ミスに気づいていたのに…司法書士の言葉が黙殺された結果「総額6億5000万円」を地面師にカモられた不動産業者の末路

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第38回

『「手短に本人確認を」「機嫌が悪いのでよろしく」...“地面師グループ”が用意したツッコミどころの多すぎる《地主のなりすまし役》』より続く

公正証書の嘘

山口たちは面談のあったこの日、呉を連れて銀座の公証役場に出向き、公証人に呉本人であることを証明する公正証書まで作成させ、この場に臨んでいた。手元に公証人が発行したその〈平成27年9月7日〉付公正証書の写しがある。

〈嘱託人呉如増は、本公証人の面前で、本証書に署名捺印した。本職は、パスポート、印鑑及びこれに係る印鑑証明の提出により上記嘱託人の人違いでないことを証明させた。よってこれを認証する〉

公証人は検察幹部などが退官後、法務大臣によって任命される。事実の存在や契約など法律行為の適法性について認証し、公正証書を作成する。公権力が本人と認めたことになるのだから、地道たちが騙されるのは無理もなかった。

こうして地道たちは呉を本人だと信じ込んだ。こう言った。

「土地の売買は、呉さんの息子の借金返済という名目だったので、やや複雑な形をとることになりました。売買代金の決済をする9月10日当日、呉さんの所有名義をいったんオンライフというダミーのペーパー会社に移し、同じ日付で私が代金を支払って購入する。いわゆる同日登記というやり方です」

司法書士の「気づき」

結果、地道は6億5000万円もの土地代金を支払ったという。売買代金は契約手続きを取り仕切ってきた諸永総合法律事務所の銀行口座に振り込まれた。本来なら、このなかから弁護士報酬や手数料などを差し引いた残りの6億数千万円が、地主である呉のもとへ渡るはずだ。と同時に土地の所有権が地道のところへ移る手はずだった。が、そうはならない。地道がこう臍を噛む。

「法務局で所有権の移転登記をしようとすると、できないというのです。そうして調べていくと、呉は偽者だったと……」

当事者にとっては文字どおりキツネに抓まれたような気分だったに違いない。地道たちは当然のごとく、諸永事務所や吉永に、説明を求めた。

事件はパスポートや印鑑証明を偽造し、本人だと認証する公正証書まで作成した巧妙な地面師詐欺に思える。だがその一方で、犯人グループは小さなミスを犯している。地道が冷静に振り返った。

「取引にあたり、われわれは印鑑登録証明書のコピーを事前にこちらへ送るよう指示していました。それを見ると、パスポートでは呉の生年が1924(大正13)年となっていた。にもかかわらず、印鑑証明のそれは大正15年になっていました。うちの司法書士はそれに気づいていた。しかし単なる錯誤だとしてやり過ごしてしまったのです」

その時点で印鑑証明やパスポートの偽造をもっと追及していれば、詐欺に遭うことはなかったかもしれない。が、すべてはあとの祭りだ。

逮捕のリスクを顧みず「警察」さえも詐欺に利用…「総額6億5000万円」を騙し取った「地面師」たちに不動産業界震撼』へ続く

逮捕のリスクを顧みず「警察」さえも詐欺に利用…「総額6億5000万円」を騙し取った「地面師」たちに不動産業界震撼