日本人は知らない、孫正義の「したたかな要求」…トランプと交わしたAIインフラ「80兆円の投資」のウラでいま起こっていること
ソフトバンクが米オハイオ州に建設中の巨大データセンターが、ここに来て大きな注目を浴びている。(仮にプロジェクトが成功すれば)データセンターの総消費電力は10ギガ・ワット、建設工費をはじめ総事業費は実に5000億ドル(80兆円前後)という世界最大、いや人類史上でも空前となる超巨大プロジェクトだ。
より正確には、ソフトバンク傘下のSBエナジーがオハイオ州ピケトンに建設中の超巨大データセンターである。米国エネルギー省(DOD)が所有する兵器用ウラン濃縮工場の跡地(約3700エーカー=15平方キロメートル)を、SBエナジーがリースして再開発している。
従来AIデータセンターのボトルネックとされてきた電力不足の問題を解決するため、データセンターの隣に9.2ギガ・ワットの巨大火力発電所(燃料は天然ガス)を併設する計画だ。これを中心に総供給電力は約10ギガ・ワットに達するが、これは普通の家庭に換算すると約750万世帯分の電力消費を賄(まかな)うことができるという。
日本政府もトランプ関税対策の一環として参加
この巨大データセンターの主なテナント(借り手)はOpenAIになる可能性が高い。その巨額リース費用を賄うため同社は今、エヌヴィディア(Nvidia)から実に2500億ドル(40兆円前後)のバックストップ(融資保証)を受けるべく交渉中と先週ウォールストリート・ジャーナルなど米メディアが報じた。それが理由で、このプロジェクトが一気に注目を浴びたのである。
ただ、このデータセンターにはOpenAI以外に、アンソロピック、グーグル、マイクロソフトなども強い関心を示している。元々、連邦政府所有の工場跡地を再開発するだけに、このデータセンターを誰に使わせるかの決定には、ソフトバンク以外にもラトニック商務長官の認可も必要となる。そこでアンソロピックら3社は現在ラトニック商務長官と協議中とされる。
また、この巨大プロジェクトには日本政府も参加している。件のAIデータセンターに併設する(前掲の)天然ガス火力発電所の建設に、日本政府が約330億ドル(5兆円以上)を投資する計画だ。これは昨年いわゆる「トランプ関税」を引き下げてもらう見返りに、日本政府がトランプ政権に確約した総額5500億ドル(88兆円前後)の対米投資プログラムの一環という。
この330億ドルの大部分は、国際協力銀行(JBIC)など政府系金融機関による直接融資などによって構成される。が、ウォールストリート・ジャーナルの報道によれば、日本側が330億ドルを回収するまでは日米で電力売上を分配するが、その後は米国政府が売上(revenue)の9割を受け取ることになるという。これは当初、トランプ大統領が主張していたディールに近い形ではなかろうか。
これはあのスターゲイト計画なのか?
それはそれとして、この巨大プロジェクトには他にも注目すべき点がある。それは(前述の通り)10ギガ・ワット級のAIデータセンター建設を目的としていること、また総事業費が5000億ドルに達すること、さらに主なテナントには(今のところ)OpenAIがなりそうだ、ということだ。
これって、あの「スターゲイト計画」のことではないか?――少なくともAI分野に関心のある人なら、誰でもそう思うはずだ。
ご記憶かと思うが、スターゲイト計画(Stargate Project)とは、ソフトバンク、OpenAI、そしてオラクルの3社が共同開発する10ギガ・ワット級データセンターなど超巨大AIインフラの建設計画だ。2025年1月、第47代アメリカ大統領に就任したばかりのトランプ氏を孫正義、ラリー・エリソン、サム・アルトマンの3氏が取り囲んで、ホワイトハウスで華々しく発表された。
恐らく(冒頭で紹介した)SBエナジー、つまりソフトバンクが現在オハイオ州ピケトンに建設中のAIデータセンターなど超巨大インフラは、総消費電力「10ギガワット」や総額「5000億ドル」という事業費などから判断して、このスターゲイト計画のことであろう。
仮に、そうでなかったとすれば、つまりこのオハイオ州の巨大プロジェクトとスターゲイト計画が別物であるとすれば、ソフトバンクは総額5000億ドル(80兆円)もの超巨大プロジェクトを2つも同時進行させていることになる。いくらなんでも、それはあり得ないだろう。
つまりオハイオ州のAIデータセンター建設計画はかつてのスターゲイト計画、あるいは少なくともその一環であるように思える。
スターゲイト計画とは矛盾する点もある
しかし、そうなると逆に腑に落ちない点も出てくる。まずスターゲイト計画はOpenAI、ソフトバンク、オラクルの共同プロジェクトである以上、それによって建設されるAIデータセンターのテナントは絶対にOpenAIだけになるはずだ。
従来マイクロソフトなど、いわゆるハイパースケーラーのデータセンター(クラウドサービス)を借りてChatGPTなど自社製品を開発してきたOpenAIは、将来的にはスターゲイト計画によって事実上、自社専用のデータセンターを使えるようになる。だからこそ、彼らは喜んでスターゲイト計画に乗ったはずだ(実際は、恐らくOpenAIのアルトマンCEOが「AGIを実現する」という自らの野望に孫氏を引き込んで計画をスタートしたと見られる)。
ところが、ソフトバンクが今、オハイオ州に建設中のデータセンターは(前述のように)アンソロピックやグーグルなど同業他社も使えるようになる可能性がある。つまり最初からOpenAIだけが使うことを前提に建設されるAIインフラではない。となると、これはスターゲイト計画の主旨とは異なる。
また、ソフトバンク(つまり孫氏)自身も、現在のオハイオ州ピケトンの巨大プロジェクトを「スターゲイト計画」とは呼んでいないようだ。さらに、この件についてウォールストリート・ジャーナルやニューヨークタイムズなど米国メディアが報じた記事でも「スターゲイト計画」という呼称は一切出てこない。
となると、オハイオ州ピケトンで現在進行中の巨大プロジェクトとスターゲイト計画は別物という見方も当然あり得るだろう。一体、どっちの方が正しいのか?
最初に大金を誰が用意するかが問題だった
結論を先に言ってしまうと、両者は恐らく基本的、あるいは少なくとも出自的には同じものだ。より正確には、オハイオ州ピケトンで現在進められているAIインフラ建設プロジェクトは、「かつてのスターゲイト計画がその姿を変えたもの」という見方が妥当だろう。
その裏には(当初の)スターゲイト計画の「事実上の空中分解」と、その後の孫氏による「したたかな方向転換」がある。以下、このプロジェクトの開始当初から順を追って見ていこう。
2025年1月にホワイトハウスで華々しく発表された当時、スターゲイト計画は確かに「OpenAIの専用インフラ」として、ソフトバンクと合弁会社を作って進める約束だった。
しかし、その後すぐに「お金の集め方」を巡ってソフトバンクとOpenAIの間で激しい意見の相違(対立)が起きる。OpenAI(アルトマン氏)は恐らく「ソフトバンク(孫氏)が総額5000億ドルのリスクを全部背負って、僕たちのデータセンターを建ててくれ」と要求したのだろう。
これに対しソフトバンク(孫氏)は「まだ黒字化もしてないOpenAIのために、我々が5000億ドルもの負担を全額背負うのはリスクが高すぎる(=君達も最初から金を出してくれ)」と難色を示した。この結果、2025年中盤には「OpenAI専用インフラとしてのスターゲイト合弁事業」は事実上、一度頓挫(空中分解)したと見られる。
【後編】→孫正義はまさかこれを想定していた…? 「超巨大AIインフラ使用」をめぐる争いで、最後に笑うのは一体誰なのか
【つづきを読む】孫正義はまさかこれを想定していた…? 「超巨大AIインフラ使用」をめぐる争い、「一番の勝者」は一体誰なのか

