【自転車】片山右京「本場欧州を経て、いよいよ後半戦突入」
遥かなるツール・ド・フランス 〜片山右京とTeamUKYOの挑戦〜
【連載・第18回】
7月下旬から8月上旬にかけて、自転車ロードレースの本場欧州で初めてレースに参戦したTeamUKYO。帰国したチームは、これから国内でのレースに集中する。いよいよ2014年シーズンも後半戦に突入――。今回は現在までの結果を振り返りつつ、今後の展開を紹介する。
現地8月23日からスペインにて、3大グランツールの掉尾(ちょうび)を飾る「ブエルタ・ア・エスパーニャ」が始まる。ジロ・デ・イタリアやツール・ド・フランスと同様、3週間に渡って争われるこのレースの今年のスタート地点は、アンダルシア地方のヘレス・デ・ラ・フロンテラ。人口20万人ほどの小都市で、シェリー酒発祥の地としても有名な街だ。郊外にはヘレスサーキットを擁しており、モータースポーツ好きの間ではつとに有名な街でもある。
ここを起点に、最終日の9月14日にガリシア地方のサンチャゴ・デ・コンポステラでゴールを迎えるまで、スペイン各地を舞台に全21ステージの戦いが繰り広げられる。今年の全21ステージは、
・平坦(flat)ステージ → 5ステージ
・中級(hill)山岳および上級(mountain)山岳ステージ → 13ステージ
・チームタイムトライアル(TTT)ステージ → 1ステージ
・個人タイムトライアル(ITT)ステージ → 2ステージ
という構成だ。
昨年のブエルタでは、クリス・ホーナー(アメリカ/当時レディオシャック・レオパード所属、現ランプレ・メリダ)が41歳で総合優勝を果たし、史上最高齢のグランツール・ステージ優勝およびチャンピオン記録を更新した。ちなみに、このときにホーナーとチャンピオンの座を争ったのは、今年のツールで総合優勝したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア/アスタナ・プロチーム)である。
2014年のブエルタには、今夏のジロで総合優勝を飾ったナイロ・キンタナ(コロンビア/モビスター・チーム)が参戦する。また、ツールの序盤ステージで負傷リタイアを余儀なくされたクリス・フルーム(イギリス/チーム・スカイ)とアルベルト・コンタドール(スペイン/ティンコフ・サクソ)も参戦を表明しており、この3大強豪の直接対決がレース最大の見どころといえるだろう。また、今年のツールでポイント賞を獲得したペーター・サガン(スロバキア/キャノンデール)や、新人賞を受賞したティボー・ピノ(フランス/エフデジ・ポワン・エフエル)、ツール区間通算25勝のマーク・カヴェンディッシュ(イギリス/オメガファーマ・クイックステップ)、世界選手権個人タイムトライアル4度制覇のファビアン・カンチェラーラ(スイス/トレック・ファクトリー・レーシング)など、錚々(そうそう)たる選手たちの参戦も明らかになっており、レースにいっそうの華やかさを添える。
また、このブエルタ・ア・エスパーニャには、TeamUKYOの土井雪広が欧州チーム在籍時代の2011年に日本人として初めて参戦して完走。翌2012年にも再び完走を果たしていることは、これまで何度も言及してきたとおりだ。
さて、そのTeamUKYOは7月下旬に渡欧し、7月25日にはカテゴリー1のワンデーレース「ビアフランカ・オルディシアコ[1.1]」に参戦。その後、7月30日から8月10日までは、同じくカテゴリー1でポルトガルを1周するステージレース「ボルタ・ア・ポルトガル[2.1]」を戦った。
TeamUKYO結成以来初となる、サイクルロードレースの本場欧州での挑戦だ。全10ステージで行なわれたボルタ・ア・ポルトガルに、TeamUKYOは新加入の外国人選手を含む総勢9名の選手で臨んだ。個人タイムトライアルや苛酷な山岳の登坂を経て、最終日の首都リスボンには5名が到達。チーム最上位は土井雪広の46位、そして新加入のスペイン人選手、サルバドール・グアルディオラが50位という総合成績だった。今回の欧州遠征で彼らが得た、貴重な経験や明らかになった課題、今後の目標などについては、次回以降に片山右京監督や選手たち自身の言葉として、逐次紹介をしていく予定だ。
帰国したチームは、8月31日の「長野県・みやだクリテリウム」を皮切りに、Jプロツアーのレースを中心に国内での転戦を再開する。日本のサイクルロードレースの頂点を争うこの年間シリーズ戦では、伝統のある実業団を背景とするチームや、地域密着型の発想で創設されたチーム等、多彩なチームが覇を競っている。
今年は年間21戦が予定されており、みやだクリテリウムはその第13戦目になる。Jプロツアーは、公道を走行する一般的なロードレースや、道路を封鎖して設定した規定周回コースを走るクリテリウム、スタート地点から山肌のワインディングロードを登坂していくヒルクライム等の様々なレース形式で争われ、選手たちは着順にポイントを獲得してゆく。昨年は、TeamUKYOのホセ・ビセンテ・トリビオがチャンピオンの座に就き、チームも総合優勝を達成した。
チーム、個人の2連覇を目標に挑んでいる今シーズンは、ホセ・ビセンテやリカルド・ガルシアらTeamUKYOの選手たち以外にも、他チームの強豪選手たちが活躍し、総合ポイントトップの選手が獲得するリーダージャージの激しい争奪戦が続いている。第12戦終了段階では、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)がランキング首位に立ち、僅差で鈴木譲(宇都宮ブリッツェン)が2位。そして3番手にホセ・ビセンテ、4番手に畑中勇介(シマノレーシング)、5番手からリカルド・ガルシアが追うという順位だ。
チームランキングでも、現在は宇都宮ブリッツェンが首位に立ち、TeamUKYOは僅差の2位。この「2強」の争いはシーズンが深まってゆくにつれ、ますます激しさを増していくことは間違いない。
栃木県宇都宮市を本拠とし、地元企業や商店をスポンサーとして地域密着型の活動を続ける宇都宮ブリッツェンは、片山右京が自らのプロサイクリングチームを興すキッカケになったチームでもある(「TeamUKYOが誕生したふたつのキッカケ」参照)。彼らを応援する地元のファンは、Jプロツアーのレースにも大勢が観戦に訪れる。ブリッツェンとファンの強い絆(きずな)は、ポピュラリティ獲得を重要な課題とする日本のサイクルロードレースの今後を考えるうえで、示唆するところが非常に大きいといえるだろう。
日本国内のサイクルロードレースは、Jプロツアー第13戦・みやだクリテリウム以降(8月31日/長野)、第14戦・タイムトライアルチャンピオンシップ(9月7日/栃木)、第15戦・経済産業大臣旗ロードチャンピオンシップ(9月21日/広島)、第16戦・南魚沼ロードレース(9月28日/新潟)、と続く。そのJプロツアー後半戦の間に、ツール・ド・北海道(9月13日〜15日)、ジャパンカップ(10月18日〜19日)、ツール・ド・フランスさいたまクリテリウム(10月25日)なども開催されるため、11月中旬までは毎週末、日本のどこかで競技が行なわれていることになる。自分の近くの街でレースが開催される際には、ぜひともその目で選手たちの走りを堪能いただきたい。スタジアムで行なわれる球技や陸上、あるいは安全性から一定の距離が必要なモータースポーツ等と違って、自転車のロードレースは観客と選手の距離が非常に近く、選手たちの汗や息づかいを文字どおり目の前で体感できる数少ない競技なのだから。
(次回に続く)
西村章●構成・文 text by Nishimura Akira