[東京Petit-Cine協会]Vol.54 プチシネ、次の展開へ

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映画「さかなかみ」を完成させ、試写会の折には私も会場にいて皆さんの生の感想を伺おうと思っているが、一応自分に任された仕事はやり遂げた。まるでそのタイミングを見計らったかのように、今月はいろんなメーカーから様々なテストの依頼を頂き、その機材も私の興味のある物ばかりで、私自身の趣向を理解していただいているのだなと嬉しく思っている。

それはワンマン、或は小さなチームでのオペレートを前提にした物ばかりで、逆に言えばメーカー各社もそういう規模でのプロダクションに対して真剣に開発を進めているという事に他ならない。本当にいい時代だなと感じると同時に、頑張らなくてはいけないのは我々使い手の方だとも思う。安くすむ、軽く小さくなるというだけではいけない。その分、時間をかけられる、丁寧に作品を作れる、試行錯誤が可能になるという事を実践していかなければならないと思う。また、作るだけでなく、それがエンターテイメントとして成り立つ為には、人に届ける為にはどうすればいいかという事も引き続き考えていかなければならないと思う。

こうして見てみると、メーカーが頑張って作ってくれた素晴らしい機材を最後まで活かしきれていないという現状がはっきり見えてくる。私は映像作家なので常にそういう機材がもたらす恩恵を作品に昇華させて作る所まではやって見せてきたつもりではいるが、やはり映画は観てもらってこそ初めて映画なのだから、このままではいけない。すでに完成していて映画祭等である程度の評価を頂いている作品も一般の方にはまだ届けられていない現状を諦めてしまうつもりはないのだが、それとは別にもう一つの動きを始めてみようと思っている。

長編作品の台本とともに…

先日、ずっと温めていた長編作品の台本を書き上げた。いつもの私ならもうすぐにでもキャスティングを始め、制作にとりかかっていただろうが、今回は始めから違う方法を模索しながら進めて行こうと考えている。

というのも、今までの作品の公開を目指して色々な方とお話しをさせて頂いた中で、ある種のタイミングのズレを感じていたからだ。制作を急ぐあまり、せっかく受けられる協力や助成をふいにしたり、プロモーションのチャンスを取りこぼしたり、それこそタイミングという物が非常に大事だという事を痛感してきた。本当はもっといい形で作品を作る事ができたかもしれない、そしてそれがそのまま公開への道に繋がっていたかもしれない。そんな思いがしてならないのだ。

誤解して頂きたくはないのだが、何も一般的な映画の作り方と配給システムに乗っ取ってやってみようという物ではない。そんな事ならすでにやり方は決まっていて、私なんかよりずっとうまくやれる人がいるはずだ。むしろそれには失望しか感じてはいない。あくまでプチシネの精神で小さく作って大きく膨らます為の道を探ってみようと思い、その過程をここで公開することで成功も失敗も含めて共有していただき、皆さんの活動にも役立てて頂こうと考えている。

スターティングメンバーとタイミングの重要性

「他人の作品の為に力を尽くす人はいない」これが私の痛感した大きな教訓だ。勝手に作り上げてしまった物を、その後、なんとかしてくれないか?という相談は決してうまくいくものではないだろう。でも私を含めて物作りにはどこか「良い物を作れば後はなんとかなる」といった甘えがあるのだと思う。

今回、目標の一つに掲げているのは「自分が関わった作品」だと思ってくれる人を一人でも多くする事だ。それも初期段階から関わってもらおうと思っている。だがそれはロケ隊の規模を大きくしようという意味ではない。これまで積み上げてきた小規模撮影のメリットを殺すつもりはない。プロデュース、プロモートといった私の能力のない部分に関わる人に、始めから関わってもらおうという事だ。

先日、映画の広報を担当している方とお話をさせてもらう機会があったのだが、その方曰く、ロケという一番ダイナミックな機会をプロモーションに活かさないのは大バカだと。確かに監督であってもロケの間は作品性の事に集中している。おそらくそこに転がっているプロモーションに使えそうな物を全て無駄にしているのだろう。もしそこにプロモーション戦略のプロがいたなら、何か違う事が出来るのではないかと思う。

プロデュースにしてもそうだ。セルフプロデュースなんてカッコをつけたところで私にできるのは作品を作るまでのプロデュースでしかない。むしろ大事なのはその後だ。いや、始めから公開まで通してこそプロデュースなんだと思う。少なくともそういう事ができる人たちと「私たちの作品」と呼べる作り方をしてみようと思う。

それともう一つ。今までの作品は私のわずかなポケットマネーと役者やスタッフの献身によって作られてきたが、今回は制作費を集めてみようと思う。そして「私たち」に加わってもらおうと考えている。その為のプロモーションから始める事にした。目標は15,000,000円。1千万円で作って500万円で上映とプロモーションを計る。まぁ、あくまで目標だが。もちろん映画祭にも出品するつもりだ。

運命の20秒とは?

本来なら企画書やプロットの段階で売り込みをするのが普通なのだろうが、私はどうしてもその気にはなれず、台本と言う形でいろんな方に話をしたかった。中身がはっきりしない物を売って回るという事が作家の私にはどうしてもできないのだ。ただ、そうなるとその本をしっかり読んで頂く時間が必要になり、自ずとそれなりの人間関係が出来上がっている人にしか話せない。

そこで私は「さかなかみ」撮影中に浜野安宏氏から大切な事を教わっていたのを思い出した。確か食事中のこと、浜野氏が突然「ふるいちさんは今後どんな作品を作ろうと思ってるんだ?」と聞いてくれた。私は絶えず頭の中で幾つもの作品を温めているので、その中から浜野氏が喜びそうなのはどれだろう?と考え、その作品を丁寧に説明する準備をした。と、その時、「はい、おしまい。」え?と思ったが浜野氏曰く、プレゼンテーションの基本は始めに20秒で相手の興味を引きつける事なのだ。それは例えば食事の間とか、パーティーで一緒になった時だとか、「その話、詳しく聞かせてくれないか?」という言葉に繋がるチャンスは20秒なのだそうだ。それはいつも準備しておかなくてはいけないと。私が苦手な事だったので一瞬嫌な気持ちになったが、確かにその通りだとも思った。

「千年の糸姫」は千年の呪いを遂げようと現代に甦る糸姫と、ずっと側に仕えながらそれを止めようとする家臣との物語です。あらゆる紛争を終わらせる事ができるのは相手ではなく、同じ立場の隣人なのだというテーマを持った作品で、特に韓国や中国、できればイスラエルやパレスチナの人にも見てもらいたい作品です。

早口でまくしたてて20秒。これをいつでも言えるように覚えておこうと思う。

ことわっておくが、これは挑戦だ。途中で頓挫するかもしれないし、目標を達成できないまま作る事になるかもしれない。恥ずかしい事かもしれないが、きっと意味のある事だと信じて正直に報告していくつもりなので、応援よろしくお願いします。

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