左から大森望、栗原裕一郎、米光一成、豊崎由美。豊崎が飲んでいるのは特別メニューの社長の毒舌レッドアイ。辛口です。

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「これは石原慎太郎の襲名披露ですよ。慎太郎を襲名するのは俺だ!」

大森望と豊崎由美が文学賞を批評していく『文学賞メッタ斬り!』シリーズのイベント、「帰ってきた『文学賞メッタ斬り!』」が新宿ロフトプラスワンで行われた。登壇したのは大森望・豊崎由美と、栗原裕一郎と米光一成。ニコニコ生放送で芥川賞の解説をしている栗原、『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』の世界最速レビューをした米光。純文メガネ男子×エンタメメガネ男子がメッタ斬りコンビの間に並ぶ。
そんな四人が今回斬ったものは「芥川賞選評」と「ベストセラー」。

かつて芥川賞の話題の中心は石原慎太郎だった。選考会でも傍若無人にふるまい、選評も超絶辛口&毒舌。作品の批判をしながら日本社会の批判にアツくなることもあった。メッタ斬りコンビは石原慎太郎の一挙手一投足に大注目していたものの、2012年1月に石原が選考委員を電撃辞退(それを受けて『文学賞メッタ斬り!ファイナル』が出版された)。「慎ちゃん、君が選考委員を辞めたら、芥川賞が落ち着いちゃったよ」というような状態だった。
じゃあ、石原がいなくなったあとの「主役」は誰になるのか?

村上龍だった。

第149回芥川賞の受賞作は藤野可織の『爪と目』。幼い少女〈わたし〉の視線で、継母の〈あなた〉が語られる、ホラーテイストのある小説だ。発売中の文藝春秋には、『爪と目』をはじめとする芥川賞候補作に対する各選考委員の選評が掲載されている。村上龍の選評は、一行目からトバしている。

"今回は、低調だった。わたしが、興味を持って読めたのは、『すっぽん心中』だけだったが、作品の質と完成度は低く、積極的に推すには至らなかった。"

「『今回は低調だった』。…これは石原慎太郎の襲名披露ですよ。慎太郎を襲名するのは俺だ! たぶんこれからずっとやる。『今回も低調だった』!」
「村上龍と石原慎太郎は思想的にはほとんど一緒なんですよね。日本的な共同体が嫌いで戦後民主主義大嫌い、世間的なファシズム超OK!の人なんで」
ウキウキとツッコミを入れる豊崎、同意する栗原。石原慎太郎作品を読み解くトークイベントをやっている二人(そのようすは8/26発売『石原慎太郎を読んでみた』で詳しくどうぞ)。そんな二人が太鼓判を押す石原慎太郎っぷり。襲名だー!

「わたしはさ、村上龍の選評でカチンと来たとこがあってさ」

豊崎が挙げたのは、いとうせいこう『想像ラジオ』批判の部分だ。

"震災後しばらくして被災地を訪れたとき、宮城県のある海沿いの村が、残骸の山と化して、そのままほとんど放置されているのを目にした。倒壊した家屋、散乱した家具、海から流されてきて逆さになって転がっている船、やがてわたしは、それらの荒涼とした風景の中に、無数の赤い旗が点々と立っていることに気づいた。赤い旗は、亡くなった人が発見された地点らしかった。その赤い旗は、生涯わたしの中で消えることはない。"

豊崎「やらしー」
米光「自分でもう小説書き始めちゃってますよね。お前、書けよ!」
栗原「でもこの調子で書いたら、よほど『想像ラジオ』よりいい小説になるんじゃないですか?」
米光「お、おおー」
豊崎「わっかんないよ、そんなの〜」
米光「書かせてくださいよ、編集やって。村上龍版『想像ラジオ』読みてえなぁー
栗原「俺、別に編集じゃないですから」
豊崎「うーん、これはアレでしょ? 千野帽子さんがTwitterですげー怒ってる『自分語り』ってやつだよね?」
米光「なんでいま千野帽子さんを枕詞に使ったのかよくわからない!」
豊崎「何かをつまらないとか面白いとかって言う時に必ず自分の話から始めないと気が済まない人の一人ってことだよね。『その赤い旗は、生涯わたしの中で消えることはない』。『それほどの強い思いを持っている自分が書いていないのに、お前が書くな!』ってことでしょ? すごいエゴイズムだよね」
米光「すばらしいっ!」
第1代石原慎太郎は選評に社会批判を織り込んだが、第2代は小説を書き始める!

続く第二部では、ベストセラーを俎上にあげて斬る。
最初に取り上げられたのは、有川浩の『空飛ぶ広報室』。

米光「萌え小説としてはジャストフィット最先端。読んでない人読むといいよ、女子は!」
豊崎「萌えって、男と男で言ってるんじゃないの? 男と女で?」
米光「男と女で! 最初のラブシーンが、セックスでも抱くのでもなく、頭撫でる! これがジャストフィット! 男らしい男がボロボロ泣いて、『撫でて』って言うんですよ! 俺の中の女子が総動員キュンキュンキュンキュンって! それが一話の盛り上がり。それでね、二話でよかったのがね…」
栗原「そ…そんなによかったんですか」
アツく語る米光に対して、比較的冷静な三人。特にクールなのが栗原だ。相槌も「へー」「ふーん」。栗原の感想は「なんか…日本語が乱れてるなって…」。

栗原「僕は萌えというものをまったく解さないのでね」
豊崎「わたしもなにも感じなかったんですよ。乙女が心の中にいないから…萌えポイントが、栗原さんよりはあるけど、米光さんほどはない」
米光「これ読んでキュンってしない人いるのー」
栗原「俺、逆に宮内悠介さんの『ヨハネスブルグの天使たち』で、空から初音ミクが降ってくるのはわかるの」
米光「キュンってするんですか」
栗原「キュンとはしないけど、あー空から初音ミクが降ってくるんだねーってのはわかる。でも『空飛ぶ広報室』はさっぱりわからない。降ってくるのが初音ミクだからいい…」
大森「説明できないという点においてはまったく同じ! 人は自分の萌えについては説明できない」

米光vs他三人の構図はこのあとも続く。村上春樹『多崎つくる』に対しては、「どこらへんがほめどころなの?」と問い詰められる。
豊崎「ほんと知りたいんだけど。萌え?」
米光「なんでみんなそんなにけなしてるかわかんないんだけど…。今まで春樹がやってきたことの最終章というか、エピローグというか」
豊崎「ちゃんと褒めてくださいよ。おんなじようなものずっと読まされても平気なの?」
米光「極端に言えば、春樹くんが友達でね、半年に一回くらい飲み会で会って、いい話聞いたなーって、そういう感覚で読んでるから…なんかけなしてるっぽくなってきたな!」
栗原「もうなげーよ!とか途中で言ったりしないの?」
大森「こないだ聞いたよそれ!とか」
栗原「また自慢かよ!」
大森「こないだの話と違うよ!」
米光「なんか…なんか俺個人がいじめられてる気になってきた…俺そんな自慢話しないよ?」
米光のハの字気味の眉がさらにハの字になる。今晩いちばん斬られたのは芥川賞選評でもベストセラーでもなく、米光だったかもしれない。

石原慎太郎と萌えが連呼されたメッタ斬りの夜。紹介しきれなかった毒舌ツッコミは以下。

■深読み
「深読みしてあげたんだね」(米光)
「深読みしたけどわかんなかったんだ」(豊崎)
「深く読まなかったからね!」(米光)

■意外とキビしい
「『少しずつ推しました』。最近川上さんこれ推しなんですよ」(豊崎)
「ポエム選評ですね」(栗原)
「でもこれけっこうキツい。『少し』を消すとキツいこと言ってる」(米光)

■『すなまわり』と『爪と目』は双子説
「似てねぇよ。全然似てねえよ」(栗原)
「違う町で生まれた赤の他人としか思えないよ」(大森)

■選評なんだから
「コレ、選評になってないじゃないですか」(栗原)
「最近の堀江さんは『つなげる』ことに全勢力の八割くらいを使ってる」(大森)
「選評なんだから…」(栗原)

■大森望の叙述トリック
「俺いまだに忘れられないもん、大森さんが絶賛してる本を買ったら次の本でけなしてた」(米光)
「絶賛したわけじゃない、帯に書いただけ」(大森)
「絶賛してるように見える帯。僕が騙されたんですよ」(米光)
「大森さんに言われたことがある。『(帯の)どこに面白いって書いてある!?』って。キリッ」(豊崎)
「『今年度野球ノワールのベストワン』。野球ノワール今年度一冊しかない!」(米光)
「あれはすごい小説なんですよ! よくあんなもの読みましたね。あれは歴史に残る小説です(谷川哀『リベンジ・ゲーム』のこと。2002年12月、角川書店刊)」(大森)
「ほめ方がうまい」(米光)

(青柳美帆子)