練習でランニングをする浦和・松尾佑介(カメラ・星野 浩司)

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 J1浦和が残留に向けた戦いを続ける中、MF松尾佑介(27)が存在感を増している。

 前節・横浜FM戦は左MFで先発。開始13分にロングパスに快速で抜け出して左クロスを送り、MF渡辺凌磨のゴールをアシストした…かに見えたが、自身にオフサイドがあったと判定された。「オフサイドは仕方ないけど、ギリギリを狙うからこそああいうシーンが作れる。そこは続けていきたい」。試合は0―0ドローに終わったが、チームの決定機の数は増え、確かな手応えをにじませた。

 4試合連続の先発出場。松尾はドリブル突破に加え、背後に走ることで相手陣形を崩してスペースを生むなど、チームの好機を演出している。この日は自身の今季最長となる後半37分までプレーした。今季は重い腰痛に苦しみ、5〜6月は離脱。夏場の途中出場を経て、直近4戦は76分、79分、75分、82分とプレー時間を伸ばしている。本人は「あと10分、しっかりピッチに立っていたい」と語ったが、本来のプレー強度や運動量など状態が戻ってきたからこそ口にできる課題だ。

 残留争いに巻き込まれたチームを強い気持ちで引っ張っている。先月19日の東京V戦で4連敗し、16位に転落。その2日後、選手だけで約1時間のミーティングが行われた。普段は積極的に発信するタイプではない松尾だが、横浜FCで19年にJ1昇格、21年にJ2降格を味わった経験から、今のチームに対して自身の思いを伝えた。

 「降格をあまり慣れてる人がいなかったので、僕が経験したからじゃなくて、『浦和にとっての降格ってどういうものかをもう少し意識した方がいい』と伝えた。横浜FCの時、僕が大学で(仙台大4年時に特別指定選手として)入った時は、観客の方はニッパツで3000人ぐらい。J2昇格が近づくにつれて、それが5000、6000、7000人と増えた。逆に、いま埼スタにに3万、4万人の観客の方が入ってますけど、降格したら、もしかしたら2万、1万人になるかもしれない。それで僕たちのモチベーションは下がるし、ファンが一番根強いチームなのに、ファンが離れてしまうのは最悪の事態。それだけは避けなきゃいけない。優勝を本当にしたいんだったらJ1にいなきゃいけない」

 まずは「J1残留」という目標を明確にする一因となる言葉になった。「苦しい状況での楽しむこと」など多くの意見が出たが、松尾は個人の考えとして「今は楽しむ暇はない」とし、「まずはこのチームのためにしっかり戦う、そのために監督のやりたいことをしっかり表現する、ここでバラバラにならないのが大事」と強調した。

 「正直苦しいけど、僕はもっと戦おう、僕も守備はあんまり好きじゃないけど、今に限っては、そこをもっと、やりたくない仕事をもっとやるべき。それがチームにとって一番大事。その後にやりたいことがあったらそれぞれ来年度は試せばいいと思いますし、その時間ある。今はそういう時間だよっていうことを伝えました」

 チームは2試合連続の無失点。その中で、松尾は前線のプレス、カウンターを浴びた時のプレスバックなど、守備面で際だっている印象がある。「僕だけじゃなく、それがチームのスタンダードになっていくのが大事。ここ2試合ではそれもしっかりしてるから失点も少ない」。堅守をベースに得点を仕留めにいくチームの象徴的な存在の1人になっている。

 残留に向けて、刺激を受ける存在がいる。仙台大時代に前線でコンビを組んだ、同級生のJ2岡山FW岩渕弘人。現在はチーム最多13得点を挙げ、J2で4位と昇格を争う岡山のエースを担っている。

 「結構、試合を見てますよ」と岩渕の活躍ぶりを日頃からチェックしていると明かし、「彼は膝の大けがから復帰して、岡山の重要な選手になってる。本当にプロフェッショナルな選手。モチベーションになるし、僕も頑張らなきゃと思う」。目標は岩渕が昇格、自身は残留。「できれば来年J1で会えればと思う。それで僕たちがJ2に落ちたらしゃれにならないので、しっかり残留したい」と言い切った。

 チームは8月末に成績不振で監督が交代。その後は4連敗と苦しんだが、直近2戦は徐々に守備が安定し、攻撃面でもチャンスの数は増えた。「変化の前には一回沈むもの。まず残留を決めて、来年にまた上がっていけるように頑張っていきたい」。10日はホームで2位・広島と対戦。勝てば残留が確定する一戦で、松尾が強い覚悟でゴールを奪いきる。(星野 浩司)