ドリーム・オン・アイス2012
フジテレビ
地上波 2012年7月1日(日) 25時40分〜27時00分

CS  7月7日(土)18時00分〜20時00分
BSフジ 7月8日(日)13時00分〜14時55分

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ロンドンオリンピックが間近に迫る中、気分は既にソチオリンピック(2014年)なんて人もいる。フィギュアスケートの選手たちとそのファンたちだ。

ロンドンに比べてソチという土地の聞いたことなさがハンパないが、フィギュアスケートへの注目度は、浅田真央ちゃん(なぜか、ちゃんをつけたくなる)や安藤美姫、高橋大輔、羽生結弦の活躍によりかなり高い。
おかげで、ソチはロシアといっても最南端なのでわりに温暖。黒海のそば。日本からの直行便はどうやらない。なんて情報をすでに私も仕入れているほどだ。
 
とはいえ、2年後ソチまで行けるかさっぱり予想がつかないし、でもテレビじゃ物足りないし、とばかりに人気の選手たちが出演するアイスショー「ドリーム・オン・アイス2012」を観て来た。
通な方は「フィギュアの醍醐味は技を競い合う試合にあり」とおっしゃるが、ピリピリ緊張感漂う試合に比べてショーは、選手たちがリラックスしてエンタメ感満載で滑ってくれるので、それはそれで楽しいものなのだ。
昨年見た時は、安藤美姫が映画「ブラックスワン」をモチーフにした新作を見せてくれて高まったし、全員集合のフィナーレでやたら回転ジャンプするヤンチャな羽生結弦を見ることもできたし。

やっぱ苦あれば楽あれ。
心技体の高みにギリギリまで挑む選手たちに魅入られれば魅入られるほど、ひとときの安らぎ的表情を見たくなってしまうものなのだ。
なんといっても、昨年はボルト除去手術をした後だったため不参加だった高橋大輔が今年は出演だ。
大ケガからの復帰以降の活躍はまさに不死鳥のごとしで、この間の世界フィギュアスケート選手権で堂々銀メダルを獲得したばかり。ソチにも期待がかかる日本のエースの動向は見逃せない。
その一方で、今回は、織田信成が膝のケガのリハビリ中で欠席。
いやもう、ヒラヒラ、キラキラした衣裳に反して、フィギュアスケートってかなりガチなスポーツなのだ。

ついでに、見るほうもドリームだけではないガチな覚悟を強いられるのが、フィギュアスケートだ。
なぜなら会場が極寒なのだ。
なにしろ会場は一面の氷。客席もアリーナは氷上にしつらえられ、霜が張っているくらいである。
恥ずかしながら、はじめてフィギュア観覧に臨んだ際、そんな基本情報を仕入れていなかったため凍死しかけた挙げ句、休憩中に並んだ女子トイレが激込みという人生最大のピンチに陥ったものだ。

だから観客は皆、一泊旅行的な荷物を持参してくる。
そして、会場である新横浜スケートセンターに着くやいなや、ふくらんだバッグからは、ダウン、ウールの膝掛け、セーターなど、梅雨の蒸し暑い季節にふさわしくない防寒着を取り出して着込むのが儀式。
このある種のガクブル状態という異世界に入ることで、より一層、フィギュアはドリームワールド化していく。

もうひとつ言えば、防寒さえ万全にしていれば、暑い季節にはピッタリの娯楽なのが、フィギュアスケート。猛暑なら毎日開催してほしい。でも節電的には氷の設備ってどうなんだろか。
それにチケット代、高いんだよな。アリーナで1万7千円、高くて2万円、安くて6千円という歌舞伎クラス。
ちなみにAKB48西武ドームコンサートは6千800円。AKB48劇場公演は3千円。

会場も懐も寒いのに心は熱くなるいっぽうのフィギュアスケート。今回の参加者を列挙しておこう。

高橋大輔
鈴木明子
羽生結弦
村上佳菜子
小塚崇彦
町田樹
無良崇人
村上大介
今井遙
田中刑事
庄司理紗
日野龍樹
宮原知子
宇野昌磨
佐藤未生
高橋成美&マービン・トラン
神宮アイスメッセンジャーズグレース
ゲストに、
カロリナ・コストナー
パトリック・チャン
安藤美姫
武田奈也
という豪華メンバーたちが、次々、氷上を光と共に舞っていく。

これ、登場順ではなくパンフレットの掲載順だが、このパンフレットの選手達のキャッチコピーが夢熱(ゆめあつ)と呼びたい感じなので、ご紹介。

マエストロの風格
荒ぶるプリンス
鮮烈なるプロローグ
才能の花束。
煌めきのシンクロニシティ・・・

誰についてかはここでは明かさないが、スプラッシュする(ちょっと影響されてみた)言語感覚は注目に値する。

このキャッチから見ても、フィギュアって技術はもちろんのこと、キャラとストーリーも大事なんだよなあと思う。芸術点がある所以だろう。
ドラマチックな背景をもった選手ほど気になってしまうもの。
ケガやコーチとの別れ(そして最近、再びタッグを組むことを発表)などを乗り越えた高橋大輔、震災で練習場をなくしながら世界選手権で銅メダルを獲得した十代の羽生結弦、迷い苦しみながら大人の女性になっていく安藤美姫、悲劇と喜劇をミックスしたような出来事に見舞われがちな織田信長の末裔・織田信成など、彼ら個有のドラマと演技が密にリンクすると絶大な波動となって観客を飲み込んでいく。
演技前に選手の近況がアナウンスされるのも、女ののど自慢的な観客の心をつかむ演出になっているような気がしないでもない。
目下、高橋成美&マービン・トランペアのトランが日本国籍を取れるかどうかフィギュアファンはやきもきしているところ。
そうそう、田中刑事 って人はもう名前がストーリーだ。なんで警察に入らなかったんだろう。次の警察ドラマは「フィギュアスケート刑事」で決定だ。

と、話戻しまして、
プライベートの苦悩込みで観客にさらけ出すことは、相当大変だろうなとお察しする。
あと、大観衆にガンガン転ぶとこを見られてしまうところも。
よっぽどメンタル、強くないといられない気がしてならない。
転んでも拍手されちゃうのだもの。まあ、もちろん、応援の意味もあるわけだが、スコーンッとひっくり返って、くううう・・・と思ってるとこ、パチパチされるのってどういう心境なのだろうか。
それでも彼らはすごい。皆、転ぶと秒速で体勢を立て直す。

そっか。
フィギュアスケートに魅入られる人って、この七転び八起きっぷりに励まされているんだな、きっと。
どれだけハデに転んでも、どんなに困難に見舞われても、脊髄反射的に立ち上がっていく彼らに。
今、芸能界はネガキャン的なことばかり行われていて、夢ぶち壊しだけど、フィギュアスケートの選手たちだけが一気に夢を引き受けている。
重責負って舞っているかと思うと、また、一層感動する。
フィナーレの頃には、両手がすっかり冷えてかじかんでいたのだが、
笑顔で滑る彼らに、
やっぱりポジキャンだよね、と思いながら拍手を送り続けたのだった。
ソチをねらえ!
(木俣冬)

(*文中、高橋大輔の「高」はただしくはハシゴ高)