“子どもたちの笑顔” とともに生きていく 世界的に希な疾患「KAT6A」の3兄弟と母の決意《長崎》
世界的にも希な遺伝子疾患のある 3人の兄弟。
子どもたちの笑顔とともに生きていきたい。病気と向き合い、支え続ける母の姿を追いました。
子どもたちの写真を愛おしそうに見つめる女性。
長与町に住む永田圭子さん50歳です。
10月、地元・長与町で開催した「笑顔展」。
撮りためてきた自身の子どもたちの写真や絵など 約200点を展示しました。
永田さんが伝えたかったのは…
(永田圭子さん)
「この子たちは希少疾患で言葉を話せないし、感覚過敏があったり、知的障がいが重かったりする」
永田さんには4人の息子がいて、このうち3人には「KAT6A」という疾患があります。
その苦しみだけでなく、笑顔の尊さや前向きに生きる姿を届けたいという思いです。
■世界的に非常にまれな遺伝子疾患「KAT6A(カットロクエー)」
遺伝子の突然変異により起きる「KAT6A」。
2015年にアメリカで発見され、おととし時点で世界で約600人。
日本では10人ほどしか報告のない珍しい疾患です。
重度の知的障がいや言語障がいのほか、目や心臓、消化器などへの影響も見られます。
遺伝子疾患の研究に携わる医師の近藤達郎さんは、永田さんの3人の息子の診療を担っています。
(近藤達郎 医師)
「とても穏やかで優しく はつらつとした子どもたちだが、その一方で非常にデリケート。
夜に全然眠れなくなったり、心が全く落ち着かなくなり日常生活がきちんと送れなくなってしまうことも 実際に起こりうる」
言葉を話せない息子たちの思いを理解しようと、永田さんは “ハンドサイン“ などで語り掛けます。
「KAT6A」と向き合うことになったのは、現在22歳の長男・晴也さんが生まれてすぐの頃。
(永田圭子さん)
「(ミルクを)一口飲むのが一生懸命で。もう日々生きていくのに、どうやったら苦しくないだろう。どうやったら食べてくれるだろう。どうやったら寝てくれるだろう。全く情報がない中で、子育てをしていく中で、私も泣くことが多かった」
幼いわが子の命をつなぐのに必死の毎日。
当時は、どれだけ医療機関を当たっても「原因不明」と言われるばかりでした。
そのあと誕生した 三男の祥人さん、四男の拓土さんにも、同じような症状が…。
ようやく3人に診断名がついたのは、8年前です。
(永田圭子さん)
「もうそれはほっとしました。これで支援してくださる方たちに、こういう疾患なんだ、こういう病気なんだということを伝えられるものができたっていうのが、一番嬉しかった」
■社会とどう関わっていくのか 支援員さえ気づかない我慢をしている時も
長崎市の生活介護事業所「すみれ舎」。
長男の晴也さんは、週に1、2回通い、家族と離れて社会との関わりに慣れるための時間を過ごしています。
ここでの楽しみはドライブです。
(長男 晴也さん)
「うん、いいよー」
カメラが回り、ちょっぴり緊張気味で落ち着かない様子でしたが…。
目的地の海岸に到着すると、友人の手を引きながらお散歩。
いつしか表情も穏やかに。リラックスしているように見えました。
ドライブから帰ると、待ちに待ったランチタイム。
(長男 晴也さん)
「おいしい、おいしい」
好き嫌いなく、しっかり完食です。
(支援員 門本裕太郎さん)
「1番明るくて頼りになる存在。明るい反面、支援員たちも気づかないようなぐらい我慢して我慢してっていうところがある。頑張りと、頑張りすぎなくていいっていう境目のところを見極めながら、一緒に楽しく生活していきたい」
■できるようになる時間が長いだけ、できたときの喜びも大きくなる
永田さんは三男の祥人さん、四男の拓土さんが通う 特別支援学校にお迎えに。
子どもたちの成長を、日々感じています。
(永田圭子さん)
「ちゃんと思春期も来るし、自分のことをわかろうとしているんだろうな。難しいというよりは、成長しているんだとうれしくなる」
帰宅後の祥人さんは、学校で描いた絵をほめられ、ご機嫌でしたが…。
すぐに2階へ。
拓土さんはというと、部屋の隅に。疲れからか泣き出してしまいますが、なだめられて、洗濯物をカゴに入れます。
片づけを終えるとゲームやお絵描きを楽しみ、だんだん笑顔が出てきました。
すると、今度は晴也さんが帰宅。
永田さんの力になろうと、率先して家事を手伝ってくれました。
(永田圭子さん)
「やっぱりできないことができるようになるには、 普通の子育てのすごく倍、何万倍って私よく言うんですけど。たくさんの時間を要してる分、彼らの努力の跡、周りのサポートの跡が見えるので、やっぱりすごい喜びは感じます」
■僕があなたのお役に立てて嬉しい = “ありがとう” にこもった思い
永田さんは、たくさんの「ありがとう」を伝えます。
これは、晴也さんが大好きな言葉です。
(永田圭子さん)
「彼のありがとうは、人に対してのありがとうじゃなくて、僕があなたのお役に立てて嬉しいです、ありがとうのありがとうなんです。
彼が自分の存在意義をしっかり認めている時の、ありがとうっていう言葉」
病気とともに、懸命に生きる我が子とのかけがえのない暮らし。
これからも幸せの瞬間を記録し、発信し続けます。
(永田圭子さん)
「この子たちを産んで得た経験であったり、自分も頑張りすぎて病気になったりとかして、 この病気を克服しなかったら、この子たちに会えなかったっていう現実がある。
せっかく授かった命を大事にしていきたいっていう思いと共に、もうこれは “世界宝くじ” に当たったんだなと思って、 この子たちの笑顔と共に生きていけたら」
永田さんは子どもたちとの日常の一部をインスタグラムのこちらのアカウントで発信しています。
ぜひ覗いてみてはいかがでしょうか。