岩隈が投球時の相手の盗塁成功率0%は「恐るべき数字」

 マリナーズのプレーオフ進出に向けて力投を続ける岩隈久志投手が、隠れたメジャー記録を樹立しようとしていることが明らかになった。野球専門の米データサイト「ファングラフ」が、岩隈の投球時の相手チームの盗塁成功率が今季0%であることを紹介している。

 8月19日現在のデータで、メジャーで盗塁阻止回数が今季最も多い投手は、ジャイアンツの左腕マディソン・バンガーナーの9回。15回の盗塁の機会で成功は6回に抑えている。2位は3人並んでおり、レイズの左腕ドリュー・スマイリーが22回中8回阻止。タイガースの右腕マックス・シャーザーは19回中8回阻止している。そして、岩隈はなんと8回中成功はゼロ。今季1度も盗塁を許していない。

 特集では「8回中成功0というのは、誰であろうと恐るべき数字だ。イワクマが右投手であることを鑑みてもそうだし、彼は衝撃的な牽制球を持っているわけではない。それは想像を超えることだ」と岩隈の隠れた記録を称えている。

 右投げの投手は一塁ランナーに背を向けてピッチングをするため、警戒は難しく、走者はピッチャーの隙を突き、モーションを盗むことがより容易となる。野球界のセオリーを無視するような岩隈の盗塁阻止は、実は現時点でメジャー記録まであと一歩のところまできている。

 過去、シーズンを終えて相手の盗塁成功率が0%だった投手の中で、阻止した回数が最も多かったのは1968年にインディアンスでルイス・ティアントが記録した9回。往年の野茂英雄投手のように一度打者に背を向ける独特の投球フォームだったティアントは、牽制球の名人だったという。岩隈は1953年のディック・リトルフィールドと並び、ティアント氏の持つメジャー記録に、あと1回というところまで迫っている。

なぜ岩隈は走者を封じることができるのか

 盗塁阻止は一般的に捕手の肩が重要な役割を担うが、特集では岩隈の女房役のマイク・ズニーノ捕手が盗塁阻止に関して凡庸であることを指摘。岩隈とのコンビでは8回の盗塁を全て阻止しているが、他の投手の場合は61回で49回も成功を許している。今季、16試合連続ハイクオリティスタート(7回以上を自責2以内)というメジャー記録を樹立した「キング」ことフェリックス・ヘルナンデス投手の登板時ですら、19回中16回も盗塁を許しているという。

 なぜ、岩隈は走者を封じることができるのか。

 実は、岩隈の「走者を走らせない技術」には、日本時代から定評があった。2006〜2008年に楽天で投手コーチを務めていた元広島の紀藤真琴氏は当時、岩隈のクイックモーションの卓越さについてこう語っていた。

「すごく速いよね。あれではランナーは走れない」

 元名捕手であり、名監督だった野村克也氏がクイックモーションを考案して以来、日本では「盗塁は捕手より投手の責任が大きい」とする見方がある。特に、クイックモーションが日本ほど重視されていないメジャーにおいて、岩隈の盗塁阻止技術が超一級品であることは間違いない。

 巧みなクイックモーションには、まずは走者をベースに釘付けにする効果があり、それでも盗塁を試みられた場合には、チャレンジャーを二塁で仕留める確率が高まる。当然、ズニーノの好送球がなければ実現しない記録ではあるが、岩隈の高い技術が盗塁を阻止する確率を高めていることも間違いない。「キング」とともにマリナーズをプレーオフ進出へと牽引する岩隈の安定感の陰には、相手に攻撃の選択肢を限定させる職人技が存在する。