「キングオブコント」で泣いた…産後2ヵ月のバービーが職場に復帰して思ったこと
フォーリンラブのバービーさんが芸人として、ひとりの女性として、モヤモヤしたことや疑問に思ったことなどと向き合い、自らの言葉で本音を綴っているFRaUweb連載「本音の置き場所」(毎月1回更新)。2024年8月18日に自身のSNSで第一子となる女児の出産を報告してから約2ヶ月が経った今、バービーさんの心境は? 出産後の感受性の強さに驚いているというバービーさんの本音をお届けします。
キングオブコントで泣いた日
「赤ちゃんの前ではテレビはつけない方がいいわよ」
教育にストイックな先輩ママからそう教えてもらったが、無理だった。
こんなにかじりつくようにテレビを見るのは久しぶりだ。今、バラエティやドラマ、音楽など様々なエンタメを楽しんでいる。
なんてったって、産後の感受性はすごい。
どれくらいすごいかというとキングオブコントは序盤の審査員紹介で泣けるくらい、すごい。まるで思春期だ。
久しぶりに外出した先でたまたまかかっていた宇多田ヒカルさんの『First Love』が、初めて聞いた15才の時のような切なさで体内に入ってくる。
産後うつを警戒していたけど、作品を楽しめたのは産後の感受性がビンビンだからかもしれない。感情が豊かになるのはダウンするときだけじゃなく、その逆にもいえるようだ。エンタメがいい気分転換になっている。
「産後うつ対策に良い」と聞いたことがあるセントジョンズワートのタンチュメールやメリッサのハーブティーを飲んだりもしているが、今のところ、その効果はよくわからない。マスのタダで触れられるエンタメにとても救われている。
実際はテレビやラジオ、スマホを見るくらいしか赤ちゃんをあやしながら外部と繋がれるものがないというのが現実なのだが。
「育休どうする?」を考えていなかった
これまで妊娠継続することに必死だった私は、産後のことを全然考えていなかった。
出産前、「育休どうする?」とマネージャーに聞かれたときに、「えー、1ヵ月くらいですかね?」と軽はずみに答えていた。
ちなみに出産のための休みを産休、育児のための休みを育休という。産休は産前産後の休暇のことで、産前は出産予定日の6週間前、産後は産後8週間まで休む権利がある。本人の希望がない限り、その期間を守らずに、会社などはその人を仕事に戻してはならないそうだ。育休は産後休暇が終わって育児に進むときのもので、私はこれを「1ヵ月くらい?」と答えたのである。
その後、妊娠後期になって「ひと月育休案(よく考えたら育休取らない案、ともいえる)」は周りの経産婦たちに猛反対をくらった。「1ヵ月は絶対無理だからやめておけ、メンタルのほうもガタがくるよ!」などなど。
そう言われても、自分にとっての適切な産休期間がどれくらいかなんて産んでみないとわからない。体調がなかなか立ち直らないかもしれないし、赤ちゃんとひと時も離れなくないという気持ちになるかもしれない。
そもそも、完全母乳なのか完全ミルクなのか、もしくは母乳とミルク混合なのかすらわからない状態で、どうやって期間を決めるんだ?
念のため説明をすると、「完母」と呼ばれる完全母乳だと、子どもを誰かに預けるのは当然難しくなる。搾乳してその母乳を哺乳瓶であげてもらうということもできるが、長時間分の母乳を搾乳できるかどうかもわからない。つまり完母の場合、育休を早く切り上げることは難しくなるわけだ。
育休は年単位が多いと知らなかった
でも、仕事で関わってくれている人に迷惑をかけるわけにいかない。「期間は提示しなくては」ということで、産後になってやっと本気で育休について考えるようになった。
恥ずかしながら、一般的な育休は年単位だということを初めて知って驚いた。
私が知ってる産休明けとは、某カリスマ歌手が産後1ヵ月でライブを遂行したとか(まさに本人の希望で産後8週以内に復帰したケースだ)、某有名モデルが産後とは思えぬ姿をInstagramに披露したとかで、ネットニュースでの情報しか知らなかった。
産後ってそんなにしんどいの? 体を休める「産休」のほかに「育休」ってたくさん必要なの?産後の心身を相当甘くみていたようだ。
急に焦ってきて、マネージャーに相談した。「1ヵ月で復帰ってヤバいらしい」と。
そこから、自分の年齢、体力、育児の環境などを加味しながら、具体的な見通しをつけるために色々と調べてみた。
産後うつ発症のリスクは産後2週間がピークだという記事を見たことがある。記事内には、慣れない育児の疲れが溜まる頃だと理由が述べられていた。睡眠不足やホルモンのバランスもあると思う。
実は産後うつには1番びびっていた。妊娠を継続させるために増加し、妊娠中ピークになる女性ホルモンが、出産によってゼロに近い数値になるとあちこちで聞いていたし、私はホルモンのモンスターっぷりをよく知っていた。
PMSなどに悩んで、生涯でたったティースプーン1杯しかないというホルモンに振り回されている、影響を受けやすい自覚があったからだ。
夫が育休中でも……
仕事復帰は、子どもが産まれてから、体調を考慮しながら徐々にしていくということにした。「お仕事いつでもお待ちしています」スタンスの私のようなタレントに、仕事がまわってくる保証はない。
だが今、想像してたよりも焦りは少なく、朝ドラを見ながら赤ちゃんの寝顔をのぞく時間を噛み締めている。
とはいえ、産後2ヵ月。1日があっという間に過ぎていく。そして、穏やかな時間だけではなく、途方に暮れる瞬間ももちろんたくさんある。
うちは幸い、夫が3ヵ月半の育休取得中で、今のところ1人だけで赤ちゃんをケアすることはあまりない。そして、夫が犬の散歩に出ているほんの1時間弱、赤ちゃんが泣き止まなかっただけで理性を失いそうになる。
泣き声がリフレインしていくような、頭に血がのぼるような、引くような、なんともいえないこの感覚の延長線上に、様々な事件が起こっているのだと想像がついてしまう自分にぞっとしたこともある。決して別世界の話ではない。
向いてないんじゃないか、この先親としてやっていけるのか、そう感じてしまう瞬間もある。
育休を取っている夫のほうが、私より家事や赤ちゃんのお世話に向いている。そう感じて、心から感謝すると同時に、母親としてどうなのか?と自分が嫌になるときも。
いや、母親=家事育児と決めつける必要はないと言い聞かせても、そういう思いが離れないときがあるのだ。
だが、この環境じゃないと私は仕事復帰に前向きになれなかったかもしれない。
仕事現場が、最高に楽しかった
今月に入って、少しずつだが仕事を再開してみた。最初はレギュラーでMCをつとめるラジオ番組だった。そして久々のテレビ出演の機会も得た。
ラジオの生放送では、私が仕事をしてない間に言ってはいけない放送禁止用語が増えているんじゃないかなと緊張した。テレビの収録では、言葉が出てくるかなと不安にもなった。
だが結果、最高に楽しかった。小学生みたいな感想になってしまうが、この一言に尽きる。
仕事で久しぶりに会う人に、以前の1.5倍の距離感で接してしまうぐらいテンションが上がってしまった。
仕事に出かける前、ドライヤーで髪を乾かしている私の後ろ姿を見て「嬉しそうだね」と夫が笑っていた。いつもよりアップテンポな鼻歌だったらしい。
そして、帰ってきてから子どもの可愛さが増しに増して、自分の感情に驚いている。大人になるにつれて蓋をしていた感受性が溢れて出ているようだ。
心の変化が忙しいけれど、これも自分らしい気がして心地よい。
子育てと社会復帰は相反するものじゃない
産前は職場復帰の際、赤ちゃんと離れたくなくなるのでは?という不安があったけど、任せて安心だという環境があるから、ウキウキモードで仕事ができたのだと思う。
社会との接点を持つたびにどんどん娘が可愛く思えてくるし、愛情を重ねながら世間を見るようにもなってきて、愛が循環しているようだ。
両立できる環境があれば、子育てと社会復帰は相反するものじゃなくて、相関関係なのでは。
今、たまたま私には戻る場所があった。そのことにとても感謝している。でもそういうパターンばかりじゃない。妊娠を機に仕事を辞める人もいる。
いや、両立できる関係があってラッキーという問題なのではなく、相関関係にできるような環境に社会全体がなったほうがいい。
私もこれからどうなるのかわからない。保育園も探し始めているが、果たして両立できる環境をうまく作れるだろうか。
産後、Instagramに写真を載せると、自分は育児中どれだけ辛かったのかを感じさせるコメントが多く目につく。子育てしている人も、仕事や外の世界へアクセスできる環境であってほしいと願う。客観的な視点が持てるからだ。
私は視野が狭くなって、目の前の赤ちゃんしか見えていなくて、ハッとするときがしばしばある。
誰かがそんな状況のとき、SNSでもラジオでもテレビでも、クスッと気分や視点が変わるような、リフレッシュになるような発信をしたい。
たまたま見かけたときに、クスッとするような通りすがりのちょっとおもしろい人。そんな存在を目指したい。
完全に見る側になって、改めて芸人になって良かったと思える。
改めて仕事に対する愛が、責任が、湧いてきた。