【W杯最終予選直前】日本に立ちはだかるインドネシア「東南アジア最強チーム」のヒミツ

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W杯最終予選 日本に立ちはだかる「東南アジア最強」

2026年W杯アジア最終予選で4試合を終えて3勝1分と独走状態の日本代表。11月には15日にインドネシア、19日に中国と、ともにアウェーでの連戦を戦う。15日のキックオフは、日本時間で15日金曜日の午後9時だ。

日本代表ではDFの冨安健洋と伊藤洋樹に加えて、このところFWに定着していた上田綺世も負傷のため招集外となった。

FWにどういうタイプの選手が入るかによってチームの戦い方が変わってしまうので、上田離脱の影響は大きいが、サッカーというフィジカルコンタクトのあるスポーツではケガは防ぎようがない。上田(フェイエノールト)と同じオランダ・リーグのナイメヘンで活躍している小川航基や、約1年ぶりの招集となった古橋亨梧(セルティック)などが代役となるが、むしろ日本代表の攻撃の幅を広げるためのチャンスと考えればいい。

これまでの試合を見てもわかるように、アジアとの戦いでは戦力的に日本が圧倒的に上回っているので、新しい戦い方に挑むだけの余裕もある。

ただ、最初に対戦するインドネシアは注目チームの一つだ。最終予選ではいずれも“格上”のはずのサウジアラビア、オーストラリア、バーレーンと3試合連続引き分け。4戦目で中国に1対2で敗れたものの、シュート数では14対5と上回るなど、内容的にはインドネシア・ペースの試合だった。

東南アジアでは50年ほど前まで、ビルマ(ミャンマー)が圧倒的な強さを誇っていた。ビルマは戦前まで英領植民地であり、本場英国人直伝のサッカーをしていたからだ。

だが、その後はマレーシアやシンガポールが台頭。最近10年ほどは、タイ、ベトナムがリードしていたが、ここにきてインドネシアが東南アジア最強の地位を固めつつある。

インドネシアの強さのワケ

W杯選でも、東南アジアから最終予選に駒を進めたのはインドネシアだけ。1月のアジアカップでも、インドネシアとタイがグループリーグを勝ち抜いている。

インドネシアの強化の秘密は、オランダ生まれ、オランダ育ちの選手にインドネシア国籍を取得させて、代表入りさせることだ。

11月に日本、サウジアラビアと対戦するインドネシア代表27人のうち、じつに16人が海外生まれ(ほとんどがオランダ)だ。

たとえば、GKのマールテン・パエスは、現在はアメリカでプレーしているが、21歳以下のオランダ代表選出経験も持ち、最終予選ではフル出場を続けている。FWのラファエル・ストライクはまだ21歳だが、年齢制限のないフル代表のメンバーとして、アジアカップや最終予選で活躍。さらに、11月シリーズからはやはりU-21オランダ代表経験のあるDFのケビン・ダイクスが加わる可能性があるという。

インドネシアはかつてオランダの植民地だったため、オランダには数多くのインドネシア系の住民が住んでいる。オランダは欧州有数のサッカー強国なので、サッカー選手になったインドネシア系の若者も数多くいるのだ。インドネシア・サッカー連盟や同国政府は、こうした若者に声をかけて選手を発掘。インドネシア国籍を取得させて代表強化に結びつけた。

サッカー界では、代表選手になるためには当該国の国籍が必要であり、他の競技より厳格だ。

たとえば、ラグビーでは両親や祖父母がその国で生まれたなら、国籍がなくても代表になれるし、その国に一定期間居住していれば、やはり国籍がなくても代表入りが認められる。

だから、ラグビー日本代表の半数以上は日本国籍を持たない選手たちだ。それでも、キャプテンを務めるリーチ・マイケルは留学生として高校時代から日本で育っているが、多くの選手は海外生まれ、海外育ちである。ラグビーでは、日本だけでなく、イングランドのような強豪国、伝統国でも、海外にルーツを持つ選手が多数代表でプレーしている。

厳格なルールは公平性のため

ワールドベースボール・クラシック(WBC)に出場したラーズ・ヌートバーはアメリカ生まれ、アメリカ育ちだが、母親が日本人なので日本代表でプレーできた。

世界的な普及度が低いベースボールでは、アメリカ生まれ、アメリカ育ちの選手が各国代表でプレーすることが多い。イタリア代表の多くは、イタリア系アメリカ人のメジャーリーガーだった。

だが、サッカーでは国籍取得が代表入りの条件となっている。また、どこか1つの国でフル代表として予選を含むW杯などの公式戦に出場すると、その後、他国の国籍を取得してもその国の代表にはなれない。

選手の国際移籍が盛んなサッカーでは、こうでもしないと財政力のある国が圧倒的有利に立ってしまうからだろう。

かつては規制は緩やかだった。1934年に第2回W杯を開催したイタリアでは、「優勝」が独裁者ベニト・ムッソリーニからの至上命令だった。そこで、イタリア代表は第1回大会でアルゼンチン代表として準優勝に貢献した選手3人を代表入りさせて、ムッソリーニの命令を実現した。

強豪チームの国際化

また、ペレ(ブラジル)やディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)と並んで「20世紀最高の選手」と称されるアルフレード・ディステファノはアルゼンチン生まれだが、アルゼンチン、コロンビア、スペインの3か国の代表としてプレーした。

海外生まれの選手を使って代表強化をした例もいくつもある。ポルトガルはエウゼビオをはじめ、アフリカにあった植民地(厳密に言えば「海外県」)モザンビークやアンゴラ出身の黒人選手多数を擁して1966年W杯で3位に入賞した。欧州ではアフリカ系の選手がまだ珍しかった時代だ。

フランス代表の半数以上は旧植民地国出身の黒人選手だ。だが、逆にセネガルやコートジボワールといった旧フランス領アフリカ諸国ではフランス生まれ、フランス育ちの選手が何人もプレーしている。

中国は、中国の金持ちクラブでプレーしていた外国出身選手に国籍を与えて代表の強化を図った。中国経済が失速するとその多くは帰国してしまったが、現在もブラジル出身のFWフェルナンジーニョ(中国名:費南多)やイングランド出身のDFティアス・ブラウニング(蒋光太)などがプレーしている(ブラウニングは祖父が中国人)。

日本も、かつては日系ブラジル人選手として初めて日本でプレーしたネルソン吉村(日本名:吉村大志郎)やラモス瑠偉、呂比須ワグナーといったブラジル育ちの選手が代表で活躍した。だが、最近は海外出身の選手が代表に招集されることはなくなった。

代表の現在のナンバーワンGKの鈴木彩艶やパリ五輪でキャプテンを務めた藤田譲瑠チマなどは、アフリカ人の父と日本人の母との間に日本で生まれ、日本のクラブ(鈴木は浦和レッズ、藤田は東京ヴェルディ)で育った。民族的ルーツはどうあれ、日本のクラブで育った選手なら間違いなく日本代表の資格はある。

強化されたインドネシア代表にどう出る?

いずれにしても、オランダ出身選手で固めてくるインドネシアは、従来の東南アジア勢に比べてフィジカル的な強さもあり、侮ることはできない。

だが、日本選手の多くはオランダ・リーグより格上のイングランドやドイツ、スペインなど、いわゆる「5大リーグ」でプレーしているのだから、オランダ出身選手を怖がる必要はまったくない。また、最近になって次々と新しい選手が加ったインドネシアに比べれば、チームとしての完成度もはるかに高い。

FIFAランキングでは日本の15位に対して、インドネシアは130位。日本が圧倒的に優位にあることは間違いない。日本代表は11月の2試合に連勝すれば、予選突破に王手がかかる。

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