英明vs帝京第五 後輩の奮闘を力に変え、復活遂げた英明のエース
英明先発・中西幸汰(1年)
後輩の奮闘を力に変え、復活遂げた英明のエース
試合前日の坊ちゃんスタジアム公式練習で、グラウンドがバッティングセンター状態のため普段なかなかできない守備練習を中心に精を出す英明。ただ、そこには1つの異変があった。
一塁守備に付いたのは昨年秋からエースの座を守り続けてきた左腕・赤川 大和(2年・左投左打・174センチ69キロ・香川第一中出身)。感触を確かめるためマウンドへ最初に登ったのは県大会では4試合にリリーフ登板・9回3分の2を無失点に封じた最速139キロ1年生左腕・中西 幸汰(左投左打・166センチ65キロ)。 香川智彦監督は「(2対8で坂出に敗れた)香川大会決勝戦直後に、もう秋季四国大会初戦の先発は言い渡してある」と話したが、それが誰を指すかはもはや明らかである。
ただ、英明指揮官の決断は帝京第五と戦う上では大きな賭けでもあった。相手先発は6月来抱えていた右肩痛から回復。腕の位置もサイドからスリクォーターに変えて練習試合では立命館宇治(京都)・大和広陵(奈良)を完封するなど、満を持してマウンドに立つ中野 翔太(2年)。
松本 凌太(2年)も「5番・遊撃手」として先発出場。その一方で県大会エースの左腕・西浦大生は腰痛と左ひじ痛で登録外。5番の先山竣涼三塁手も腰痛でベンチスタートとなったものの、「走・攻・守」の大黒柱が復帰するとあっては、「最初はストレートが高めに浮いてしまった」中西の緊張も十分理解できる。
ただ、中西の心は決して折れなかった。3回裏に一死一・三塁から3番・松本 将太中堅手(2年)に先制スクイズを許した後も、「低めに決まっていた」90キロ台スローカーブとチェンジアップを織り交ぜ5回1失点。「投手含めてよく守った」指揮官の賞賛に彼が含まれているのは間違いない。
5打数2安打1打点と4番の仕事を果たした松浦仁三塁手(2年)
そしてもう1人。「気持ちで投げている。僕も負けていられない」と中学から頼れる後輩に静かな闘志を燃やしていたのが「6番一塁手」で先発出場していた赤川である。まずは打席。 6回表二死一塁で「前の打席で納得いかないスイングで左邪飛に倒れていたので、自分のスイングをすることを心がけて」ライトフェンス上部直撃の価千金同点三塁打。続く中野公貴二塁手(1年・右投右打・171センチ68キロ・古高松中出身)の逆転ライト前タイムリーにつなげた。
そして6回裏からは中西をリリーフ。昨年から球速が10キロ程度上がり最速136キロに。それに伴いカーブからスライダーに変化球の決め球を変えるなどモデルチェンジに取り組んでいる赤川。 今夏、今秋の県大会ではともするとそれが迷い、そして制球難につながっていたが、この試合では6回の3四死球を無失点で切り抜けるとその後は無四球。「気持ちを出してキッチリ投げられた」というコメントと表情を見る限り「大きな賭け」の相乗効果はむしろ赤川にあったと言えよう。
「これが発奮材料になったかどうかはわからんけど」と当の指揮官は涼しい顔で語ったが、実はこれが赤川復活と中西飛躍の一挙両得を狙ったものだとしたら…。英明・初の選抜大会出場も十分視野に入ってくる。
(文=寺下 友徳)