40代で白内障になる人が増えている…治療法を間違えると「悲惨な目」にあう納得の理由
自分はまだ見えるから大丈夫?そう思う人の背後に、白内障の影が忍び寄っている。高額な治療法だからといって、必ずしも効果が高いとは限らない。「正解」を知ったら、きっと目を見張るはずだ。
30代でも発症する
「半年ほど前から目がかすんだり、ぼやけて見えたりすることが増えてきました。プログラマーという仕事柄、平日はパソコンの画面を見ている時間が長いので、ただ目が疲れているだけだと思っていたんです」
こう語るのは都内のIT企業に勤める山上健吾さん(38歳・仮名)だ。休日はスマホの画面を見ないよう意識して目を休めたり、コンタクトをやめて眼鏡に変えたりしても、症状は一向に改善されない。困り果てて眼科を受診した結果、驚くべきことに「若年性白内障」だと診断された。
眼の中でレンズとしての役割を果たしている水晶体が濁っていき、視覚にさまざまな問題が生じる白内障。年齢とともに水晶体内のタンパク質が酸化するのが主な原因であり、50代では2人に1人、80代になるとほぼ全員が発症するため、年間160万件もの手術が行われている。まさに「高齢者の病気」だと言えるだろう。
しかし最近では、若くして発症する人も決して珍しくない。日本橋白内障クリニック名誉院長の赤星隆幸氏が解説する。
「高齢化とともに白内障の患者さんは増えていますが、同時に30〜40代で発症する方もよく見かけるようになりました。もはや白内障になるのは高齢者だけとは限りません。どんな世代にも起こりうる病気なのです」
治療の選択を間違えて白内障が進行すると、急性緑内障などを併発し一晩のうちに失明してしまうリスクもある。大事な視力を失わないためにも、日夜進歩を重ねている白内障治療の「正解」を知っておこう。
白内障治療の「正解」とは
目の疾患となると、まず思い浮かべる治療法は点眼薬、すなわち目薬だろう。水晶体を濁らせるキノイド物質の働きを抑制するカタリン(一般名:ピレノキシン)や、白内障の進行にともなって減少していくグルタチオン(アミノ酸化合物の一種)を補い、水晶体の透明さを維持するタチオン(一般名:グルタチオン)などがよく処方される。
だが、その効果に疑問を抱いている眼科医は少なくない。前出の赤星氏もその一人だ。
「これらの点眼薬は白内障の進行を抑えると言われていますが、実際にはほとんど効果が見られないため、使い続けても症状はどんどん悪化していきます。うちの病院では、白内障の方に処方することはまずありません」
欧米ではもはや、白内障の治療に目薬が使われるケースはほとんどないという。「サプリのようなもの」と割り切って使うならまだしも、値段が安いからといって目薬に頼っていては、白内障は進行していくばかりだ。
根本から治療したければ、外科手術を行うほかに手はない。角膜または強膜と水晶体嚢(水晶体を包んでいる袋)の前面を切開し、水晶体を超音波で液状になるまで細かく砕いて除去したうえで、代わりとなる「眼内レンズ」を入れるのが現在の白内障手術の手順だ。
近年では超音波の前に、あらかじめ専用の器具で水晶体を細かく分割(プレチョップ)しておき、より効率的に除去する「プレチョップ法」がポピュラーになってきた。
早ければ片目5分程度、費用も約5万円で済む手術だが、これにレーザーを導入する眼科医が増えてきている。患者を寝かせて眼球を固定しボタンを押せば、角膜や水晶体嚢の切開、および水晶体の分割を自動でやってくれるため、医師の技量に関係なく手術できるのが大きな特徴だ。
「レーザー手術」こそハイリスク
レーザー手術は保険適用外で全額自己負担になるため、医師の手によるマニュアル手術と比べ約10倍も高価な「松」の手術と言える。値段に応じた効果が伴うなら支払う価値もあるだろうが、実はそうとも限らない。
「レーザーを使えば腕に自信のない医師でも一定水準の治療が可能ではあるものの、手術時間が片目につき20〜25分と長く、その分だけ術後合併症を引き起こすリスクも高まります。加えて角膜や水晶体嚢を切開する際、高速でレーザーを連射して切断するため、切断面がなめらかな線ではなく細かな点線になってしまい、傷口が綺麗にくっつきにくい。
プレチョップで水晶体を割るためだけに使うならまだしも、すべてレーザーで切開することに値段相応のメリットがあるとは到底思えません。5分程度で終わるマニュアル手術のほうが、圧倒的に優れていると思います」(赤星氏)
腕のいい眼科医を見つけ出して、プレチョップ法でマニュアル手術をしてもらう?体にも懐にも優しいこの選択肢が、現在の白内障治療の「正解」だと言えるだろう。
その場合、肝心の「技量が高い眼科医」を見分ける方法にもコツがある。
「担当の医師に『切開するのは角膜ですか?それとも強膜ですか?』と聞いてみるのが、一つの指標になるでしょう。角膜は黒目、強膜は白目にあたる膜のこと。透明な角膜には血管がないため切開しても出血がない反面、手術に時間がかかると傷が閉じにくくなってしまうので高い技術が求められます。有名な大病院の眼科に限って、いまだに強膜を切開して手術しているところが少なくないですね」(赤星氏)
医師の熟練度を見極めるもう一つの基準が、「使用する麻酔の種類」だ。赤星氏が続ける。
腕のいい医師はここが違う
「腕がいい医師は注射麻酔ではなく、点眼麻酔を選ぶことが多い。点眼麻酔は患者さんの負担が軽い一方で効果が続く時間が短いため、スピーディーな手術が求められるからです」
たまプラーザやまぐち眼科院長の山口大輔氏は、「特別な事情がない限り、片目ずつ手術する医師が望ましい」と話す。
「両目にレンズを入れてどちらも思ったように焦点が合わないと、うまく見えず日常生活に支障が出ることもあります。手術する側からすれば、両目を同時にやったほうが楽なのは事実です。しかしあえて二度手間をかけて、まず片目だけにレンズを入れて見え方を確認している医師は丁寧だと思います」(山口氏)
後編記事『白内障治療の失敗は「レンズ選び」で起こる…値段が高いから良いとは限らない納得の理由』では、レンズ選びで起きがちな失敗について紹介する。
「週刊現代」2024年10月26日・11月2日合併号より