ビン捨てのタイミングには意外と神経を使う……

写真拡大

飲料の缶やペットボトルなどには、ほとんどの場合デポジットがついており、使用後は店に持参すれば保証金が戻るシステムが浸透しているドイツ。
スーパーや飲料専門店などの店内には、空ボトル類返却専用の機械が設置してあるほか、返却本数が少なければ、例外的に直接レジで返却することもできます。返却する本数が多かったり、たまたまレジ店員の機嫌が悪かったりすると、レジ返却を拒否され、とぼとぼ返却機械まで逆戻りというケースもありえますが。

ところで、「飲料水」イコール「炭酸水」と喩えてもいいくらい、ガス入りのミネラルウォーターを愛飲するドイツ人は、1リットルや1.5リットルの炭酸水をケース買いすることが多いので、常に大量の空ボトルが発生します。そして、溜め込んだ空ボトル、空ビンを何ケース分も一気に返却しようとする人も多いため、買い物客で賑わう週末などは、デポジット返却機の前に並ぶ時間も計算に入れて出かけねばなりません。
自分がわずか3本しか返却したくないのに、自分の前に空ボトルを山積みにした人が何人も並んでいると、悪運だと割り切ってひたすら待つか、または、先に買い物を済ませつつ、返却機の待ち人行列が途絶えたタイミングを見計らって、素早く返却機械に舞い戻るという要領の良さも必要です。

さて、同じ空ビンでも、ワインボトルや、ジャム、ピクルスのガラス容器など、現行のデポジットシステムでカバーされていないものは、町中に設置されているリサイクルガラス専用コンテナに捨てに行くことになります。散歩ついでにコンテナに立ち寄る人もいれば、ある程度ビン類を溜めておいて、車のトランクに積み込んで捨てに行く人もあり、捨てるスタイルはさまざま。
しかしながら、プラスチックや缶と比べて重量たっぷりのガラスビンをコンテナまで運ぶのは気も(手にも)重く、また、ビンをコンテナに投入する際の騒音防止の観点から、平日午後の休息時間帯や、夜間、週末の投棄が禁止されていることが多いため、ビン捨てのタイミングには意外と神経を使うというのが正直なところです。

つい先日のこと。空ビンを詰めたエコバッグを肩に、自宅最寄りのコンテナまで15分ほどかけてテクテク歩きました。色なしの透明ビンはここ、緑色はお隣り、茶色はあちらのコンテナ……と、色分けしながら捨てていると、白髪のおじいさんが、やはりビン捨てに来たところでした。高齢で歩くのがしんどいと見えて、小型の自動三輪車に乗っており、ハンドル前の白いカゴに、空になった数本のワインボトルがお行儀良く並んでいます。

日本語なら、まさに「どっこらしょ!」という表現がぴったりの場面。自動三輪車の座席からおもむろに立ち上がろうとするおじいさんの姿に、「あ、お手伝いしましょうか? 座っていてください」と、反射的に声をかけていました。
「これを捨てればいいのですね」とカゴを指して言うと、「あ、これも……」と、後方を振り向いたおじいさんの指先をたどると、自動三輪車の後部荷台に積まれたビンの山。おじいさんの、実に立派な体格にはばまれて、後部の荷台が視界に入っていなかったのです。

「座っていてください」なんて格好をつけて言ってしまった手前、ふいに急用を思い出してこの場を立ち去るわけにも行かず、 捨てました、1本1本。大半が赤ワインの空きボトルで、あっちのコンテナこっちのコンテナと、もぐら叩きさながらバタバタ歩き回らずに済んだのが、せめてもの幸いだったかもしれません。

当初は私の働きぶりを見守っていたおじいさんも、手持ち無沙汰になったのか、3本に1本くらいの割合で、私に空ボトルを手渡してくれるようになりました。その行動自体は実にありがたいのですが、ボトルを手渡してくれる際、そのワインにまつわる思い出話を語り聞かせてくれるため、その都度作業が中断してしまうのです。

「これは知り合いのワイン農家が造ったもので、市場に出回っていないんだ」「これはデザートにも合うから、女性すすめるよ」「これは大ハズレ。半分捨てた」などなど。おじいさん、これからもワインの数だけ思い出を重ねてください。でも、思い出は溜めても、空ビンは溜めずに捨てにきてください。
(柴山香)