医師が教える…介護問題、家族が施設に入れるタイミングで、じつは「やってはいけない」こと《主体者は誰か》を考える
超高齢社会の日本において、その数は今後人口の3分の1に達すると言われ、ますます介護や入所施設に関心が寄せられるようになりました。
介護施設の種類は多岐にわたり、大きくいえば民間施設と公的施設のふたつに分けられますが、それぞれの特徴の違いからはじまり、最終的にはどのような施設を選べばいいのか、延命はどうするのか、最期はどう送ればいいのかなど悩みはつきません。
なかでも、公的施設である「介護老人保健施設(老健)」のメリットは、ほかと比べてみてもあまり知られていません。
じつは老健は、入居一時金がかからず、費用も月額利用料のみで費用は実質1割〜3割程度の負担で入所できる施設。自宅復帰を目的に、医師、看護、介護、作業療法士や医学療法士が連携をとりながらリハビリを行っています。
今回『最高の介護』を上梓した田口真子氏は、介護老人保健施設(老健)に20年勤めるお医者さん。長年勤めるなかで、病院で働くお医者さんが知らない、介護の現場や実情をたくさん見てきたと言います。
そんな立ち位置から皆さんに「施設入所のタイミング」などについて詳しくご紹介します。
介護者が親を施設に入れるとき
「現場の医師が解説…これからの介護施設、「サ高住」「有料老人ホーム」「グループホーム」の意外なメリットとデメリット」、「これからの介護、じつは家族が通いやすい場所が一番よい…日本人の大半が誤解している「介護施設選び」の盲点」では介護施設の種類や、施設の選び方などについて説明しました。
それではいざ施設に入るとなると、どのタイミングで入るのがいいのか、判断がつきかねます。在宅介護をがんばっておられる人で、一度たりとも「施設入所」を考えたことがない人はいないでしょう。もちろん本人はずっと家にいたいと言います。そんな本人の気持ちを優先しているうちに施設入所のタイミングを見失う人もいます。
はっきり言います。介護者が「施設に入れたい」と思った時が入所を考えるタイミングです。それは人によって早いこともあれば遅いこともあります。
普通に歩いている人でも「入所させたい」と介護者が思うなら入所を検討すればいいですし、寝たきりでも「家でみたい」なら入所させる必要はありません。
一般的には「トイレが自立しているかどうか」が入所のタイミングになることが多いです。入浴や食事は訪問介護が来てくれる時間に合わせることができますが、トイレはそうはいきません。
本人が行きたいタイミングがあり、それは毎日一定でもないので、その時間に合わせて訪問介護を頼めないからです。「ご自身でトイレに行けるかどうか」が一つの基準になるでしょう。施設から在宅復帰できるかどうかも「トイレに行けるか」を重視しています。
トイレ以外に入所の申し込み理由でよくあるのが「ひとりで家に置いておくのが心配だから」というものです。独居の高齢者や、同居家族が日中働いていて留守が多い人です。
これについては、火の始末ができないとか、ひとりで出かけてしまって家に帰ってこられない場合以外は、もう一度よく考えてみてほしいと思います。
なぜひとりで家に置いておくのが心配ですか? 急に倒れるかもしれないから? ご飯をきちんと食べないから? 最期の瞬間をひとりで迎えるかもしれないから?
その答えが「本人が生活を維持できないから」であれば入所でいいと思いますが、家族である自分が心配だから、何かあった時自分が後悔したくないからというのであれば、その心配、ぐっとこらえてあげられませんか。
好きなように暮らして、好きなように死んでいくのもまた、本人にとっては幸せかもしれませんよ。
施設に入らないという選択
ここまで施設介護の話を中心に書いてきましたが、もちろん、施設には入らないという選択もあります。本人が「家で死にたい」と強く希望する場合や、ご家族が「家でみてあげたい」と思う場合は、たとえ要介護5の重介護になっても施設に入る必要はありません。
「施設に入らない」=「施設と無縁」ではありません。施設に入らない人こそ、デイやショート、訪問サービスなど上手に施設を使って介護していただきたいです。食事は配食サービスや、朝食、夕食を出してくれるデイサービスが利用できます。入浴もデイや訪問入浴で可能です。
在宅介護の強い味方なのに、知っている人が少ないサービスに「小規模多機能型居宅介護」というものもあります。これは地域密着型で、訪問、通い、宿泊の3つの介護サービスを組み合わせて提供する介護サービスです。多機能サービスを利用するなら、ケアマネージャーを含めすべてのサービスをその事業所でお願いする必要があります。
たとえば普通のデイは何曜日に行くか決めて通いますが、小規模多機能は「今日は通いで」「今日は家に来て」など利用者の希望に合わせて柔軟に利用できます。「今日は病院に行くのだけれど、病院の玄関までの階段を上がる時に介助に来て」のようなピンポイントの介助もお願いできます。
朝の内服介助に行って、夕方もまた内服介助に訪問する、といった感じで一日に何回も細かく訪問してもらうことも可能です。ショートステイのように施設に泊まることもできます。宿泊や食費以外は利用料金に含まれていて、何回来てもらっても何回行っても定額料金(施設による)です。
ただし利用回数が少ないのであれば反対に割高になります。
何度も訪問してもらうために、近くに事業所がないと利用できませんが、在宅にこだわるならぜひ相談してみてください。このサービスに細かく医療サービスがついた看護小規模多機能型居宅介護(複合型サービス)という事業所もあります。
…つづく<20年間「介護老人保健施設に勤めた医師」が衝撃を受けた、妻を看取った夫の「忘れられない一言」>では、後悔が残らない介護はないからこその向き合い方をお伝えします。