断り方の基本は、具体化です。断る際には、無理して頼んだ先の「マイナスな未来」を相手に想像させることが効果的です(写真:Fast&Slow/PIXTA)

ビジネスでは、依頼や提案に対して、断らざるをえない場面が多くあります。しかし、断り方一つで相手との関係性が大きく変わってしまいます。「仕事さがしはIndeed」キャンペーンなどを手がけた元電通コピーライター・藤田卓也氏の新刊『伝え方で損する人 得する人』から一部抜粋、編集のうえ、関係性を損なわない断り方をご紹介します。

背景をきちんと伝える。でないと勝手に妄想される

上手な断り方は、単に相手の依頼を拒否するのではなく、相手との信頼関係を保ち、円滑なコミュニケーションをサポートしてくれます。

一方で、損する伝え方では余計な説明が必要になったり、話がこじれたりします。

この違いは、どこにあるのでしょうか。

それは、周辺情報をきちんと伝えられているかどうかです。あなたがどういう状況にあるのか。どういう根拠で決断したのか。決断の背景には、どんな考えがあったのか。仕事への価値観は何なのか。こうした周辺情報を伝えないままただ断ってしまうと、相手は不安や偏見によって勝手な推測を始めてしまいます。

「自分の説得が足りないんじゃないか」「本当はやってみたいけど、不安が拭い切れないだけであと一押しなのではないか」と相手が思い始めてしまうと、ズルズルと長引いてお互い疲弊してしまいます。

相手の妄想にブレーキをかけてあげるには、根拠や背景を伝えて、相手が妄想するような余白を先に埋めてしまうのです。断る際の言葉選びやコミュニケーションの方法次第で、相手に与える印象や感情に大きな違いが生じます。

断り方の基本は、具体化です。具体的な理由や状況を説明することで、頼む側はあなたの判断の裏付けができ、断るという結論に至った過程を知ることができます。

「今すぐは難しいです」と曖昧に断るのでは、「じゃあ今すぐでなければいいのか」と相手は依頼を引き受けてもらう前提で代案を考え始めてしまうでしょう。そうではなく、「来週の木曜に重要な提案があるので、それまでは対応する時間が取れません」と伝えるわけです。

ポジティブな未来への過度なアクセルを防ぐために

どれだけ今忙しいのか。いくつタスクを抱えているのか。他の仕事の進捗率はどれくらいなのか。どれほど難しい議論を別で進めているのか。そうして根拠や背景を伝えても、相手がなかなか折れてくれないときもあります。依頼者は、あなたが引き受けてくれる未来を想像しています。いわば、ポジティブな未来に脳内が偏っている状況です。

そんな相手にとっては、壁であるはずの根拠や背景も「その気になればなんとかできるもの」に見えているのかもしれません。そんな目線の相手には、断っても断っても気持ちの変化が起こりません。むしろ、ポジティブな未来へ辿り着けるようより強くアクセルを踏ませてしまうだけです。

断る際には、無理して頼んだ先の「マイナスな未来」を相手に想像させることが効果的です。具体的なリスク、問題点を説明することで、相手は自らの依頼が現実的でないことを理解し、その結果を想像するようになります。

「ルール上、できないんです」では足りません。「ルールに違反してしまうので、取引先にまで迷惑がかかります」といったようにマイナスな未来を共有することで、相手もあなたと同じように状況を検討できるようになります。

了承できない背景を、あなたにはどうしようもできないような周辺への影響まで伝えていくことで、相手も客観的に状況判断が下せるはずです。

さあ、まだ相手が引き下がってくれません。時間を空けて、再び依頼を持ちかけられることもあるでしょう。あなた自身も、なんだか申し訳なくなっているかもしれません。断る側こそ、メンタルを消耗してしまうからです。

状況が変わっていないのであれば、優しさを見せることなく改めて根拠や背景を強調しましょう。マイナスな未来を、「前回から時間が経った分、ますますスケジュールが足りなくなっています。このままではクライアントの求める納期に間に合わせることが非常に厳しいです」と強く訴えるのです。

こちらからの要望を訴えて落とし所を探す

どうすればこの状況を変えられるのか、交渉に持ち込むのも手です。ただ単にお互いにしっかり話し合うようにするのではなく、「この仕様を変えることができれば、引き受けることが可能です」とこちらからの要望を訴えて互いの落とし所を探すわけです。

上司や他のメンバーなど、第三者に入ってもらうことも効果的です。断るというのは精神をすり減らすことですから、1対1で対応し続けるのではなくその負担を分散するのです。それでは、さまざまな断り方をみていきましょう。

それは無理です→ここまでなら可能です

断り方の難しいところは、時として相手を傷つけてしまうことです。強い表現を用いれば用いるほど、相手にダメージを与えるかもしれません。そんな状況を想像して、あなた自身が罪悪感を覚えてしまうかもしれません。断るのが苦手な人は、このパターンが多いように思います。

そんなときは「ここまでなら可能です」と言い換えてみましょう。否定を、肯定という真逆の表現に変換するイメージです。まず大前提として協力したいのです、という意思表示になります。また、具体的な範囲や条件を示すことで、相手はあなたがどれだけ忙しいのか、どういう状況なのかを理解できるようになります。

プロジェクトのスケジュール調整を依頼されたとしましょう。「そのスケジュールは無理です」と単に断るのではなく、「この期間まででよければ対応可能です」と具体的な範囲を示すことで、相手はどうするべきか前向きに検討することができます。どの条件が変われば引き受けることができるのか交渉を持ちかけてもいいでしょう。

大切なのは、相手に対する尊重と協力の姿勢を示すことです。もし条件が折り合わなかったとしても、相手はあなたのプロフェッショナリズムと柔軟さを評価し、信頼を寄せるようになるでしょう。

今忙しいんです→今週は時間が取れませんが、来週以降でしたら

「今忙しいんです」というのは断りのシーンで使われるフレーズナンバーワンかもしれません。どうしても無骨で拒絶の印象が出てしまいます。このような伝え方では、相手が共感する隙もありません。その結果、雑に断られてしまったという感覚になってしまい、相手との関係がぎくしゃくしてしまうことすらありえます。

「今週は時間が取れませんが、来週以降でしたら対応できます」という表現は、具体的なタイミングを示すことで相手に対して柔軟性と協力の意思を伝える方法です。相手に対して具体的なスケジュールを提示しているので、対話を止めることもありません。

新しい案件の依頼があったとき「今忙しいんで」と断る代わりに、「今週は会議やプロジェクトが立て込んでいて難しいですが、来週の月曜日なら参加可能です」と伝えてみましょう。

代案を示すことで、相手に対して配慮や尊重の姿勢も伝わります。具体的な予定であればあるほど、相手はあなたが自分の依頼を真剣に考えているという印象を受け、信頼感も高まります。

忘れてはいけないポイントがもう一つ。代案だけを伝えないことです。「来週月曜なら大丈夫ですよ」と伝えたとします。これでは今どんな案件でどれほど忙しいのかが伝わりません。状況を的確に伝えることは、断る前の下ごしらえのようなものです。

ルールだけでなく、背景や事情もあると伝える

会社のルールでできません→社の方針でご迷惑をかけてしまいます

マイナスの未来を伝えることで、より適切な検討を相手に促すアプローチです。どんな影響が起こりうるのか、さらに具体的に伝えるのも効果的です。相手へ配慮しつつ、無理することで引き起こされる未来を共有することで、お互いがより冷静に状況をジャッジできるはずです。


あるプロジェクトでの特別な要望に対して「会社のルールでできません」と断れば、相手は、そのルールは本当に変えられないものなのだろうか? そもそもそんなルールはあるのか? などあれこれ妄想を巡らせてしまいます。

代わりに、「この件については社の方針によりご期待に添えないかと思います。過去に同様の事例があり、その際にはこうしたトラブルが発生しました」と背景や事情を伝えることで、相手はその制約の全体像をようやく理解できるのです。

会社のルールだけを持ち出すのではなく、そこには大きな方針があり、きちんと理由もあると見せることはとても有効です。例えば取引先から納期短縮を求められた際、「社のルールとしてこの工程には5営業日を必須としています。非常に繊細な機器を使用しますので、下手に短縮すると調整が足りず故障する恐れがあるのです」と断りましょう。ふんわり曖昧にして変な余白を残すと、お互い損します。

(藤田 卓也 : コピーライター)