5回途中からリリーフした渡邊雄大(鹿児島城西)

「全員野球」で先輩に恩返し

 鹿児島城西の掲げる「全員野球」が随所にちりばめられた決勝戦だった。

 初回は各打者の「つなぐ意識」(原田塁主将)が、神村学園の右腕・新里 武臣を攻略した。 1番・金城太輔が初球をライト前に運んだのを皮切りに、5安打を集中し、相手のミスも絡んで打者一巡で5点を奪う。最速140キロ台の「新里対策」として、この1週間は打撃マシンを170キロに設定して打ち込んだ。3点目のタイムリーを放った原田主将も「ボールが遅く見えて、しっかり上から叩けた」という。 だが、2回以降は、立ち直った新里を攻めあぐねた。球威に加えて、スプリットやスライダーなど、勝負球の縦の変化球を振らされ、凡打が続く。その間に地力のある神村学園打線がジリジリと追い上げてくると、レフトで守っていた原田主将は「正直、足が震えるほど」の圧力を感じたという。2回以降の新里の投球術、都甲 将央、山本 卓弥、豊田 翔吾ら本チームでもレギュラーメンバーの打力は1年生離れしていた。謙そんではなく「個々の力では明らかに相手が上」(原田主将)と思えた。 そんな展開でも切り抜けられたのは、初回の5点で浮かれることなく「一つ一つ、できるプレーを淡々と」(捕手・新垣洸二)やり切れたからだ。

 先発の上原幸真、5回途中からリリーフした渡邊雄大は、13安打されたが、緩急でタイミングを外す丁寧な投球を最後まで心掛けた。2回表一死満塁でセンター前に2点タイムリーを浴びたが、三塁を狙った一塁走者を中継プレーで、三塁アウトをとっている。捕手・新垣は盗塁を刺し、神村学園の「足」を封じた。7回表は3番・山本の大飛球を、センター・田中翔馬の背走キャッチのファインプレーでチームが盛り上がった。ショート・金城を中心に内野陣も、無失策で守り切った。気の抜けない守備だったが、原田主将は「みんな笑顔で、楽しんで野球ができていた」ことに頼もしさを覚えていた。粘り強く守り抜いていた我慢が8回に花開き、扇のかなめで獅子奮迅の働きをしていた新垣が貴重な6点目のタイムリーを放った。 優勝もさることながら「この1カ月間、嫌な顔一つせず、僕らのサポートに徹してくれた先輩に恩返しができた」ことを原田主将は喜ぶ。「勝って終われたことがチーム全体の刺激になる。この結果に慢心せず2年後の自分たちの代につなげたい」と気持ちを引き締めていた。

(文=政 純一郎)