元暴力団組員の社会復帰を後押ししている福島さん。

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仕事柄、様々な業種の方とお話する機会がある。しかし、いわゆる“暴力団”の組員と接触したことは今まで無かった。恐らく、この先も無いと思う。

ところで、大阪でこんな活動をしている人がいるらしい。病気や事故などで身体の一部を失われた方のため、人工ボディを作る「工房アルテ」。同社に勤務する技師・福島有佳子さんによる、ある画期的な試みである。
実は彼女、暴力団を脱退し社会復帰を目指す元組員に“義指”を作り、彼らの更生を支援しているそうなのだ。

正直、こういう仕事があることを初めて知った。また、こういう支援の仕方があることにも初めて気づいた。
だけど、どうしてこのような支援を始めるようになったのだろう?
「以前から元組員の人に義指を作ることはあったのですが、未払いで連絡がとれなくなることが多くなったんです。何度も連絡をし、理由を聞くと『組を辞めてお金が無い上に、仕事もない。仕事したら、いつか必ず払いにくる』と話してくれました」(福島さん)
福島さんの所に元組員が増えた時期と、92年の暴対法の時期は重なる。
現状を知った福島さんは、まずは仕事ができるようにと儲け度外視の金額設定に改め、元組員の社会復帰を後押しする活動をスタートした。

そこからは「大阪府暴力団離脱支援センター」との連携も始まっている。同施設が「義指を作って、社会復帰したい」と願う元組員を福島さんに紹介、そうして今までに170〜180人ほどの義指を手掛けてきたそうなのだ。
ただ、そこには一つだけ条件がある。
「義指は、絶対に組に戻らないと約束をしてくれる人にだけ作ります」(福島さん)

また、この支援は義指を作っただけでは終わらない。その後の人生についても、福島さんは気にかけているという。
「私にできるのは、見た目を修復することだけです。そして指を隠し通すのではなく、『実は、過去に……』と打ち明けても受け入れてもらえる人間関係を作ることが理想なんです」(福島さん)

実際、過去の暴力団所属歴を告白するも「義指がなくても、お前はオマエや」と言われるまでに信頼を獲得し、完全に社会復帰を果たした元組員もいるそうだ。
「そういう姿を見ると、本当に嬉しいですよね。義指はその人自身を見てもらう為にも重要です。でも、最終的には義指がなくても付き合える人間関係を作っていってほしい」(福島さん)
正直、いきなり指を失ったままの姿を見せられたらギョッとしてしまうかもしれない。前述の元組員がそこまで認められたのは、必死に社会復帰を目指したからこそである。

そして、肝心の“義指”について。私も今回初めて見たのだが、本物と全く見分けがつかなかった。正直、予想よりも数段上のクオリティで……。
「人体用のシリコーンを使い、1個ずつ色を練り込んで作っています」(福島さん)
非常にきめ細かい仕事である。1800色の中から指だけで12〜13色選ぶ。爪先一つでも黄色っぽいものや白っぽいものなど作り分けられ、関節、皺、毛、日焼け具合といった細部も、全てをその人の色・形にしなければならない。

こうしたやり取りで人生の後押しをしていると、自ずと信頼関係も生まれてくるだろう。
「後で手紙やメールを頂いたり、顔を見せに来てくれる人も多いです。作りっ放しになるのではなく、その後が大事なんです」(福島さん)
中には、せっかく入った会社を辞めてしまう人もいるらしい。一方、はるばる北海道から顔を見せに来る人もいる。それぞれの人生に、それぞれのドラマがある。

最後に、私が一番ハッとしたのは以下のコメントだ。
「『子供と手を繋げるようになった』といった声をいただくこともあります。子供の目線の高さからだと、小指は目立つんですよね」(福島さん)
もしかしたら、我が子に対する引け目の一つの要因になっていたかもしれない。様々な面で、福島さんの活動は社会復帰への後押しとなっているようだ。

過去の過ちを認め、新たな人生を歩んでいく。一度そう決めたならば、是非とも成し遂げてほしい。義指は、その決意を強力にサポートしてくれる。
(寺西ジャジューカ)