提供:週刊実話

写真拡大

 著書『話す力』で、キャスター歴46年の集大成となるプロの“話し方”の極意を披露した草野仁。69歳になってもなお保たれる若々しさの秘訣を、実話読者に語ってくれた。

 --草野さんはNHKアナウンサー時代、自律神経失調症にかかるほど苦労されたそうですね。
 「目立つことが好きな“しゃべりの職人”に囲まれる環境に、精神的に疲れたのでしょうね(笑)。私は取材記者を志望して入社試験を受けてアナウンサー採用されましたから、表舞台に立ちたいタイプの人間ではなかったんです。普通、アナウンサーというのは自分が良い位置にいれば心地良いと感じるものですからね。そのうえ、入社してからトータルで10年間転勤が続いたこともあって、一人も男性の後輩がいない一番下っぱの立場で、先輩に気を使い過ぎたことも手伝っていたと思います。鹿児島から福岡へ転勤した直後の夕方の会議で突然、心臓の鼓動が気にかかりましてね。都合四つほど病院巡りをして診てもらいました」

 --アナウンス室勤務時代は、先輩からイジメにあったということですか。
 「いやいや、イジメというより、アナウンサーであれば誰もが切り抜けなければならない関門のようなものですよ。でも、私が師匠と呼ぶ羽佐間正雄さんは他の先輩とは違いました。後輩の技術をレベルアップさせようと手を差し伸べてくれる、数少ない先輩でした。当時のNHKには先輩が後輩を『オジサン』と呼ぶおかしな習慣がありましてね。羽佐間さんには何度も、『おい、オジサン』と呼び出されて教えていただきました(笑)」

 --具体的にはどんな教え方をされましたか。
 「仕事については必ず最初に褒めてから、悪い箇所を指摘してくれるのです。『人は褒められて育つ』とはよく言ったもので、はじめに褒められると聞く耳を持てますよね。ですから私も後輩に助言するときは、“羽佐間方式”でいきましたね」

 --後輩や部下と接する際、他に努めていることは?
 「わからないことは教えてほしいと、質問する姿勢を徹底することでしょうか。オジサン世代になりますと、適応力や順応力が若いころと比べて落ちてくるのは当然ですよね。だから、最新情報から出遅れたと感じたら、素直に聞く。上司だからといって、何事も部下より上である必要はないと思います。質問された部下だって『素直に聞いてくるなんて、かわいい上司だな』なんて思うのではないでしょうか。格好つけずに質問すれば、コミュニケーションの起爆剤にもなりますからね」