【新車のツボ86】マツダ・アクセラXD試乗レポート
仕事がら、それなりにたくさんの新車に接している私だが、乗った瞬間に「キタコレ!そうそう、コレなのよ!」と絶叫したくなるクルマは滅多にない。最近の例でいえば、今回のマツダ・アクセラのXD(=ディーゼルターボモデル)は、その典型である。
昨年末に発売された最新のアクセラは"スカイアクティブ・テクノロジー"と銘打った新世代マツダ車の第3弾で、基本骨格設計は先にデビューしたCX-5(第71回参照)やアテンザ(第60回参照)と共通部分が多い。
以前にも書いたが、今のマツダは「いい走りとはなにか?」とか、クルマとドライバーが意思疎通する「人馬一体」を、日々追求するオタクな自動車メーカーだ。マツダの技術者に「いい走りって?」などと水を向けたら最後(笑)、うんざりするほど(失礼!)延々とウンチク話がほとばしる。
アクセラは、この原稿を書いている9月初旬現在におけるマツダ最新の成果である。そんなアクセラで到達した走りの新境地を、彼らは"ため"と"構え(かまえ)"という言葉で表現する。
たとえば剣道や空手(いや、あらゆるスポーツも同じか)において、ワザを繰り出す直前に、人間はふっと瞬間的に動きを止める。これが"構え"だ。クルマでいえば、アクセルを踏むと同時に「さあ、加速Gが来るぞ」と首の筋肉が緊張する瞬間などをいう。
マツダによれば、だからアクセルでもステアリングでも、なんでもタイムラグなく敏感にするだけでは、人間はクルマとの一体感を得られないんだとか。反応時間にわずかな"ため"をつくって、人間が"構え"る猶予をわざと与えるのが一体感の極意......と、マツダは気づいた。ちなみに、アクセル操作してから実際に加速Gが発生するまでの理想的な時間差(=ため)は、マツダの研究によると0.3秒なのだという。へぇー。
もっとも、アクセラに実際に乗っても、われわれのようなシロートは"ため"とか"0.3秒"なんてものを具体的に意識することはない。とにかく「運転しやすいなあ」とか「思ったとおりに動くなあ」と思うだけ。しかし、あらためて他のクルマと較べると、アクセラの「思ったとおり」のレベルが素晴らしく、乗っているだけで「クルマと呼吸が合うとは、こういうことか!?」とヒザを叩きたくなる。
アクセラのなかでも、このXDグレードはあのメチャクチャ速いアテンザやCX-5と同じディーゼルエンジンを積む。アクセラは最も軽くて小さいので、輪をかけて速い。
その加速性能も旋回速度もクラストップ級といっていいが、そのわりに乗り心地が穏やかで、アシまわりは意外なほど柔らかいのが、アクセラXDの特徴でもある。この種のスポーティカーは「水平姿勢のままカキカキ!」という味わいを前面に押し出すタイプが多いが、アクセラはその正反対である。
たとえば、交差点でも超高速コーナーでも、曲がる手前でわずかに減速するだけで、アクセラの鼻先はわずかにジワッと沈み込む。クルマが「さあ、これから曲がりまっせ!」と"ため"をつくるのだ。そして、曲がりはじめると、外側にボディが傾くロールは意外と深めなのだが、それがまた"ため"の効いたじわりと重厚な身のこなしなのだ。だからこそしっとりとタイヤが吸いついて、最終的にはきれいに弧を描くようなコーナリングラインで、しかもドンピシャの呼吸で曲がっていく。一体感があるので乗り手もより思い切れて、結果的にさらに速く走れる。
マツダ最新の走りの極意はすべてのアクセラに共通するのだが、なかでもエンジンが圧倒的にパワフルで、しかもこれだけ速いのに物腰やわらかで、"ため"と"構え"を見事に両立しているのがアクセラXDである。マツダの走りの極意をもっとも分かりやすく、そして高次元に体現できているアクセラだ。
ここで何度も書いているように、このアクセラXDのような走りこそ、私のツボ中のツボである。しかし、このツボをどう表現すれば皆さんにお伝えできるかが、私にとっての永遠のテーマだった。それを"ため"と"構え"という言葉で表現してくれたマツダのおかげで、私は積年の胸のつかえがスッキリ取れた気がする。ありがとう、マツダ! 私は今日から広島(=マツダの本拠地)に、アシを向けて寝ないことにする(ホントか?)。
佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune