「日中はもっと良い関係が築ける」を出発点に〜渋沢健さんに聞く
「渋沢栄一の『論語と算盤』から学ぶ現代意義と新たな時代の日中関係」と題した講演会が2日、北京で開かれました。これは、在中国日本大使館と北京の民間団体・留日商会により企画されたもので、玄孫(やしゃご)の渋沢健さんによるオンライン講座と、国際金融論壇特約研究員の李海燕さんの講演が行われ、オンライン、オフライン合わせて約70人のビジネスマンや研究者らが参加しました。
講演会の冒頭、金杉憲治日本大使があいさつに立ち、「『論語』が持つ本質的な力と、渋沢栄一の実践の力とが合わさったことで、その著書『論語と算盤』には強い普遍性と説得力が備わった」と述べ、「新たな切り口による日中交流の機運を醸成する機会としたい」との考えを示しました。
また、欧米同学会議留日分会副会長で、留日商会の会長を務める房恩さんは、道徳と経済の両方を重視する渋沢栄一の考えを称え、「民間交流の強化により、両国関係の改善と発展に条件と環境を作ってほしい」と期待を寄せました。
渋沢健さんは、「渋沢栄一の『論語と算盤』から学ぶ現代意義と新たな時代の日中関係」と題した講演の中で、『論語と算盤』の第1章第1節に出てくる「正しい道理の富でなければ、その富は完全に永続することができない」という一文を引用し、「日中関係は正しい道理をちゃんと歩めば、富の永続というのは可能になるが、その道理から外してしまうと、誰もが望んでいないような世界に再び陥るかもしれない。決してその過ちを起こすべきではないという声を渋沢栄一は上げていると思っている」と語りました。
続いて講演を行った李海燕さんは、「今日の中国において、『論語と算盤』は企業の利益追求と社会貢献の両立、官と商の対等な関係の構築、取り残された人たちへのケアなどの面において、依然として参考にする価値がある」と評価しました。
なお、この講演会は、渋沢栄一が日本で新1万円札の肖像として採用されたこと、また、その著書『論語と算盤』が、改革開放後、中国で何度も翻訳・出版され、経済界や学界で注目を集めていることなどを背景に企画されました。
講演会の後、渋沢健さんがリモートでCMG日本語放送のインタビューに応じました。
――グローバリゼーションが進む現代社会に、『論語と算盤』がどのようなメッセージを出しているとお考えですか。
社会に取り残されている人たちがいると、混乱が起きます。極端な話、戦争とかが起こります。そうなると、せっかく築いた富の永続性が途切れてしまうわけですよね。だから、やはり、インクルーシブな発展によって、いかにサステナブルにするかということなんじゃないかと思います。その中で、正しい道理で社会が発展していけば、我々が見えてない未来をきちんと、一部の人だけではなくて、より多くの人々が実現させられる可能性がある。それが『論語と算盤』の現代的な意義だと私は理解しています。
――講演の中で、渋沢栄一が提唱したのは“論語か算盤”ではなく、“論語と算盤”だったことに着眼し、「と」の力の重視が、『論語と算盤』のエッセンスだとも強調していました。
人間には「イマジネーション」の力があります。現状ではできていないが、イマジネーションを生かして、時々飛躍して現実をつなげることができる。関係なさそうなものを合わせて、新しい価値を作る。この“と”という人間にしかできない人間力を使えば、時代がどのように変化しても、その変化に適応することができる。その一歩、二歩先に歩むイノベーションを起こすことができると思います。これは、他の動物はできないし、現状のAIもできない、人間にしかできないことです。これこそが渋沢栄一の『論語と算盤』のエッセンスです。
渋沢健さんの講演会から
――ところで、渋沢健さんは中国を訪問したことはありますか。
はい。北京、上海、重慶、武漢などを訪問したことがあります。
――実体験した中国の感想は?
プレスで見る日中関係というのは、お互いがお互いの国に行ったことのない人が色々言っているような感じがしています。中国もそうですし、アフリカへ行ってもそうですし、アメリカに行ってもそうですし、どの国にもそれなりにいろんな人たちがいて、そこの生活がある。より良い、豊かな生活ややりたいことを求める人が、圧倒的に多いんですけど。それがいろんな道理を外しているために、ちょっと複雑な関係ができてしまっているということは残念だなと思います。
――最後に、渋沢栄一の『論語と算盤』から新たな時代の日中関係にとってのヒントをどのようにお考えですか。
自分がやってほしくないことを相手にやるべきではありませんし、自分がやってほしいことを相手にするということが人間関係の基本だと思います。そういう意味では、日中を、国境や政府などの切り口ではなくて、人間と人間が会った時の付き合いをしてほしい。別にそこに大きな障壁はないと思っています。それが、渋沢栄一の100年以上も前からのメッセージですし、何千年前から同じようなこと言っている人もたくさんいたと思うんですよね。
国境などの枠に囲まれて生活している我々ですが、枠の向こう側の景色がどうなっているんだろうね、という好奇心さえ失せてしまうと、良いことは起こらないと思います。それは相手にとっても、自分たちにとっても同じです。
だから、自分が相手の立場になった時に、という考え方が必要だと思います。しかし、自分は相手ではないので、「相手の立場」というのは頭の中のイマジネーションを使うしかないと思うんですよね。日中はいろんなとこでいろんな課題がありながら、もっといい関係が築けるでしょう、というところがスターティングポイント(出発点)なんじゃないのかなと思っています。(提供/CRI・取材/王小燕)