リーグ最強のエンゼルスを破るカギは「青木宣親」にアリ
【2014年ディビジョンシリーズ展望@ア・リーグ編】
2014年のレギュラーシーズンが現地9月28日で終了し、ついにポストシーズンの開幕です。さっそく、9月30日にはア・リーグのワイルドカードゲームが行なわれ、中地区2位のカンザスシティ・ロイヤルズ(89勝73敗)が西地区2位のオークランド・アスレチックス(88勝74敗)を延長12回の末にサヨナラ勝ちで破りました。その結果、すべての対戦カードが決まりましたので、今回はア・リーグのディビジョンシリーズを展望したいと思います。
※カッコ内の数字はレギュラーシーズン終了時の成績
ディビジョンシリーズに駒を進めたロイヤルズが対峙する相手は、レギュラーシーズンでア・リーグ最多の98勝を挙げたロサンゼルス・エンゼルス(98勝64敗)です。この両者の実力を比べてしまうと、どうしてもエンゼルス有利と言わざるを得ないでしょう。5年ぶりに地区優勝を果たしたエンゼルスの強さの源(みなもと)は、強力な先発投手陣と、破壊力抜群の攻撃力です。
今シーズンのエンゼルスは、メジャー3位となる1373個ものチーム奪三振数を記録しました。これは、エンゼルス球団史上最も多い数字です。169奪三振をマークしたジェレッド・ウィーバー(18勝9敗・防御率3.59)を筆頭に、151奪三振のC・J・ウィルソン(13勝10敗・防御率4.51)、124奪三振のマット・シューメイカー(16勝4敗・防御率3.04)と豪腕揃い。勝ち星を見ても、先発3人で計47勝。いかに優秀な先発投手陣かが分かると思います。
一方、エンゼルスは攻撃力も高く、レギュラーシーズンでメジャー1位の773得点をマークしています。その中でも注目は、今年のア・リーグMVP候補である2番バッターのマイク・トラウト(打率.287・36本塁打・111打点)と、その後ろに控える主砲のアルバート・プホルス(打率.272・28本塁打・105打点)でしょう。今年の打点王に輝いたトラウトが自身初となるポストシーズンでどんな活躍を見せるのか、非常に気になります。また、プホルスはセントルイス・カージナルス時代にポストシーズン7回の出場を誇り、74試合で通算打率.330・18本塁打をマークしています。この数字からも分かるように、プホルスは大舞台で強さを発揮できるスラッガーです。このふたりのバッターがいるだけでも、ディビジョンシリーズはエンゼルス有利と言えるでしょう。
しかも、エンゼルスはメジャー3番目に少ない83個しかエラーをしていないのです。つまり、今年のエンゼルスは、「投・打・守」、すべてにおいて最高にバランスの良いチームに仕上がっています。メジャー30球団で唯一、勝率6割以上(.605)を残したのも納得です。
これほど役者の揃ったエンゼルスをロイヤルズが倒すのは、容易なことではないでしょう。ただ、29年ぶりにポストシーズンに進出したロイヤルズの実力も侮れません。彼らの一番の武器は、伝統の機動力野球と、豪華なリリーフ陣です。
今シーズンのロイヤルズの成績は、メジャーで最も少ないチーム本塁打(95本)とフォアボールの数(380個)でした。ともに最下位の成績を残しながらポストシーズンに進出したのは、メジャー初の出来事です。つまり、ロイヤルズにはそれを充分に補うだけの武器――スピードがあったということです。
昨年に引き続き、ロイヤルズは2年続けてメジャー最多の盗塁数(153個)をマークしました。とにかく走り回り、相手をかく乱させて得点を奪うのが、ロイヤルズの魅力です。そのスタイルを象徴しているのが、青木宣親選手(打率.285・1本塁打・43打点・17盗塁)の存在でしょう。特にレギュラーシーズン終盤、9月13日に青木選手が本来の1番から2番に起用されるやいなや、予想以上の大活躍を見せました。9月の打率は.379で、オールスター以降の得点圏打率は、なんと脅威の.412。青木選手が得点した試合は40勝13敗で、彼が1試合に2得点すれば9戦全勝という成績なのです。青木選手がエンゼルス戦のカギを握っているのは間違いありません。
また、ロイヤルズのリリーフ陣もエンゼルスにとって脅威となるでしょう。クローザーのグレッグ・ホランド(1勝3敗46セーブ・防御率1.44)を筆頭に、中継ぎのウェイド・デービス(9勝2敗3セーブ・防御率1.00)、そしてケルビン・ヘレーラ(4勝3敗0セーブ・防御率1.41)と、100マイル級の速球を持つ豪腕ばかりを揃えています。彼らリリーフ陣は今シーズン、ア・リーグで最も少ない32本塁打しか打たれていません。
1990年にシンシナティ・レッズをワールドチャンピオンに導いた主役は、ランディ・マイヤーズ、ロブ・ディブル、ノーム・チャールトンという3人の速球派リリーフ投手からなる「ナスティ・ボーイズ」の存在でした。そのときの構成と非常に似ているので、ロイヤルズの彼ら3人は、「新ナスティ・ボーイズ」と呼ばれています。ポストシーズンは、レギュラーシーズンと状況がガラッと変わることも多々あります。「機動力野球」と「新ナスティ・ボーイズ」が機能すれば、下馬評で有利なエンゼルスを倒す可能性も十分にあるでしょう。
一方、もうひとつのディビジョンシリーズは、東地区1位のボルチモア・オリオールズ(96勝66敗)と、中地区1位のデトロイト・タイガース(90勝72敗)が対決することになりました。実はこの両者、過去に一度もプレイオフで対戦したことがないのです。ともに歴史のあるチームなのですが、初の顔合わせとなりました。
このカードの行方を占うならば、4年連続7度目の地区優勝を果たしたタイガースが一歩有利、という感じでしょうか。なぜならばタイガースには、ジャスティン・バーランダー(15勝12敗・防御率4.54)、マックス・シャーザー(18勝5敗・防御率3.15)、そしてデビッド・プライス(15勝12敗・防御率3.26)という3人のサイ・ヤング賞投手がいるからです。この3人が短期決戦で次々と先発することを思うと、オリオールズは大いに頭を悩ますことでしょう。
対するオリオールズの武器は、メジャートップのホームラン数(211本)を誇る重量打線です。今年の本塁打王に輝いたネルソン・クルーズ(打率.271・40本塁打・108打点)や、アダム・ジョーンズ(打率.281・29本塁打・96打点)といったリーグ屈指のスラッガーを擁しています。
ただ逆に、チームの盗塁数はメジャーで最も少ない44個。つまり、オリオールズは一発攻勢でゲームを制してきたチームなのです。こういうタイプのチームは、なかなか短期決戦で実力を発揮しづらいと思います。プレイオフに進出してくるチームは、総じて高いレベルの投手を揃えているからです。よって、レギュラーシーズンと同じようにホームランを連発するのは難しいでしょう。
しかし、オリオールズに勝ち目がない、というわけではありません。タイガースに勝つチャンスは、ゲーム終盤にあると思います。というのも、タイガースは先発投手陣に比べて、リリーフに弱点があるからです。タイガースのリリーフ陣のポストシーズン成績を見てみると、2011年は防御率8.01、2012年は防御率3.90、2013年は防御率4.07。そして今年のレギュラーシーズンでも、7回以降の防御率は4.28と決して良くありません。
タイガースは超強力な先発3本柱を擁していますが、オリオールズにも十分に付け入る隙はあります。できるだけ早く先発陣を引きずり下ろし、ゲーム終盤での反撃が勝利のカギとなるでしょう。
ア・リーグ最多勝利を記録したエンゼルスに、青木宣親のロイヤルズがどう挑むのか――。
タイガースのサイ・ヤング賞投手たちを、オリオールズがどうやって攻略するのか――。
ア・リーグのディビジョンシリーズは、見どころ満載です。果たしてどんな結果が待ち受けているのか、短期決戦ならではの醍醐味を、ぜひとも堪能してください。
福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu