石破自民が無様な大敗「誰も気づかなかった本当の原因」…なぜ「岩盤支持層」までソッポを向いたのか
自民党大敗の「戦犯」は誰なのか―。与党過半数割れという衆院選の結果を受けて、自民党内は蜂の巣をつついたような状況に陥っている。石破茂首相ら執行部の即時辞任を求める声があがる一方で、石破氏ら執行部は国民民主党との連携や無所属議員へのラブコールを活発化させ、延命工作に躍起だ。政権交代を許した2009年以来の危機は、もはやカオスに映る。そもそも、自民党はなぜ大惨敗を喫したのか。選挙分析に定評がある経済アナリストの佐藤健太氏が「本当の敗因」を探った。
『自公で過半数』自ら設定した最低限の目標すら達成できず
10月27日投開票の衆院選で、自民党の獲得議席は191議席と公示前から56議席マイナスとなり、公明党の24議席(公示前32議席)を足しても与党で過半数(233議席)を確保することはできなかった。数の上では野党が71議席伸ばして235議席を獲得し、与党以外の議席は諸派や無所属の15議席を加えた250ということになる。
石破氏が率いる自民党が惨敗した最大の理由は、派閥の政治資金パーティー収入をめぐる裏金問題にあることは間違いない。首相ら執行部は政権維持のため、同党を離党した世耕弘成前参院幹事長や「非公認」で当選した西村康稔元経済産業相、萩生田光一元政調会長、平沢勝栄元復興相に自民党会派入りを打診。無所属の三反園訓、広瀬健両議員を合わせた計6人が衆院会派に入る見通しとなった。森山裕幹事長は他の議員にも熱烈なラブコールを送る。
だが、過半数確保までの道程はあまりに険しい。そこで議席を4倍増にした国民民主党(28議席)と政策協議の場を設け、石破氏は積極的に同党の政策を採用することで政権維持を図るシナリオを描く。今年度の補正予算案や来年度予算案、年末の税制改正作業で国民民主党との一致点を見いだしながら進むつもりのようだ。
もちろん、選挙で大敗したからには「総括」なくして自民党の再興はあり得ないだろう。主要新聞各紙も石破氏の退陣を求める社説のオンパレードだ。読売新聞は10月29日の社説で「政権に居座り、政局の混乱を長引かせることは許されない。速やかに進退を決することが憲政の常道である」と指摘した上で、執行部に責任を取らせて済む問題ではないと石破首相に求めた。朝日新聞は10月28日に「『自公で過半数』という自ら設定した最低限の目標すら達成できなかった以上、石破首相は職を辞すのが筋だ」と退陣を迫っている。
自民党大敗の敗因すべてを石破執行部に被せるのは短絡的
自民党でも9月の総裁選で争った高市早苗前経済安全保障相を支持した議員からは「石破政権への信を問うてこの結果、ということを軽視しすぎではないのか」「選対委員長の辞任で済む話ではない」などと首相への不満が爆発寸前だ。山口県連や千葉県連などからも首相の責任を問う声が広がる。
たしかに、衆院選の直前になって裏金問題に関係した候補者を「非公認・比例重複なし」としたことや非公認候補が代表を務める支部に2000万円を支給した執行部の判断は混乱を招き、さらに逆風を強めたことは否めない。石破氏の言動の“変節”がメディアに取り上げられ、自民党総裁選で上昇したはずの期待感が失望に変わったこともマイナスに働いただろう。
ただ、筆者は今回の自民党大敗の敗因すべてを石破執行部に被せるのは短絡的であると感じる。その理由は、すでに自民党そのものが「オワコン」と化していたように映るからだ。実際、共同通信が10月28、29日に実施した世論調査によれば、石破首相が過半数割れの責任をとって辞任すべきとの回答は28.6%にとどまり、辞任は必要ないが65.7%だった。読売新聞の調査でも辞任すべきとは「思わない」が56%、「思う」は29%となっている。この点を踏まえれば、国民の多くは「石破首相続投」にゴーサインを出していると言える。
では、自民党大敗の「本当の敗因」は何だったのか。それは先に触れたように旧来の自民党のあり方、選挙手法が時代にもはや追いついていけていないことにある。今回の選挙結果を見ると、自民党は比例票が2021年の前回衆院選(1991万票)から533万票も減らした。実に26.8%もの下落で計1458万票にまで落ち込んでいる。立憲民主党は公示前の98議席から148議席に増やしたが、1156万票で前回から約7万票しか増えていない。
選挙手法がすでに「オワコン」と化
増えたのは、議席を4倍増にした国民民主党の617万票(前回比プラス358万票)、れいわ新選組の381万票(同プラス159万票)だ。衆院選に初めて臨んだ参政党は187万票、日本保守党が115万票を獲得した。
その他の既成政党を見ると、公明党は596万票でマイナス115万票、日本維新の会が805万票でマイナス294万票、共産党は417万票でマイナス81万票、社民党は102万票でマイナス9万票と軒並み減らしていることがわかる。つまり国民民主党、れいわ新選組を除き、有権者の多くは既成政党に「NO」を突きつけたのだ。その意味では、ほとんどの既成政党のあり方、選挙手法がすでに「オワコン」と化しているとも言えるだろう。
比例代表投票先で自民党トップは18歳・19歳と40代以上
国民民主党、れいわ新選組が伸長した理由は明らかだ。日本テレビ系列と読売新聞が行った出口調査を見ると、比例代表の投票先で自民党がトップだったのは18歳・19歳と40代以上に限られる。20代と30代は国民民主党が20%を超えて最も多い。興味深いのは、自民党だけでなく公明党や立憲民主党、共産党は年代が上になるにつれて選ばれる率が高まるのに対して、国民民主党は20代(26%)、れいわ新選組は30代・40代(12%)が最も高くなっている点にある。この傾向は、朝日新聞の出口調査でもほぼ同じだ。
今回の衆院選で国民民主党は「手取りを増やす」と若者を中心に働きかけ、年収103万円を超えると所得税が課税される「103万円の壁」解消やガソリン税の上乗せ部分の課税を停止する「トリガー条項」凍結解除などを掲げた。れいわ新選組は、消費税廃止や社会保険料引き下げ、季節ごとの10万円支給などを訴えた。物価高に苦しむ人々だけでなく、収入が増えずに生活が困窮する若者にアプローチし、SNSを積極活用した戦略も奏功した形だ。組織戦を展開した他の既成政党とは戦術も視点も異なる。
「石破自民党だから票を減らした」は本当か
支持政党を持たない無党派層の取り込みは議席数に大きく影響する。時事通信の出口調査によると、全体の約3割を占める無党派層の比例代表での投票先は、立憲民主党が最多の27.4%で、自民党は16.9%、国民民主党14.9%、れいわ新選組8.3%だった。政権批判票は立憲、国民民主、れいわに分散したことがわかる。ただ、先に触れたように立憲の比例票は前回から約7万票の伸びにとどまる。つまり、無党派層の政権批判票はある程度吸収していても、それ以外の票は減ったことを意味する。
今回の衆院選結果を受けて、自民党内には「石破自民党だから票を減らした」との声がある。だが、本当にそうだろうか。自民党は安倍晋三元首相が2012年末に政権奪還を果たして以降、国政選挙で連勝を重ねてきたのは事実だ。しかし、無党派層の比例代表での投票先は2014年の衆院選を除いて自民党はトップだったわけではない。
自民党は2012年の衆院選で圧倒的勝利を収めて294議席を獲得。2014年は291議席、2017年は284議席、2021年は261議席を得ている。ただ、10月27日に配信された朝日新聞の出口調査に関する分析記事によれば、自民党は2012年の衆院選比例代表での投票先が19%にとどまり、維新の28%に差をつけられた。2014年は自民と維新が最も多い22%で並んだが、当時の民主党も20%に迫っている。それ以降の衆院選では立憲がトップで、2017年は立憲29%(自民は21%)、2021年は立憲21%(自民は19%)だった。
自民党は無党派層から「ソッポ」を向かれ始めた
つまり、すでに自民党は無党派層から「ソッポ」を向かれ始めていたのだ。2012年から第1党の座を確保できたのは、50代以上の有権者に加えて「若者」の票を取り込んでいたことが理由にある。朝日新聞が2021年11月1日配信した2021年衆院選の分析記事を見ると、比例代表での投票先は10代・20代で自民党が40%を獲得し、30代・40代でも30%を超えていることがわかる。だが、今回の衆院選では国民民主党、れいわ新選組が若者や働き盛りの人々に響く公約を掲げたことで、従来の“勝ち筋”が抜けてしまったと言える。
かつて国民的な人気を誇った小泉純一郎首相は「自民党を延命させた」といわれた。その意味では、史上最長の長期政権を築いた安倍元首相も同じだろう。若者からの人気も獲得し、保守層を中心に「岩盤支持層」と呼ばれる強固な支持基盤を得てきた。9月の自民党総裁選で「保守派のマドンナ」高市氏が決選投票まで進んだことを見ても、保守層には“親安倍路線”が響くのは間違いない。
だが、これまで安倍氏と距離を置いて批判的な言動も繰り返してきた石破氏には“岩盤”がない。「国賊発言」で問題視された村上誠一郎衆院議員を総務相に起用し、アベノミクスの修正を目指す点なども“岩盤”からすればマイナスと映るはずだ。つまり、石破自民党の本当の敗因は「無党派層」「若者」が離れつつあったところに、「岩盤支持層」までソッポを向いたことにある。勝利の方程式が瓦解していたのだ。
スター不在の自民党
共同通信が選挙後の10月28、29両日に実施した世論調査によると、石破内閣の支持率は32.1%となり、内閣発足直後の調査(10月1、2日実施)から18.6ポイントも下落。不支持率は52.2%となった。自民の議席減に裏金問題の影響があったと思うかとの答えは91.4%に上り、自民党と公明党による連立政権継続を「望まない」としたのは53.0%に達した。
読売新聞の調査(10月28、29日)でも石破内閣の支持率は34%で内閣発足から1カ月足らずで17ポイントも下落。不支持率は19ポイントも上昇し、51%となった。政党支持率を見ると、自民党は38%から25%に下落。立憲民主党は14%に倍増し、国民民主党は1%から7%に急上昇している。
ただ、今回の結果を石破氏だけの責任とするのは無理がある。自公の比例票が1996年の比例代表導入以降の衆院選で過去最少となったことを考えれば、小泉純一郎氏や安倍晋三氏という“スター”が不在であれば早晩行き着いた結果と言えるからだ。
「本当の敗因」
岸田文雄政権時代の増税プランや社会保険料アップ、高齢者や低所得者向けばかりの経済対策といった点も忘れてはならない。国民民主党、れいわ新選組が「ウケた」のは、その間隙を埋めた政策と主張にあるのだろう。
繰り返すが、今回の衆院選結果は裏金問題や対応、石破氏の“変節”といったマイナス点が響いたことは間違いないが、若者や無党派層に効果的なアプローチをしてこなかったこと、高齢者頼みの延命に胡座をかいてきたことに「本当の敗因」がある。保守層を中心とする岩盤支持層だけを獲得しても、それだけで政権を維持し続けることができるわけではない。その意味では、自民党のあり方、選挙手法を抜本的に見直さなければ再び下野する可能性は高いのではないか。
筆者は、自民党が「オワコン」と化しているように映ると指摘した。だが、これは立憲をはじめとする他党にも言えることだ。来年夏には参院選、東京都議選が控える。各政党は今回の衆院選結果を踏まえて「総括」をどのように行い、変わることができるのか否か。その結果は否が応でも、まもなく問われる。