「シャア専用オーリス」市販モデルの前に立つ、ジオニックトヨタの特別広報部員・古川愛李(SKE48)。記者発表会には、ジオン公国の制服をモデルにした衣装で登場した。大のシャアファンである古川は、「私のためにつくっていただいたので、すごいサイズがぴったりで、しかもジオン軍のデザインというので本当にシャア大佐の部下になれた気分です」と喜びをあらわにしていた。

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「機動戦士ガンダム」のキャラクターショップに行くと、シャア・アズナブルにあやかって「シャア専用」と冠されたグッズが結構見つかる。いつだったか、私が友人と行ったショップに、赤地に「シャア専用」の文字がプリントされたリストバンドがあって、いくらシャアが“赤い彗星”の異名をとるからといって、これはひどい! と激しくツッコミを入れたものだ。シャア専用と名乗るのであれば、それ相応の美学をもって商品化してくれないかぎり、「認めたくないものだな」と、シャアでなくとも思わず言いたくなる。

そこへ行くと、このたびトヨタマーケティングジャパンが市販モデルの車両を公開した「シャア専用オーリス」は本気だ。何しろ、シャアらしさを徹底的に追求し、実現しているのだから。

シャア専用オーリスとはもともと、トヨタの乗用車であるオーリスをベースに、2012年8月にコンセプトカー(試作車)として発表されたもの。その後、年が明けて2013年1月には同車の市販化をめざして、シャアの属するジオン公国とトヨタが提携し、互いの持つ技術力を結集するという設定で、ネット上にヴァーチャルカンパニー「ジオニックトヨタ」(ZT)が設立された。

ZTでは一般から“社員”を募集、その数は約2万6千人におよぶ。シャア専用オーリスの市販モデル開発は、これら社員の意見を反映しつつ、トヨタモデリスインターナショナルのデザイン・製造により進められてきた。そして2013年8月26日、東京・台場の「MEGA WEB」での記者発表会にてついにお披露目されたのである。

その会場では、トヨタの関係者のほか、ZTの特別広報部員を務めるアイリン・フルカワこと古川愛李(SKE48)、ZTの特別サポーターである平将明・衆院議員、そしてシャアといえばこの人、声優の池田秀一といった人たちが登壇した。ちなみに古川と池田はこれが初対面ではなく、昨年リリースのSKE48のシングル「キスだって左利き」の付属DVD収録の特典映像で対談している(大のガンダムファン、それも憧れの人はシャアという古川が、池田から「いい女になるのだな」とシャアの名ゼリフを直に語りかけられ涙する場面は必見です!)。

発表会が始まってもしばらくはベールに包まれていたシャア専用オーリス・市販モデルだが、池田の「見せてもらおうか、私のオーリスの出来栄えとやらを」のセリフとともに、スタッフの手でベールが取られ、その姿をメディア関係者の前に現した。鮮やかな赤い車体、精悍なフロントマスク、屋根の後部に取りつけられたグレートアンテナ――全体的にも、そして各パーツもじつに魅力的である。

さて、先ほどベールを取ったスタッフ2人は、じつはZTの社員。社内での広告宣伝会議にも参加して、熱心に意見を出したという。2人のうち男性のマツタニさんは、きょうの大役を務めた感想を聞かれ、「(ベールを)めくったとき、フロントマスクを見て、ものすごくかっこいいのでゾクゾクしました」と答えていた。「(シャア)大佐への思いが叶って感無量」と語った女性のツチダさんは、開発に参加するに際し、自分の希望を記した10ページもの嘆願書を提出したという。熱い!

とはいえ、一口に「シャア専用」といっても、そのイメージはZTの社員のあいだでもかなり違ったようだ。登壇したトヨタ自動車・ネッツ店営業部の嶋津晴之とトヨタモデリスインターナショナルの松本雅治(デザインを担当)によれば、赤いということ以外は、「3倍速い」など性能面を強調する人も多かった一方で、「シャアというともっとおしゃれな感じではないか」との意見もあったという。こうした人によってさまざまに異なる要望にいかに応えるか? トヨタ側が打ち出したのは「パーソナルカスタマイズ」というコンセプトだ。

今回公開された実車に装着されたオリジナルパーツは19種類。これらすべてをコンプリートするというのも一つの考え方だが、パーツを取捨選択することで、ユーザーが自分の思い描くシャア専用のクルマに仕立てることもできる。

「“アフター・パーツ”という言葉があるように、従来、クルマファンにとってパーツというものは、クルマを購入後にカスタマイズして楽しむものだった。それに対し、今回のシャア専用オーリスをきっかけに、ほしいパーツがあるからそのクルマを購入していただく、いわば“ビフォー・パーツ”という新しい流れができたらいいなと思っています」(嶋津)。

「すべてのパーツをコンプリートしていただいてもいいですし、一つだけパーツを購入していただいても、シャアのオーラだとか、『ガンダム』の持ってるクールでかっこいい世界観をファンに感じてもらえるようデザインしました」(松本)

とりわけ注目すべきは、フロントスポイラーやサイドスカート。このパーツでは本体の塗装よりワントーン暗い、つや消しの赤が使われている。これを装着することで、ジオンのモビルスーツの特徴であるツートンカラーを再現できるというのだ。

このほか、クルマの各部分に貼る「ZTコーションラベル&マーキングデカールセット」というのも用意されている。これはガンプラについているデカールを参考にデザインされたもの。いわば、実物大のガンプラをつくるような感覚で楽しもうという趣向である。

数量限定のアイテムもあり、その一つが、900台限定の「シャア専用オーリスナビ」だ。ただし「シャア専用」なのにシャア自身がナビしたらおかしいだろう、というわけで音声ガイドそのものは通常の女性の声で、要所要所でシャア(声をあてるのはもちろん池田秀一)の名言やオリジナルのセリフが再生される仕様となった。

収録された音声のうち、たとえば「ハートフル音声(アニバーサリーボイス)」は366の名言を集めたもので、それぞれ1年に1回(2月29日分にいたっては4年に1回!)しか再生されない。元日の「私もよくよく運のない男だな」というセリフなど、初詣に出かける際にもぜひ聞きたいものである。

なお、気になる価格だが、全パーツそろえると105万6825円、ベースとなる車両本体は種類によって異なるが、今回展示された車種(RS"S Package")でいえば225万円と、合計330万6825円(パーツ装着費用は含めず)となる。もちろん、パーツは自分で選べるわけだし、発表会で特別広報部員の古川が提案していたように「いきなり全部買うのは勇気がいるので、何カ月に一つずつデコレーションしていく」といった選択肢もあるだろう。

近年、その価格もあって、若い世代を中心にクルマを持っていない、あるいは興味すら抱かない層が増えている……とはよく指摘されるところである。じつは、ほかならぬ今回開発したZT社員のうち2割は、現在クルマを持っていないと答えたという。このプロジェクトがあったからこそ初めてクルマに興味を持ったという人も少なくないようだ。古川もまた、「(いままでクルマには)興味はそんなになかったんですけど、このお仕事させていただいて、いろんな裏側を知って、楽しさも知れたので、これからもっと勉強できたらなと思います」と、記者発表会後の囲み取材で語っていた。

今回のプロジェクトについて、「まず思ったのは、トヨタが柔らかくなったということ」と感想を述べたのは、記者発表会に登壇した平将明議員だった。たしかに、お堅いイメージのあったトヨタが、シャア専用オーリスの市販化にあたってアイデアを広く募り、遊び心も満載のクルマを実現させたのは、ちょっと意外でもある。しかしそれも、先述のような現状に対するトヨタのひとつの挑戦なのだと、私は受け取りたい。クルマにあまり関心のない人たちをいかに振り向かせるかというこの挑戦、少なくともガンダムファンの心はがっちりつかめることだろう。シャア専用オーリスの市販モデルはそれだけのクオリティを持っている。

同車の発売日は2013年10月1日、購入予約はすでに8月26日から始まっている。これと前後して一般展示も行なわれ、幕張メッセで8月31日〜9月1日に開催される「キャラホビ2013」を皮切りに、「京都国際マンガ・アニメフェア2013」(9月7日〜8日、みやこめっせ)、「大ぽぷかる展」(9月14日〜15日、愛・地球博記念公園)と各地を巡回する予定だ。ちなみに上記会場のうち、愛・地球博記念公園の所在する愛知県長久手市にはトヨタ博物館もある。クルマの歴史と未来に興味のある方は、ぜひあわせて行かれることをおすすめしたい。(近藤正高)