震災前に作りお蔵入りにしたおバカCM 悩んだ末1年後に公開

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こんにちは。エステー特命宣伝部長の高田鳥場です。エステーの防虫剤「ムシュー ダ」の新CMが3月19日からオンエアされ始めました。昨年はキャラクターの「熊雄」が「兄さん」と感動の再会をするバージョンを流しましたが、今回はなんと「元カノ」の「シャケ美」(しゃけみ)と再会を果たすバージョンが登場しました。

「兄さんとの再会」バージョンは4月上期調査のCM総研の好感度ランキングトップ10 が軒並みACのCMになるなか、トップ10入りしたCMです。震災で塞ぎこんでいた日本に、ちょっとした「笑い」を提供できたのかな、と思っています。

実はこのCM、2010年と2011年、2年連続で流していたものです。通常ムシューダのCMは毎年新バージョンを流すわけですが、昨年は新しいものを流しませんでした。理由は、震災があったため、「さすがにこんなバカなものは流してはマズいだろう…」と思い、「うん、これならば誰も傷つけない」と考えた「兄さん」バージョンを流したのですね。

そして、その時「さすがにこんなバカなもの…」と考えたCMが今回の「シャケ美」のCMです。震災時にはすでに完成していたフィルムなのですが、一旦お蔵入りにさせていたのですね。内容は、量販店のイベントコーナーで、お客さんを楽しませるべく熊雄が踊るバイトをしているところから始まります。動物園でバイトをしていた兄さんを見て、自分も働かなくては、と思ったそうです。バイトでは大勢のお客さんが熊雄を見ているのですが、その中に巨大な鮭がいます。これぞ熊雄の元彼女・シャケ美だったのです。

本来CMでは「ニオイがつかないムシューダ」が最も入れたいメッセージなのに、今回の決めゼリフは「シャケナベイベー」。これほどまでに気が狂ったCMはさすがに震災直後には流せなかったのです。

【シャケ美CMを「お蔵入り」にしたお客様センターの人の言葉】

それでも私は放送しようかどうかを苦悩しました。これだったら見た人が笑ってくれるかな?  とも思いました。そうしたら、お客様センターの人が「あれはやめたほうがいいですよ」といってきた。


彼は「震災が起きて、タンスが倒れてきたり、家の中に泥や水が入ってきたりいろんなことが起きたわけですが、それを思い出したらどうするんですか? 鳥場さん」と言ってきました。確かに、タンスのシーンが出てきます。悩みましたが、こんなにくだらないCMであっても悲しむ人が出るくらい、あの時、皆の気持ちはかき乱されていたよね。だからシャケ美のバージョンは放送するのをやめました。

一方、「兄さんと再会」する方は動物園でバイトするお兄さんと再会する、という内容なのですが、これは傷つけるポイントを見いだせなかったのでオンエアしました。

【震災前に作ったCMを敢えて流した理由――シャケ美に罪はない】

今回、震災前に作ったCMを流すことにはもちろん抵抗ありましたよ。だって、今だって「震災後」なわけで、あの時バカみたいに楽しみながら作ったものを流すのはねぇ……。完全に新しいのを作ってしまおうかとも思ったのですが、自分の心の中で、「いや、シャケ美に罪はない。シャケ美、かわいそうじゃないか」と思ったのです。

ここまで素っ頓狂なCMだったら、日本のみんなが必ずしも日常に戻っているとは言えないながらも、もう大丈夫かな、と思いました。

あと、熊雄のムック本ってものがあるのですが、これは5万部も売れているんですよ。その本の中に実はシャケ美が入っていたんです! となれば、本を買ってくれ、シャケ美を知ってくれている人に、本物のシャケ美を見せたかったというのも私の気持ちの中にありました。累計50万個売ったガチャガチャの中にもシャケ美はいました。シャケ美に罪はないのです。

で、このCM、私も散々「バカ」とか「素っ頓狂」とか言っていますが、実は切ないCMだという背景があることもここでお伝えしておきましょう。恋人と別れた後にビッグになっている姿を男って見せたいじゃないですか。でも、熊雄はまだビッグになる途中の状態を見られてしまった。

元々別れた理由も、熊雄がシャケ美をついつい本能で食べそうになってしまったからなのですね。そんなひどい別れ方をし、それでも発展途上の自分を少し見つめてくれ、その後挨拶もせずに去っていく……。こんな悲しいCMなのです。

な〜んてことはさておき、とにかく楽しんでくださいね!

文/高田鳥場(エステー特命宣伝部長)

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