「EVの将来性」めぐり見方割れる中国自動車業界
嵐図汽車は新型車「知音」にPHVを用意せず、あえてEVのみで発売した(写真は同社ウェブサイトより)
「今後の2年間で、車載電池の価格はさらに下がる。と同時に、電池の性能や充電技術が急速に進歩し、EV(電気自動車)の商品性は明らかに向上する。つまりEVの急成長期はこれからだ」
中国の新興自動車メーカー、嵐図汽車(ボヤー)の蘆放CEO(最高経営責任者)は10月14日、メディアの取材に対してそう発言した。中国自動車市場でEVの販売がPHV(プラグインハイブリッド車)に押されて伸び悩むなか、蘆CEOの強気の予想は異色と言える。
嵐図汽車は、国有自動車大手の東風汽車集団が2020年にEVおよびPHVの専門ブランドとして立ち上げ、翌年に子会社として独立。その後に発売した最初のモデルから3番目のモデルまでは、いずれもEVとPHVの両方をラインナップしてきた。
足元ではPHVが急成長
ところが、10月13日に発売した4番目の新型車「知音(ジーイン)」は、あえて全グレードをEVのみとした。冒頭の蘆CEOの発言は、その意図について説明したものだ。
足元の市場ではEVとPHVの勢いの差がますます鮮明になっている。中国汽車工業協会のデータによれば、2024年1月から9月までの中国市場でのEV販売台数は498万8000台と、前年同期比11.6%の増加にとどまった。
それに対し、同期間のPHVの販売台数は332万8000台と前年同期の1.84倍に急増。このペースの成長が続けば、絶対数でもEVを逆転するのは時間の問題とみられる。
そんな中、中国の自動車メーカーの対応は二極化の様相を呈している。あくまでEVにこだわり、充電インフラの整備など利便性向上に注力する動きと、経営資源をPHVの開発に振り向ける動きに分かれているのだ。
蔚来汽車のEVは電池交換式の設計を採用し、専用ステーションでわずか数分で交換できる(写真は同社ウェブサイトより)
“EV堅持派”の代表と言えるのが、新興EVメーカーの蔚来汽車(NIO)だ。同社のEVは電池交換式の設計を採用し、中国各地に設置した専用ステーションを利用すれば、わずか数分で充電済みの電池に交換できる。
さらに蔚来汽車は、交換式の電池ユニットを顧客にリースすることで、車両本体の購入価格を抑える(ことでPHVに対する割高感をなくす)仕組みも提供している。
アメリカのテスラは、EV堅持派のもう1つの代表だ。同社は「スーパーチャージャー」と呼ぶ自社開発の急速充電装置のネットワークを広げることで、顧客の利便性を改善してきた。テスラ中国法人は2024年8月、中国全土に設置済みのスーパーチャージャーが1万1500基に達したと発表した。
EV復調のカギは充電インフラ
今回、EVのみの新型車を発売した嵐図汽車も、自前の充電インフラの拡充を急ぐ。9月下旬には湖北省武漢市に最初の急速充電装置を設置。それを2025年末までに中国全土で200基に増やす計画だ。
一方、“PHV転向派”の代表は民営自動車大手、吉利控股(ジーリー)の子会社の「極氪(ジーカー)」だ。同社はもともと高級EVに特化する戦略をとっていたが、2024年8月にその見直しを宣言。2025年に発売する大型SUVのフラッグシップモデルに、EVとともにPHVを用意すると明らかにした。
通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と国有中堅メーカーの奇瑞汽車(チェリー)が共同で立ち上げた高級車ブランド「智界(ラグシード)」も、当初はEVに特化する予定だった。しかし2025年には、製品ラインナップにレンジエクステンダー型EVを加える計画だ。
(訳注:レンジエクステンダー型EVは、航続距離を延長するための発電専用エンジンを搭載したEV。中国の販売統計上はPHVに分類される)
(財新記者:余聡)
※原文の配信は10月15日
(財新 Biz&Tech)