『私立ブルジョワ学院女子高等部・外部生物語』の主人公・五島えり子。
女子校サロン入りを目指す外部生の戦い(?)と女子高生の生態が描かれる。
(c) 三島衛里子・秋田書店

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『高校球児ザワさん』(以下、『ザワさん』)において、野球への狂おしい愛情とザワさんのフェチな魅力で男心をくすぐり続ける漫画家・三島衛里子氏。そんな三島氏が女性誌に初進出、しかもテーマが「女子校」という情報をキャッチした。秋田書店エレガンスイブ編集部から新増刊される雑誌『もっと!』(本日18日発売)で始まった『私立ブルジョワ学院女子高等部・外部生物語』がそれだ。野球部という男臭い世界から一転、対局に位置しそうな女子校という舞台でどんな物語を描くのか? そんな疑問と作品の魅力を、三島衛里子氏本人と、『もっと!』担当編集・秋田書店の駒林氏にお聞きします。


【三島さんが描く女性の話をもっと見たい】
─── 初めて『スピリッツ』で『ザワさん』を読んだ時、この漫画家って女性の名前だけど本当に女性なの? どうしてここまで男心がわかるの? 野球部のことを描けるの? とビックリさせられました。そのことがあっただけに、三島さんが新作で「女子校漫画」という、『ザワさん』とは真逆の世界観を描くことにまたビックリしまして。今回、なぜ女子校漫画を描こうと?

三島 「“女子校あるある”をやってみませんか?」という具体的なお話を、最初の打ち合わせの時から編集の駒林さんに頂いたんですね。そもそも『ザワさん』は、自分が体験したかった願望を描いた作品なのですが、そういう願望とは別の、自分自身の高校時代の思い出を描いてみたい、という思いが以前からあったので、ちょうどいいキッカケかな、と。

駒林 私も『ザワさん』が好きでずっと読んでいたのですが、その中でも、女性同士のやり取りや会話のシーンですごく引っかかる部分があったんですね。バレンタインで女子マネがチョコレートを用意しているシーンで、ザワさんは自分も貰えると思っていたら女子マネから「おかしいんじゃないの?」って言われる場面とか。

─── 「理紗のは?」って聞く場面ですね。ザワさんの抜けている感じが出ていて、私も好きなシーンです。

駒林 ああいうのって、男目線で見ると怖かったり、ドキドキしたり、緊張感があるんですよね。三島さんが描く女性の話をもっと見たいと思っていたんですが、私がずっと担当している『エレガンスイブ』という雑誌では読者層がちょっとマッチしないかなぁと。そんな中で、今回この『もっと!』という新しい雑誌の話が持ち上がったので、三島さんに“女子高生の生態”をテーマに描いてもられば、自分が一番読みたいし、新雑誌の読者にも合うんじゃないかなと。そういう狙いがあって依頼しました。

三島 20代前半の頃の自分だったら、まだ女子校時代の思い出のアクが強すぎてちょっと躊躇していたと思うんですが、もう20代後半になってくると客観的にもなれるし、結構忘れちゃっている部分がかなりあって。私にとってすごく大事な三年間だったから忘れたくない、早く描かないと! という時期的な焦りもあったので、今回の依頼はタイムリーでしたね。

─── 主人公の名前が“五島えり子”となっていることからも三島さんご自身を投影しているのがよくわかるのですが、どんどん自分の実体験をベースに描いていこうと?

三島 はい。私の場合は、公立の中学から、受験をして中高一貫教育の私立の女子高に入ったんです。そういう自分の体験というか、外部生の人間が女子高というサロン文化、そしてセレブの同級生に溶けもうと悪戦苦闘する姿を描いていきたいなと思っています。

駒林 私の上司が「男前な漫画だな」って言っていました(笑)。「田舎から出て来た子がそうそうたるメンバーの中に挑んでいくという少年漫画みたいな要素もあるんじゃないか」と。それもあって「ここは戦場だ」というアオリ文句を使っています。

─── 主人公は今後、その戦いに勝ってセレブの仲間入りを果たすんでしょうか?

三島 いやいやいや、セレブにはなれないですよー。だって、セレブって親の資本力ですから。私も女子校サロンの仲間に入りたかったんですけど、セレブになるには経済的な資本力と文化的な資本力と、家柄の資本力みたいのが必要ですから。私の同級生の場合も、おじいちゃまおばあちゃまのもっと上の代から山手線の内側のエリアに住んでらっしゃる方とかがゴロゴロと(笑)。さらにはご両親の学歴と祖父母の学歴と親戚一同の学歴が重厚に積み重なっているあの感じ。例えて言うと、ウチのおじいちゃんは陸軍二等兵で、高校の友達のおじいちゃまは海軍将校だったんじゃないかと(笑)。私みたいな高校からの外部生じゃ、なかなか太刀打ち出来ない世界でしたね。

駒林 そういう、五島えり子という主人公のバックグラウンドも、これからどんどん出していきたいですね。


【『ザワさん』は自分の願望の世界】
─── 今回が三島さんにとって初の女性誌連載ということですが、女性誌だからこそ描いてみたい内容はありますか?

三島 なんだろう……女性の行動や描き方で「良し」とする部分がやっぱり男性と女性では違うと思うんですね。そういう読み手の違いを意識しながら柔軟に対応していきたいですね。

─── 『ザワさん』での、男性読者のツボの押さえ方は見事ですよね。女性作家にそこを見透かされるのはちょっと恥ずかしくもあります。

三島 社会人になってから男友達ばっかり増えたせいかもしれないですね。本当は女友達と女子会とかやりたいんですけど(笑)。だから、たまに仕事で女性とご一緒できるとホッとするというか。漫画でも青年誌だけじゃなく女性誌でも描ける、というのは自分の精神的にも安心材料ですね。

─── 1話目を読む限り、“女子校あるある”というよりも、この学校独特の文化だったり風習が印象的だなと思ったんですが、それは狙い通りですか?

三島 はい。一般的な“女子校あるある”に縛ってしまうと面白味も少ないし、そのうちネタが尽きてしまうかなと。私は普遍的なあるあるよりはむしろ「その学校だけ」というような流行や風習が大好きなんです。『夜のピクニック』のモデルにもなった水戸一高の「歩く会」とか、20番くらいまであるという諏訪清陵の日本一長い校歌とか。そういう局所的な話題って、色んな都道府県の人と話していても必ず盛り上がりますから。だから、私の漫画をキッカケに自分の高校時代の変な決まりとかを思い出して笑っていただけると嬉しいですね。

─── 今回の作品では『ザワさん』とは違って、二頭身だったり三頭身だったりというデフォルメされた描き方が特徴的ですよね。

三島 先ほども言いましたけど、『ザワさん』は自分の願望の世界なので、「こういう人になりたい」「こういう世界にいたかった」という風に美化して描いているんですね。でも、自分に近い世界、自分が経験した景色に対してはそういう執着がありませんから。自分を投影したキャラクターを美化してもしょうがないじゃないですか。

駒林 実は今回お仕事を依頼させていただくにあたって三島さんにお会いするまで、三島さんはザワさんみたなスラッと背の高い女性なんだろうと勝手に想像していたんです。だから、初めて待ち合わせした時になかなか三島さんを見つけられませんでした(笑)

三島 そうそう。すぐ側にいるのに、駒林さんの目線が上にあるからなかなか見つけてもらえなくて。なんでわかんないの!って思いました(笑)

─── 学生生活のエピソードと言えば部活動が外せませんが、この主人公・五島えり子は今後何か部活をやるんですか?

三島 どうしようかなぁと思っているところです。ネタの広げ方としては部活をした方がいいんですけどね。それに今、主人公の「相方不在」なので、相方作りのために部活のシーンを描くかもしれないですね。


【俗にいうエッセイ漫画とは違うもの】
─── 三島さん自身は学生時代、部活動は?

三島 私は高校・大学とずっとバレー部でした。実は中学までは特に運動はやっていなかったんですが、高校ではバレーをやってみたいと思っていて、入学前にリサーチをしたら、体育館も小さいしグラウンドも狭いから練習もそんなに厳しくないだろう、ここでなら自分でも出来るかも、と。

─── 『ザワさん』が、自分の憧れの世界、だということですが、それはザワさんというキャラクターが、ですか? 野球部も含めた部活動の世界観が、ですか?

三島 全部、ですかね……。部活のために高校時代を送っていたりとか、男女共学で恋愛模様もあったりとか、セーラー服とか。あと、学校帰りに多摩川が見えたりとか、緑が多い校舎とか。そういうのを含めて憧れていた、手に入らなかった世界を描いていますね。

─── 部活という点だけだと、ご自身も経験したわけですよね。そういうのとは違う?

三島 本気で甲子園にいきたい、春高バレーに行きたい、というレベルではなくクラブ活動という感じで。私立の女子校の部活はどこもそういう感じになりがちですよね。私は、公立中学の時はクラスでもワースト5くらいの運動神経だったんですけど、高校に入ったら私よりも出来ない人がたくさんいて。ハンドボールで班決めをする時も、デメリット要員にされないことがメチャクチャ嬉しかったですね。「戦力として見てもらえた!」という感動。これも女子校の魅力ですね。

─── そういう女子校ならではのネタ探しは、どのようにしていきますか? もっぱら自分の体験から?

三島 俗にいうエッセイ漫画とは違うものにしたいとは思っています。セミ・ドキュメンタリーというか、膨らませていけるところは膨らましていこうと。実際にあったことしか描けない、という縛りみたいのが出来ちゃうとつまらないので、どんどん壊して、広げていきたいとも思いますね。

─── 反面『ザワさん』は完全に未知の世界だった訳ですよね。相当取材大変なんじゃないですか?

三島 そうですね。『ザワさん』は取材をしたり、いろいろ調べたりしながら描いていますね。「グローブのヒエラルキーを教えてください」とか。そういうことから全部勉強しなきゃいけなかったので。今回はそういうのは特にないのがいいですね。

(後編へ続く)
(オグマナオト)