得し、今回の最高峰クラス2連覇と合わせて、21歳にしてすでに4回の世界王座に就いている。一方、現役選手最高の9度のチャンピオンを獲得してきたロッシは、マルケスと同年齢の21歳当時には125cc(1997年)と250cc(1999年)で2回の王座に就いたのみで、最高峰クラスではまだチャンピオンを獲得するに至っていない。現在35歳のロッシは、将来的にマルケスが己の記録を塗り替える可能性が高いことを認め、レースに先だつ金曜にはその可能性としてこんなふうに推測をしている。

「彼は去年から今年にかけて大きく成長した。今後も年々成長していくだろう。自分自身のことを振り返っても、28、9歳くらいまではずっと成長し続けることができたからね」

 また、マルケスの後ろで3位チェッカーを受けたレース後には、ひとまわり以上年下のライバルの偉業を褒め称え、その優れた特性を以下のように分析した。

「マルクのすごいところは、最初から飛び抜けて速いライダーだということ。どんなバイクでも速く乗ってしまう天性のモノを持っている。去年から今年にかけて、さらにどれだけ成長するかということに注目していた。なぜなら、優れたライダーはルーキーシーズンから2年目に大きく伸びるものだからね。

 僕たちにとって残念なことに、彼はとても大きく成長をしていた。速さだけじゃなく、ライディングスタイル、つまり、バイクの乗りこなしかたやブレーキング、加速のさせかたなどが、去年と同じようなアグレッシブさを保ったまま、今はさらに状況をうまくコントロールできるようになっている。去年はときに無謀すぎることもあったからね。今後は僕よりも勝利数を挙げないでほしいけど(笑)、達成する可能性は高いだろうね」

 今回のレースで優勝したロレンソも、6歳年下のライバルの才能を高く評価する。

「(マルクのこの一年は)ほとんど完璧だった。ミザノとアラゴンではミスをしたけど、それ以外ではいつも水準が高く、アグレッシブでありながらいつも安定していて、昨年の序盤によくやっていたような転倒もほとんどなかった。昨年、ルーキーイヤーでチャンピオンを獲ったのは確かにすごいことだけれども、あのシーズンは僕やダニが負傷していたことも、多少は彼に有利に働いたかもしれない。しかし、今年はそうではない。彼はほぼ完璧なレースばかりだった。素晴らしいと思う」

 当のマルケスは、今回のチャンピオン獲得でプレッシャーから解放されたこともあり、シーズン残りの3戦は「すべて勝利を目指したい」と話している。それを実現させて、シーズン14勝を達成すれば、二輪ロードレース界前人未踏の大記録だ 。21歳のスペイン人王者は今後 はたしてどこまで勝ち続けるのか、世界中が注視 している。

西村章●取材・文 text by Nishimura Akira