「幸福を感じ取る器」は大きい方がよいか/小さい方がよいか/村山 昇
この問いに対する答えは、ここでは特に書きません。おそらく百人考えれば、百様の答えが出てくるでしょう。あるいは、自分のなかでも答えが1つに収束しない場合も起こります。それはそれでいいのです。その思索を巡らせるプロセスこそが「哲学する」(=フィロソフィー=智を愛する)ことにほかなりません。哲学の目的は、必ずしも明解に答えを出すということにはありません。考える行為をする、考える作業を愛することが哲学の主目的です。
【思索や議論を深める材料】
□「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」 ───『史記』
(えんじゃく いずくんぞ こうこく の こころざし を しらん や)
ツバメやスズメのような小さな鳥には、オオトリやクグイのような大きな鳥の志すところは理解できない、の意味。
□「満足した豚よりも不満足な人間、満足した愚か者よりも不満足なソクラテスであるべきだ」。 ───ジョン・スチュアート・ミル(英・哲学者)
□「知足者富」(足るを知る者は富めり) ───老子
□鋭い者にとって、この世界は憂いに満ちており、
鈍い者にとって、身の周りは唄・酒・恋に満ちている。 ───(出典不明)
□サム・クックの歌った『ワンダフル・ワールド』 (1960年のヒット曲)を口ずさんでみましょう。
Don’t know much about history
Don’t know much biology
Don’t know much about a science book
Don’t know much about the French I took
But I do know that I love you
And I know that if you love me too
What a wonderful world this would be
Don’t know much about geography
Don’t know much trigonometry
Don’t know much about algebra
Don’t know what s slide rule is for
But I know that one and one is two
And if this one could be with you
What a wonderful world this would be
……(続き略)
───“Wonderful World”by Sam Cooke
歴史のことなんかよく知らない
生物学なんかよく知らない
科学の本のことなんかよく知らない
履修したフランス語のことだってよく知らない
でも、僕は君を愛していることを知ってるさ
君も僕のことが好きだって知ったなら
どんなに素敵な世界になるだろう
地理のことなんかよく知らない
三角法なんかよく知らない
代数学のことなんかよく知らない
計算尺を何に使うのかだってよく知らない
でも、「1+1」が2だってことは知ってるさ
そしてその1が君だったなら
どんなに素敵な世界になるだろう
……
□『新・平家物語』(吉川英治);最終章「吉野雛」
平家一族は、保元・平治の乱という争いを経、70年に及ぶ栄枯盛衰の物語に幕を閉じます。吉川英治さんは長編歴史小説『新・平家物語』を締めくくるにあたって、庶民の老夫婦を登場させます。老夫婦は吉野の桜を見に来ており、旅籠でこしらえてもらった弁当をひざの上に広げて、二人、山桜を眺めている───(以下、引用)
自分たちの粟ツブみたいな世帯は、時もあろうに、あの保元、平治という大乱前夜に門出していた。───よくもまあ、踏み殺されもせずに、ここまで来たものと思う。そして夫婦とも、こんなにまでつい生きて来て、このような春の日に会おうとは。
絶対の座と見えた院の高位高官やら、一時の木曾殿やら、平家源氏の名だたる人びとも、みな有明けの小糠星(こぬかぼし)のように、消え果ててしまったのに、無力な一組の夫婦が、かえって、無事でいるなどは、何か、不思議でならない気がする。
「ほら、鶯(うぐいす)が啼いてるよ。あれも迦陵頻伽(かりょうびんが)と聞こえる。極楽とか天国かというのは、こんな日のことだろうな」
「ええ、わたくしたちの今が」
「何が人間の、幸福かといえば、つきつめたところ、まあこの辺が、人間のたどりつける、いちばんの幸福だろうよ。これなら人もゆるすし、神のとがめもあるわけではない。そして、たれにも望めることだから」
【思索や議論を深める材料】
□「燕雀安んぞ鴻鵠の志を知らんや」 ───『史記』
(えんじゃく いずくんぞ こうこく の こころざし を しらん や)
ツバメやスズメのような小さな鳥には、オオトリやクグイのような大きな鳥の志すところは理解できない、の意味。
□「満足した豚よりも不満足な人間、満足した愚か者よりも不満足なソクラテスであるべきだ」。 ───ジョン・スチュアート・ミル(英・哲学者)
□「知足者富」(足るを知る者は富めり) ───老子
□鋭い者にとって、この世界は憂いに満ちており、
鈍い者にとって、身の周りは唄・酒・恋に満ちている。 ───(出典不明)
□サム・クックの歌った『ワンダフル・ワールド』 (1960年のヒット曲)を口ずさんでみましょう。
Don’t know much about history
Don’t know much biology
Don’t know much about a science book
Don’t know much about the French I took
But I do know that I love you
And I know that if you love me too
What a wonderful world this would be
Don’t know much about geography
Don’t know much trigonometry
Don’t know much about algebra
Don’t know what s slide rule is for
But I know that one and one is two
And if this one could be with you
What a wonderful world this would be
……(続き略)
───“Wonderful World”by Sam Cooke
歴史のことなんかよく知らない
生物学なんかよく知らない
科学の本のことなんかよく知らない
履修したフランス語のことだってよく知らない
でも、僕は君を愛していることを知ってるさ
君も僕のことが好きだって知ったなら
どんなに素敵な世界になるだろう
地理のことなんかよく知らない
三角法なんかよく知らない
代数学のことなんかよく知らない
計算尺を何に使うのかだってよく知らない
でも、「1+1」が2だってことは知ってるさ
そしてその1が君だったなら
どんなに素敵な世界になるだろう
……
□『新・平家物語』(吉川英治);最終章「吉野雛」
平家一族は、保元・平治の乱という争いを経、70年に及ぶ栄枯盛衰の物語に幕を閉じます。吉川英治さんは長編歴史小説『新・平家物語』を締めくくるにあたって、庶民の老夫婦を登場させます。老夫婦は吉野の桜を見に来ており、旅籠でこしらえてもらった弁当をひざの上に広げて、二人、山桜を眺めている───(以下、引用)
自分たちの粟ツブみたいな世帯は、時もあろうに、あの保元、平治という大乱前夜に門出していた。───よくもまあ、踏み殺されもせずに、ここまで来たものと思う。そして夫婦とも、こんなにまでつい生きて来て、このような春の日に会おうとは。
絶対の座と見えた院の高位高官やら、一時の木曾殿やら、平家源氏の名だたる人びとも、みな有明けの小糠星(こぬかぼし)のように、消え果ててしまったのに、無力な一組の夫婦が、かえって、無事でいるなどは、何か、不思議でならない気がする。
「ほら、鶯(うぐいす)が啼いてるよ。あれも迦陵頻伽(かりょうびんが)と聞こえる。極楽とか天国かというのは、こんな日のことだろうな」
「ええ、わたくしたちの今が」
「何が人間の、幸福かといえば、つきつめたところ、まあこの辺が、人間のたどりつける、いちばんの幸福だろうよ。これなら人もゆるすし、神のとがめもあるわけではない。そして、たれにも望めることだから」