龍谷大平安vs智辯和歌山 近畿決勝！勝負に挑んだ選手たち！！
中野嶺投手(智辯和歌山)
近畿決勝！勝負に挑んだ選手たち！！
準決勝終了後、決勝に臨む両監督が語った一言である。
｢(春に選抜出場の可能性が高まる)ベスト4まできたので、別に負けてもいいんですよ｣(智辯和歌山・高嶋仁監督) ｢選手は勝ちたい。(優勝して)神宮大会に行きたいと言うんですよ｣(龍谷大平安・原田英彦監督)
高嶋監督の言葉は、まさに監督の心情。ベスト4に残った際には毎回のように発している。そして原田監督の言葉は、選手の心情である。 実際に打ったり抑えたりして喜ぶ、凡打したり打たれたりして悔しがる。勝負に入ったからには、やはり選手は“勝ちたい、負けたくない”というのが本音だ。
近畿大会決勝に臨む両チーム。指揮官たちがどのような采配をするのかにも注目が集まった。
発表されたスタメン。龍谷大平安の先発は、今大会4試合全ての高橋 奎二(1年)。智辯和歌山も今大会2試合で先発している中野嶺(1年)を持ってきた。野手もこれまでの先発出場選手とほとんど一緒。両指揮官とも選手の気持ちを汲んで、現状のベストメンバーで勝負してきた。ゲームは前半から動いた。 2回表、智辯和歌山は7番村田悠馬(2年)の犠牲フライで先制するも、その裏に龍谷大平安は8番石川のタイムリーで追いつく。次の3回も、智辯和歌山が4番長 壱成(2年)の犠牲フライで勝ち越したが、龍谷大平安は2番大谷 司の本塁打で追いついた。
両先発投手が早々に失点し、ポイントは継投となってきた前半。先に動いたのが高嶋監督。 大谷の一発の後、3番姫野 大成(2年)に二塁打を浴びた中野。高嶋監督はこのタイミングで継投を決め、二番手として金岡秀太(1年)を送る。ここまでのパターンならば、エースナンバーの東妻 勇輔(2年)が上がっていたが、準決勝で完投していたこともあり、この日の肩の作り出しは遅かった。 ｢東妻には急いで作れと言いました｣と高嶋監督。早い段階での継投がゲームプランとは少し違っていたのかもしれない。
龍谷大平安の打席は4番河合 泰聖(2年)。当然打ちたい気持ちはあったそうだが、｢投球練習を見てコントロールが定まっていなかった｣と感じ、冷静に球を見極めることを決めた。
河合の読み通り、金岡はストライクが入らない。ストレートの四球で歩かせ、5番中口大地(2年)のバントを挟んで、またもコントロールに苦しんだ。二、三塁から、6番�盒桐と�(2年)、7番常仁志(2年)に連続四球を与え、押し出しで勝ち越しの1点が龍谷大平安に入る。さらに8番石川に2打席連続のタイムリーを浴びた所で、高嶋監督は金岡を諦めて、背番号1の東妻を投入することを決めた。
4回、龍谷大平安は東妻を攻めて、5番中口のライト前ヒットに相手のミスが絡んで1点を追加。5対2とゲームを支配して前半を折り返した。
優勝の喜びを爆発させる龍谷大平安ナイン
前半を支配した龍谷大平安サイドのポイントも継投。 原田監督は、9番ピッチャーの高橋奎に廻る可能性があった5回裏に代打を準備する。だが前のバッターがダブルプレーに倒れ、結局代打を使うことはなかった。グラウンド整備が入る間に、代打を送られなかった高橋奎はキャッチボールをする。『交代か、続投か？』 原田監督の決断は、『交代』だった。
6回から投入したのは、右アンダースローの独特な軌道を持つ田丸由羅(2年)。今大会初登板である。田丸は代わりっぱなに四球を与えるが、ダブルプレーで打ち取り、三人で抑えてベンチに戻り、原田監督の期待に応えた。
しかし智辯和歌山打線も黙ってはいない。続く7回に4番長がタイムリーを放ち1点を返した。 ここで龍谷大平安の原田監督は、田丸から左腕の犬塚貴哉(2年)にスイッチ。だが5番片山 翔太(2年)のタイムリーで1点差となって8回、9回の終盤の攻防へと入った。
両チームとも8回の打順の廻りは下位。9回へ向けて、どのように繋ぐかが重要なイニングになる。守る方も、三人で抑えられるかどうかが8回のポイントだった。
先に8回のマウンドに上がった龍谷大平安の犬塚は、7番村田をファーストフライ、8番大石海斗(1年)を三振、9番東妻をファーストフライに打ち取り、三者凡退でベンチに戻った。 一方の智辯和歌山・東妻も、先頭の6番�盒桐い鬟札鵐拭璽侫薀ぁ�7番常をショートゴロに打ち取り、簡単に二死となる。
ところが、ここで落とし穴が待っていた。準決勝から8番に下がっていた石川に、レフトスタンドへ本塁打を浴びる。 ｢流れが悪かったので｣と打った石川はガッツポーズ。三者凡退で抑えられなかった東妻は悔しそうな表情を浮かべた。勝負の流れは、この一発で決定づけられた。
9回、一死一塁と智辯和歌山は反撃のきっかけを掴むが、最後はファーストゴロダブルプレー。 ｢ランナーが(ライナーと思って)戻ってくるのが見えた｣と、先に一塁ベースを踏んで、狭殺プレーにしたファースト・河合主将の冷静沈着な判断で龍谷大平安が勝負を制した。
｢選手がよくやったと思います｣と優勝インタビューで話した原田監督。 ｢彼らにとっては良い経験になったでしょう｣と敗れた高嶋監督も淡々と語った。
原田英彦監督を胴上げ『近畿大会は準々決勝までが勝負』という声もあるが、それは次の年の甲子園を考えた大人の見方。あくまで出場が決まるのは翌年の1月。実際に試合をする選手は、次の年の甲子園よりも、目の前の試合に“勝ちたい、負けたくない”という気持ちがほとんどだ。その気持ちで戦ってこそ、チームが強くなれるし、野球が上手くなる。 準決勝以降は選手と監督の気持ちにズレが出るのが否めないが、優勝すれば年内に明治神宮大会というもう一段階、上手くなる舞台があることが、選手にとってはモチベーションにもなっている。
この日の決勝のように、やはり選手の気持ちを汲んで、勝負に挑む姿勢が監督には求められていると感じた。
（文・松倉 雄太）
