「正直、そんなに売れないでって気持ちも(笑)」漫画家志望の高校生男女の青春物語『描くなるうえは』著者コンビと“師匠”絵本奈央氏の「師弟鼎談」が実現!!

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 漫画家を目指す高校生男女の青春を描いたラブコメ漫画『描くなるうえは』(白泉社・ヤングアニマル連載)が、「次にくるマンガ大賞2024」にノミネートされるなど、漫画好きの間で話題を博している。10月29日(火)の最新4巻発売を控えた中、原作担当の高畑弓氏と作画担当の蒲夕二氏が、共通の師匠にあたる漫画家の絵本奈央氏(『荒ぶる季節の乙女どもよ。』作画担当ほか)のもとを訪れ、アシスタント時代の思い出や、受け継いだ作画へのこだわり、作品の魅力について語り合った。

【漫画】『描くなるうえは』を読む

――高畑先生と蒲先生は元々アシスタント仲間で、絵本先生の職場で初めて出会いました。お二人が絵本先生のところに入ったのはいつですか?

高畑弓氏(以下、高畑):僕が講談社で新人賞をとった後なので、ちょうど10年前くらいですね。

蒲夕二氏(以下、蒲):私はその3カ月くらい後でした。

絵本奈央氏(以下、絵本):当時の担当さんが高畑くんを紹介してくれたんです。その後、主力のアシスタントさんがいなくなってしまったとき、同じく担当さんが『進撃の巨人』の諫山創先生に聞いてくださって、蒲さんを紹介していただきました。

――最初に会ったときのことや、作業したときのことは覚えていますか。

高畑:絵本さんのことは、(ハードな職場と噂だった)『あひるの空』(日向武史/講談社)のスタッフさんだったと知っていたので、「めちゃめちゃ怖いじゃん」って思いました(笑)。

蒲:アシスタントに初めて行くときの緊張や、「この綺麗な原稿を自分が汚すようなことしていいのか」という恐怖は、『描くなるうえは』にも絶対に入れたい部分でした。

絵本:『描くなるうえは』のヒロインのニーナちゃんが、憧れの作家さんのアシスタントに初めて入るときに言っていたことですね。

高畑:僕は仕事帰りにコンビニで、初めて自分が描いたコマが載った『マガジン』を見たらすごく変な感じになっていて、「あぁ〜ごめんなさい」って心の中で謝ったのをよく覚えてます。今思えばなんでもない絵なのに、5、6時間もかけてしまいましたし……。

絵本:いえいえ。高畑さんはメンタルがとても安定しているから、職場にいてくれるだけで、私がテンパっていても心の平穏を保てて、助けられた記憶があります。

蒲:絵本先生の職場はトーンまでアナログで、どうしたらこんなに綺麗で透明感があって、瞳の奥行きがある絵にできるのかがわからず、白黒原稿の可能性をすごく感じました。当時、いろいろな先生の職場に行かせていただいていましたが、絵本先生のところにはできるだけ行かせていただきたいなと思っていました。

絵本:めちゃくちゃありがたかったです。

蒲:居心地が良かったですし、絵本先生の原稿が見たいっていうのもありました。他のアシスタントさんもそうだったと思います。

絵本:こちらこそです。お仕事の面でもメンタル面でも本当に助けていただきました。

――蒲先生と高畑先生のお二人は、絵本先生のコミックスに付箋をつけて持ってきてくださっています。

蒲:絵本先生はとにかく光の表現が素晴らしいんです。がっつりワントーンのグラデを貼って白を差したり、ハイライトでとばしたり、人間をシルエットで見せたり。情報の強弱のメリハリをつけることで印象が強くなったり、キャラの表情を読み取りたくなるんじゃないかなと思います。

絵本:いえいえ、恐縮です(笑)。

蒲:キラキラしたものも描けるし、グっとくる演出もできますし、1枚絵で見せるところでは、ハッと手を止めてしまいます。背景の入れ方とかアングルとかも、マンガを読んでいるというより映画を観ているような感覚です。参考にしたページを挙げ出したら止まりませんでした(笑)。

絵本:ありがとうございます。そんなに褒めていただいて。

――お二人は絵本先生の初連載の『それでも僕は君が好き』(原作:徐譽庭先生)からアシスタントに入られていました。

高畑:これ、蒲さんが描いたんじゃないですか? 映画のところ。

蒲:今見ると拙くて、恥ずかしいです…(笑)。

絵本:あ〜! ここ! すごくいい味を出してくださって、嬉しかったです。

蒲:いえいえ、画面を汚してしまって…。でも、こんなに大きいところを預けていただいてすごく光栄でした。

――その後、高畑先生は自身の連載のために現場を抜け、絵本先生は『荒ぶる季節の乙女どもよ。』(原作:岡田麿里先生)を経て、『ジョゼと虎と魚たち』(原作:田辺聖子先生)の連載を始めました。

蒲:『ジョゼ虎』から絵本先生がデジタルを取り入れ出して、もう追いつけない状態になりました。序盤の水のシーンとか、無音の表現が特にすごいんです。

絵本:蒲さんのおかげです。この頃の蒲さんは、いいなと思ったものをどんどん吸収して自分のものにしていて、本当にすごいなと思いました。最後の見開きも蒲さんなんですよ。

蒲:いやいやいや。

絵本:ネームの時点でここの背景は絶対に蒲さんだなと思ってました。今見ても、ベタの中にも情報が見えたり、ちゃんと白く抜けてるのに質感があったりと、本当に上手だなと思います。私は最後にトーンを貼っただけです(笑)。

蒲:ベタの中に情報を入れるというのは、絵本先生に教えてもらったことなんです。

――そして、高畑先生が前作の『人類を滅亡させてはいけません』の連載を始める際、蒲先生が作画担当をつとめることになり、職場を離れました。

絵本:蒲さんにはずっと頼りっぱなしで、蒲さんありきでマンガのクオリティを保っていたので、いなくなるとなったときは「あー! まあしょうがないか」って思いました(笑)。

高畑:蒲さんに作画担当を頼むってなったときは、「いろんな人から恨まれるんだろうな」と思いました(笑)。

蒲:ご迷惑をおかけして申し訳ございません…。

絵本:いえいえ、全然です!

――絵本先生は今年、最新作『新本格魔法少女りすか』(原作:西尾維新先生)の連載を終えられたところです。

蒲:『りすか』はもう、脳味噌を溶かしながらじゃないと描けないというか(笑)、毎ページ初めて見るような演出が入っていて、雲の上の存在になってしまったなと思いました。

絵本:ありがとうございます(笑)。

蒲:今も描いているとき、絵本先生みたいに描くにはどうしたらいいかってずっと思ってます。参考にしようと思っても背中も見えなくて…。

絵本:いえいえ、逆に私が『描くなるうえは』を参考にさせていただいてます。めっちゃスクショ撮ってます(笑)。

蒲:えぇ! ありがとうございます。

――『描くなるうえは』には、以前の2巻の発売時にもイラストとコメントをご寄稿されていました。

絵本:『描くなるうえは』は話も絵もとにかくエモくて、ここまでエモさが丸裸なマンガってあるのかなって思います。それに、読んでて幸せな気持ちになるだけじゃなくて、痛いところを描いてるのも素敵です。上原くんの持ち込みのときのトイレとか、週刊連載中のつらかったときを思い出して、もらい泣きしちゃいました(笑)。

高畑:経験したことをそのまま描けば良いかなって(笑)。でも、そのまま描きすぎると読んでる方もキツくなるというか、そんなの読みたくないよなとも思いました。

絵本:基本的にはやっぱりラブコメですか?

高畑:ラブコメだし、楽しんでもらいたいし、エンタメにしたいんですけど、そうじゃない部分もちょっと出したいみたいなのがあって。

絵本:すごい隠し味になってると思います。

高畑:元々、『あひるの空』のアシスタントをしていたときに、日向先生がずっと「なんでみんな『漫画家漫画』描かないの、取材いらないよ」と言っていたのを覚えてたんです。

絵本:なるほど。

高畑:だから、自分が経験したことや感じたことをちょっとずつ入れたいなとは思っています。

――『描くなるうえは』で好きなキャラは誰ですか?

絵本:レンちゃんのビジュアルが大好きなんですけど、ニーナちゃんも当然めちゃくちゃ可愛いですし、一番は上原くんが本当にすごくいいキャラだなと思っています。

蒲:嬉しいです。やっぱり、主人公に入り込めなかったり、好きになってもらえなかったりするのは嫌だなと思うので。

高畑:ラブコメの主人公は、起こることに対してちゃんとドキドキしてほしいなと思っています。いわゆる「やれやれ系」のキャラには、「高校生でそんな奴いないよ」と思ってしまうので(笑)。

絵本:なるほど。

高畑:人一倍感情が揺れてほしいって思いながらネームを描いていたら、顔が真っ赤っかだったり、汗かいたりしてばかりで、普通の顔があんまりないんです(笑)。

蒲:上原くんには頑張ってほしい、成長してほしいって気持ちがすごくあります。

高畑:『めぞん一刻』の五代くんみたいに、ラブコメでダメな主人公がだんだんカッコよくなっていくのがいいなって思っていて、それをイメージしています。

絵本:最近の展開でも成長をすごく感じましたし、そこまでの過程も自然に描いてるから、すごいなと思います。

高畑・蒲:ありがとうございます。

――『描くなるうえは』で好きなエピソードはありますか。

絵本:ニーナちゃんと上原くんの子どものときの、漫画を描くきっかけになったエピソードです。前作の『人類を滅亡させてはいけません』にもあった高畑先生の持ち味が感じられましたし、二人の良さがめちゃめちゃじわっと出ているなと思いました。

高畑:ニーナがおばあちゃんのために毎日ちょっとした絵を描いたという話は、蒲さんの思い出話を描いたものなんです。

絵本:以前、蒲さんの個展で見たことがあるかもしれません…! ニーナちゃんのキャラともすごく合ってますし、しっくりきました。

蒲:ありがとうございます(笑)。でも、上原くんの描いた『カラスの王様』というマンガも、実は高畑さんが本当に小学生のときに絵本として描いたものなんですよ。

絵本:そうだったんですね!

蒲:自分の体験を入れるというのは、本当に恥ずかしかったですし、大丈夫かなと思っていたんですが、打ち合わせで良いと言ってくださったので、高畑さんのことも「自分だってあるじゃないか、出せよ〜」と説得しました(笑)。子どもらしく自由な感じがとてもかわいくて、すごくいい話なんです。

絵本:あとは鉄板なんですけど、上原くんがニーナちゃんのことを好きだと気づくシーンも好きです。ネームも本当に素敵だし、マンガのページが風に吹かれてペラペラっとめくれる演出にもうるっときました。背景からもキャラクターの感情が伝わってきました。

蒲:この海はモデルがあるんですが、本物はこんなに光ってなかったんです。感情と背景をリンクさせるのは、絵本先生に教えてもらったことです(笑)。

高畑:蒲さんがアシスタントさんに「もっと光らせてください」って言ったんでしたっけ (笑)。

蒲:ロマンチックにしたくて、気合を入れていたところなので嬉しいです。

絵本:すごく伝わります。感動しました、本当に。

蒲:ありがとうございます。

――最後に、お互いへのメッセージをお願いします。

絵本:お二人のことは心から素晴らしい作家さんだと思ってますし、10年前からお世話になっているので、とにかく今以上にどんどん売れて、いろんな方に知ってほしいです。ですが正直な気持ち、そんなに売れないでっていうのもあります(笑)。

一同:(笑)。

絵本:複雑です(笑)。私も置いていかれないように頑張ります。

蒲:いえいえ、こちらこそです。絵本先生は描けないマンガがないですし、アシスタントさんに指示を出してまとめる監督さんとしてもすごいので、今もどうやったら絵本先生みたいにできるんだろうと思っています。

絵本:私はけっこうふわふわしちゃってたというか、特に蒲さんには「いい感じにしてください」みたいな言葉で投げちゃってましたけど(笑)。

蒲:絵本先生の職場ほど、資料とイメージで伝えてくださるところはなかったです。自由さを残してくれるのでやりがいもあって、「これ描いたんだ、へへっ」とこっちまでうぬぼれさせてくれました。楽しかったですし、この作品にまぜてもらえてうれしいなと、スタッフさんが気持ちよく作業されてたので、今のスタッフさんたちともそんな関係になれたらいいなと常々思っています。

絵本:ありがとうございます。蒲さんは上手なだけじゃなく、イメージ力もすごくあって、お任せした方がこちらの想像を超えるものが上がってきたんです。何でも上手だし、「こんなのいいな」と想像しながら描けるのが、すごくいいなと思っていました。

蒲:もったいない言葉すぎて、ちょっとダメですね(笑)。体熱っ(笑)。

絵本:長い間、ありがとうございました。

高畑・蒲:こちらこそ、ありがとうございました。