悩める百合が好きな男達を描いた作品『百合男子』。二巻が発売されました、が表紙ごついですね。ドラマCDにキャラソンCDまで発売されるという人気っぷり。そんなに百合男子って増殖してるの?そもそも何が悩みなの?

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男なんかいらない、女の子同士がいいんじゃないか!「百合男子」増加中!?(エキサイトレビュー) - エキサイトニュース
第一話が掲載された時に書いた記事ですが、この「百合男子」という作品が、ドラマCD化&キャラクターソングCD化が決定いたしました!
……って、ちょっと待て。
そんなに人気あるのこれ!? 
そんなに百合男子増えてるの!?
百合男子 キャラクターソングCD &ドラマCD 公式サイト
あるみたいです。

今回ちょうど『百合男子』二巻が発売され、以前の記事からだいぶ様相がかわってきたので、改めて「百合男子」とはなにか作品を通じて探ってみましょう。

まず「百合」とは「ガールズラブ」のこと。……なんですが、もーっと最近は広義になっています。
女の子同士が手をつないでいたり。仲良く二人で出かけたり。ふざけてじゃれあったり。
別に「ラブ」じゃなくても、女の子二人が仲良くキャッキャウフフしていたらそれってドキドキするじゃないか!……という心理を一般的に「百合」といいます。
基本的にはフィクション(マンガ・アニメ・小説等)に対して使う用語ですが、最近ではもっと大雑把で、アイドルや声優の仲良し加減や、町中で見かけた女の子同士のワンシーンでドキドキとときめくことすらも含みます。

ここで、「えっ?」となった人。あなたは鋭い。
見てときめくのは勝手かもしれない。フィクションに対してときめくのはよかろう。
しかし全くの第三者がたまたま女の子同士で仲良くしているのを見て、それを表に出すのはどうなんだろうか?
これが、この作品の持つ「悩み」につながっていきます。

『百合男子』は見ていただいて分かる通り、表紙に出てるのはいかつい男です。すごいよね、表紙じゃ判断できないよ。
出てくるのも7割方男です。
なので、純粋に百合を楽しみたい人にはオススメしません。
作者や、百合大好きな主人公の花寺啓介ですら、そう言ってます。だよね。見たいのは女の子同士だよね。普通は。

ようするに、百合そのものを描いた作品ではなく、メタ的に「百合を好きな男子」を描いた作品がこの『百合男子』です。
以前の記事のころもすでに、百合男子たちは非常に数多く生息していました。含む自分。
その頃から、日常ギャグマンガ『ゆるゆり』が大ヒットをとばし、「ああ、百合ってこのくらいライトでもいいのね」という認識が爆発的に広まりました。『けいおん!』や『プリキュア』も見る人によっては百合(そう作られてはいないけど)。

すごい絶妙なタイミングで始まったマンガなんですよ。
ぼくみたいに随分前から百合好きでコソコソしていた層と、女の子複数人いれば百合楽しめるぜ!と明るく楽しめる層が混在している。
加えて『百合姫』、『つぼみ』、『ひらり、』などのような百合専門雑誌・アンソロジーが整ってきた。
女性向け、と銘打っていますが、百合好き男子は多いです。「ものすごく多い」とは言いませんが、意外といます。というか隠れています。百合の同人誌即売会とかにいったらわんさかいます。
開き直って「百合最高!」という人もいますが(含むぼく)、百合好きだけどなんか恥ずかしくて言えないよ…という人も無論います。
微妙にマイノリティ、微妙にメジャー。そのうち「百合」って言葉が浸透する日も近いような、遠いような。すっごく絶妙な時期なんです今。

主人公の花寺くんは、隠すタイプの百合男子です。自分が女の子同士に萌えているのは表に出せない、と悩みます。エロ本より百合本を隠すのです。
しかし百合は好きだ。クラスの女の子同士がキャッキャするのを見るのは至上の喜びだ。
となると、女の子同士の輪を見ているのは最高に楽しいが、そこに男があってはいけない。
あれ、俺不要なんじゃない?

クラスの男子は女子に色めき立つ時期。でも彼は女子の輪を男子が崩すことを嫌います。
でも女子からしたら「なんだこいつ」ですよね。理解されません。
いらない俺。百合本を手に取るたびに後ろめたい思いに狩られる俺。
ああ、俺は苦しまねばならないのか!

はい。ここは笑っていいところです。多分。
このマンガシリアス調に描かれていますが、「百合を好きすぎて苦悩する男を笑うマンガ」に仕上がっています。
「全ての道は百合へ通ず」「百合男子3日会わざれば刮目して見よ…」など、大げさなセリフ回しが多いのも特徴。百合に萌える状況をアクションマンガのように描いています。
なので、百合好きが読んだら「あるある」とニヤけられるでしょう。そうじゃない人が読んでも「ばかだなあ」と笑えるはず。

しかし二巻以降本当に百合男子が直面すべき問題に突入しています。
「女の子同士が好き」「俺は不要」なるほどわかった。
じゃあ恋愛はどうするの? 結婚はどうするの?
萌えているのは勝手だけど、そのために恋愛をしないの?
花寺は高校生にして「しない!」と言いきりますが、彼は現実と虚構をごっちゃにしてしまっています。
そんな彼の前に現れるのが、チャラ男の籠目正二郎。百合男子でR−18大好き君です。なのですが、普通に恋愛もします。
彼のセリフがまた、長くて面白い。

「俺たちは女子に魅力を感じるからこそ百合に興味を示す訳で、結局根底にあるものはヘテロセクシュアリズム! 百合っぷるとは最もかけ離れたところに居るただのヘテロ野郎さ! 蚊帳の遥か外から娯楽の延長として注がれる自分本位の興味なんざ、文字通り「興味本位」。だからそんな人間が理解しようがしまいが、礼を尽くそうが尽くすまいが、存在自体迷惑でしかねえ!」

笑えるマンガであるこの作品ですが、根底に流れているのはヘテロセクシュアリズムから見た興味の対象としての「百合」でいいのか、という重い問いかけ。
あ、こういう禅問答みたいな文字の多い会話は、この作品の味です。雰囲気とノリを楽しんじゃいましょう。
他にも百合好きだけどちゃんと結婚をして働いている魚屋なども登場。彼の心を大きく揺さぶります。
加えて、「女の子同士がいちゃつくのを、別の女の子が見て萌えるのまで含めて百合!」と感じている花寺は、自分の存在、萌えている男の存在が台無しだ!と気づいてしまいます。
果たして彼の行方やいかに。
そんなに考えないで楽しめばいいって意見もあると思いますが、でもこの時期に「百合を楽しむとは何なのか?」を問う哲学(?)があるのは、時期的に大きな転換点だからでしょう。

ところで、二巻はCDドラマ付き限定版を買うのをおすすめします。
このドラマCDは男が出てきません!主人公男ばっかりなのに。
あくまでも出てくる女の子達の様子を描いたドラマCDです。花寺くんよかったね!
ただ、女の子から見た百合男子ってどうなのよというのが客観的にポロッと描かれているのが非常に面白いんだこれが。
嗚呼、百合男子は消えるのみなのか!
(たまごまご)

『百合男子』二巻
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『百合男子』キャラクターソングCD