先発した高橋奎(龍谷大平安)

1年生左腕の好投で龍谷大平安が快勝

「近畿初戦で誰を投げさせるかは未定。これから競争ですね」京都大会で優勝を決めた直後、絶対的エースのいないチーム状況を踏まえ龍谷大平安・原田監督はそう話していた。センバツ出場へとつながる大事な試合、原田監督が先発マウンドに送り出したのは公式戦初登板となるベンチ入り唯一の1年生・高橋奎だった。

「中学校の時から大きな大会でもひょうひょうと投げる。コントロールと度胸が良かった」という理由から抜擢された高橋奎は、原田監督の期待をはるかに超える好投を見せた。

 初回、バントの構えで揺さぶる近江の1番・堀口に対し2ボールとカウントを悪くしてしまうが、2ボール2ストライクの平行カウントまで持ち込むと、センターフライに打ち取る。続く2番・奥田にレフト前ヒットを許すがファースト・河合の好守もあり後続を断ち無失点に抑える。すると打線が早速援護。先頭の徳本が左中間へヒットを放つと快足を飛ばし一気に二塁へ。

 2番・石川が手堅く送り3番・姫野の三塁線を破るタイムリーヒットで1点を先制。

 「打ってやるからお前は思い切って行け」と先輩から言われていたという高橋奎は、2回も二死からフォアボールを1つ与えたものの無失点。すると攻撃では一死から7番・常がレフトスタンドへ一発を放ちさらに加点。徐々に龍谷大平安がペースをつかんで行く。

 3回は共に三者凡退。龍谷大平安の攻撃を初めて無失点、3人で抑えた近江にとって3番から始まる4回の攻撃は、流れを引き寄せるためにもどうしても1点が欲しい回だった。しかし、3番・堀井、4番・土肥が内野フライに倒れると5番・岡の当たりは龍谷大平安のショート・石川の好守に阻まれる。

 三遊間の深いところで捕球直前にバウンドの変わる難しい当たりだったが、捕球するやノーステップで一塁へ送球。ファースト・河合もハーフバウンドの送球をすくい上げ、クリーンアップの攻撃を3人で終わらせた。この後も再三の好守で高橋奎を助けることになる石川、打球の処理機会は全部で8度、27個のアウトの内、1人で約3分の1を占めていた。

打線を牽引する3番姫野(龍谷大平安)

 追加点の欲しい龍谷大平安は5回、一死から徳本がレフトのライン際に落とすツーベースヒットを放つと石川がフォアボールを選びチャンス拡大。一死一、二塁となったところで近江は先発・小川から軟投派左腕・有本にスイッチ。

投球練習を終えた直後、龍谷大平安は近江バッテリーの隙を突き姫野への初球にダブルスチールを成功させる。一死二、三塁で打順はクリーンアップ、この願っても無い絶好機に有本のボークにより3点目を奪うと、姫野、河合が今年のチームを象徴する強打を披露。山なりの緩いカーブに崩されることなく連続タイムリーツーベースヒットを放ち5対0とする。

 セーフティリードをもらった高橋奎はスイスイと好投。「40球ぐらい」と送り出した原田監督の期待をはるかに超え、8回まで2安打1四球で無失点。三塁を踏ませぬ好投に加え3〜7回の5回はパーフェクト。近江のキャプテン・美濃部は、「ボール球に手を出してしまって、狙い球も絞り切れなかった」と悔しそうな表情を浮かべた。

 高橋奎は完封目前の9回、2つのフォアボールでピンチを招き中田のリリーフを仰いだが堂々たるピッチングでチームをベスト8へ導いた。右わき腹通、手の骨折と故障が続き、京都大会ではベンチ外。投げ込みを再開したのは9月になってから。京都大会決勝で先発した元氏を故障で欠くだけに、高橋奎の好投を誰よりも喜んだのは原田監督に違いない。「打線は去年より上。相手の打線を見ながら投手をいかにやりくりするか」というチームがつかんだ価値ある1勝。

 次戦で奈良1位・智辯学園と相見える。

(文=小中翔太)