この状態から、食器を水揚げして終わり。どう考えても、洗剤たっぷりついたままです。

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ごく平均的なドイツ人一般家庭の、食後の後片付け風景。食器洗浄機の普及率が驚異的に高いドイツではありますが、洗浄機での使用に耐えないデリケートな銀食器やガラスの食器類は、もちろんひとつひとつ丁寧に手洗いします。
ところで、ドイツ人が使用済み食器を手洗いする方法を目にした日本人なら、10人中(恐らく)10人までが、「オイオイ、こんな方法でいいのか?」と、少なからずカルチャーショックを受けるはず。実際、ドイツ人と結婚した在ドイツ邦人の中で、ドイツ人の義理母の食器手洗い方法を目にしたことが、結婚後、最初にして最大のカルチャーショックだったと回想する人が何人もいるくらいです。

それでは、ドイツ人は一体どのような仰天手順で食器を手洗いするのでしょうか。
まず、キッチンの深いシンクに、素手では触れないほどの熱い湯をなみなみと溜め、そこに食器洗い用の液体洗剤をポタポタと数滴たらし、軽く泡立つ程度にかき混ぜます。この時、お湯と洗剤の順序をうっかり逆にしてしまうと、シンクのお湯がブクブクに泡立ちすぎて失敗しますので、注意が必要です。
次に、この湯の中へ、使用済み食器やフォーク、ナイフを一斉にざざーっと流し入れたら、両手にゴム手袋をはめ(シンクのお湯が余りにも熱いため)、台所スポンジやブラシを使って、食器の汚れを湯の中でささ〜っと落としながら、食器を次々にカゴにあげていきます。

これにて食器手洗いは完了です。は? いえいえ、食器はすすぎません。「だって、洗剤がまだバリバリにくっついているじゃないですか?」とお考えのみなさま、そうなんです。その疑問こそが、冒頭で述べたカルチャーショックそのものなのです。

上記の手順で食器を手洗いする際、シンクに溜まった洗剤湯は、汚れのために確実に濁りを増していきます。そこで、蛇口のお湯を、チョロチョロと極細く出しながら手洗いすることで、洗剤湯の濁りを抑えることもありますが、節約至上主義の家庭では、この極細チョロチョロお湯出しさえ省略されてしまいますので、最後のお皿1枚を洗い終えるまで、同じ洗剤湯を使い続けることになります。

「まだ洗剤がついたまま……」と顔面蒼白気味の私たちの心配をよそに、ドイツ人の義理母は微笑みながら答えるでしょう。「洗剤が付着していたって大丈夫。そもそも食器や食材を洗うはずの洗剤に、口に入れて危険な物質が含まれているはずないでしょう。おほほほ」と。
(柴山香)