「おおかみこどもの雨と雪」
7月21日(土)、全国ロードショー。

(C)2012「おおかみこどもの雨と雪」製作委員会

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「あいつ……赤木は……歩くだろう……! 何も気にかけず。スッ……と庭に降りるだろう……!」

福本伸行の代表作『アカギ』の主人公、赤木しげるは、先行の『天』という作品の一登場人物だった(『アカギ』はスピンオフ作品なのだ)。上の引用は『天』から。ヤクザの組長、原田のセリフだ。
原田は言う、自分は、屋敷の縁側から靴下のままで庭に降りることですら縛られていると。せいぜい靴下が汚れたり、そのまま上がれば廊下が汚れるくらいだし、そんなもの汚れを払えばいいだけ。そう言われてもやっぱり気になってしまうのだと。だがあいつは……。

細田守最新作「おおかみこどもの雨と雪」(7月21日土曜日公開)を試写会で観て、赤木しげるを思い出したのだ。

朝起きて、雪が降り積もっている庭めがけて子どもたち、雪ちゃん(紛らわしいからここだけちゃん付けします)と雨は、うわーっと喜んでダイブする。
で、それに続いてお母さんの花も飛び込んじゃう。
一家3人笑顔で、これは良いシーンだなー。
……って、大人が、寝起きで、パジャマのまま、サンダルも履かず、雪に飛び込めるか?
俺は、考えた。
考えた。
結論、無理。
さむーい! って言ってストーブ付けて布団かこたつにくるまって3DS起動します。絶対。ツイッターもやるよ。
「おおかみこども」は、こういう「いつのまにかできなくなったな……」ということをやってのけるシーンが多くて、スカっとする。

花と雪と雨は、降り積もった雪のなかを駆けまわる。
思わず走りだしてしまう雪と雨を、横からカメラが捉える。雪ちゃんが、走りながらクルンっと一回転しておおかみになりそのまま駆けていく。
カメラは雨に切り替わり、同じようにおおかみに変身するのだけど、一瞬、誰も映らない背景だけのシーンになる。
雨は、ちょっとだけカメラに映るのが遅れてしまったのだ。
引っ込み思案で体も弱くて、雨はいつも雪に振り回されっぱなしなのだ。

とにかく、おおかみこどもたちがかわいいのなんの。
姉の雪は、アパートの狭い部屋のなかじゃ、活発さと好奇心旺盛さを抑え切れない! とばかりに走り回る。子どもの姿なら、ふつうに駄々をこねているのと変わらないのだけど、ひとたび、ぶるるるるっとおおかみに変わってからの躍動感がすごい。ってか、ぶるるるるっがかわいい。ぶるるるるっですよぶるるるるっ!

そうそう、はるかぜちゃん(春名風花)と、弟の春名柊夜くんと、一緒に試写会を観にいったのだ。小学校六年生と四年生の姉弟、リアル雪と雨ですよ。以前、エキレビ!にインタビューで登場してくれたのが縁だ。
はるかぜちゃんは、「おおかみこども」に雪の同級生、黄色い髪飾りを付けた、荘子役で出演している。
はるかぜちゃんは前のめりになって、食い入るように画面を観て、柊夜くんは、シリアスなシーンに立ち上がっていたり、こころの動きに全身を反応させているようだった。雪や雨とおんなじだ。


「おおかみおとこの雨と雪」のあらすじを紹介しておこう。

私が好きになった人は「おおかみおとこ」でした。

主人公、大学生の花は、彼と出会い恋に落ちる。彼の名前は、作中で呼ばれることは一度もなく、免許証をみても、常に名前がぼかされていて、わからない! 伊東……と書いてあるような気もする。
やがて、彼がおおかみおとこだと知ることになるけど、花の気持ちが変わることはなく、一緒に暮らし始める。やがて、ふたりの子どもが生まれる。雪の日に生まれた姉の雪と、雨の日に生まれた弟の雨。
ある日、おおかみおとこの彼の死によって、幸せに暮らしていた家族に、急に転機が訪れる。「子どものころ、どんな風に育ってきたか聞きそびれちゃった」
ふたりのおおかみこどもを抱え、子育てに苦労する花。
本でおおかみの育て方を勉強しても、やっぱり限界がある。子どもが病気になったとき、小児科に行けばいいのか、動物病院に行けばいいのかすらわからない。
部屋の家具を噛み、夜になると遠吠えをする。
育ち盛りの雪と雨は、都会のアパート暮らしでは満足できないとばかりに暴れまわる。
花は子どもたちが住みやすい環境を求め、自然豊かな田舎に移り住む。ボロボロの民家で、新たな生活をはじめる。

なんだか、世界から追放された一家みたいなシリアスになってしまったけど、けっしてそうじゃない。でも、「細田守ぴあ」で、細田守と対談していたキャラクターデザイン、貞本義行によると、作品全体のイメージとして、是枝裕和監督の「幻の光」を参考にしていたそう。
「幻の光」、観た観た。幸せな日々をおくっていたはずの夫婦。だが夫は、ある日、謎の死をとげる、自転車の鍵だけを残して。息子とふたりきりになった妻は、能登の小さな村に再び嫁いでいく。というストーリー。たしかに似てる!

観ていて気になったのが、「吐く」シーン。
主要人物全員に用意されているのだ。
花はつわりで。
雪は乾燥剤という人工物を食べて。
雨は絵本のおおかみはなんで悪役なのか考えすぎて(ここは歩きすぎて疲れたのかも)。
吐くシーンはみんな違っているが、人とおおかみが何らかのかたちで交じり合ったときに、とにかく、みんな吐いているのだ。
花、雪、雨は、物語最後にそれぞれの気持ちに答えを出し、自ら決めた道に進んでいる。人間として生きるのか、おおかみとして生きるのか。ここでは結論は書かない。
だけど、自らどう生きるか折り合いを付けた3人は、迷うことはないだろうし、きっと吐くこともないんじゃないかな。
(加藤レイズナ)