日本経済はこれからどう変化していくか…医療・介護産業が”日本最大の産業”になる日

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この国にはとにかく人が足りない!個人と企業はどう生きるか?人口減少経済は一体どこへ向かうのか?

なぜ給料は上がり始めたのか、経済低迷の意外な主因、人件費高騰がインフレを引き起こす、人手不足の最先端をゆく地方の実態、医療・介護が最大の産業になる日、労働参加率は主要国で最高水準に、「失われた30年」からの大転換……

発売即重版の話題書『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』では、豊富なデータと取材から激変する日本経済の「大変化」と「未来」を読み解く――。

(*本記事は坂本貴志『ほんとうの日本経済 データが示す「これから起こること」』から抜粋・再編集したものです)

変化8 膨張する医療・介護産業

産業構造は、経済の発展段階に応じて変化する。近年の日本の産業構造の変化で最も影響が大きなものは、医療・介護産業の拡大であり、医療・介護産業はマクロの市場の需給に大きな影響を及ぼしている。産業構造の変化に焦点を当て、日本経済の構造がどのように変化しているかを探る。

製造業、保建衛生などで付加価値が増大

多くの国の発展段階をたどると、まず第1次産業を中心とする経済をはじめとして、農業の生産性が向上し労働力が都市部に移動するなかで工業化が進む。工業化が一巡すると、第2次産業の技術進歩やグローバリゼーションの影響により、製造業は徐々に安価な労働力を求めて他国に生産拠点を移す。そして、人々の所得が上昇し、生活水準が向上していくなかで、教育、医療、娯楽、情報産業などのサービス業の比率が高まっていくという道をたどる。

内閣府「国民経済計算」から2000年以降の実質GDPの推移を調べてみると、日本の国内総生産は2000年の487.3兆円から2022年には554.7兆円に増加しており、21年間の経済成長率は13.8%になる(図表1-31)。

2000年以降で日本経済の付加価値額の増加に最も寄与した産業は製造業である。製造業が生み出す付加価値額は2000年の94.6兆円から2022年には119.5兆円と26.2兆円増加した。産業機械の高度化やAIやIoT(モノのインターネット)などデジタル技術の活用によって工場のファクトリーオートメーションも進んでおり、生産性は長期的に高まっている。また、2000年代以降、製造業の大企業は海外に多くの工場を新設するなど海外直接投資を増やしてきたことから、海外で生まれた収益の一部は日本本社の利益となり、日本人の所得向上にも貢献をしている。

製造業に続いてこの二十数年で付加価値の増加幅が大きい産業は、保健衛生・社会事業(22年間で20.6兆円増)、専門技術・業務支援(20.3兆円増)、不動産業(10.6兆円増)などとなる。保健衛生・社会事業は、病院や診療所における医療業務、介護老人保健施設や訪問介護事業などにおける介護業務、そのほか保育所における子どもの保育や保健所における業務などが生み出す付加価値が含まれている。高齢化により医療や介護を必要とする消費者が増えており、保健衛生産業の付加価値額は大きく増えている。専門技術・業務支援については、法律事務所や会計事務所、経営コンサルタント業務など企業の活動を支援する業務が近年広がりを見せていることが要因とみられる。また、広告業や職業紹介、労働者派遣業など対事業所サービスの付加価値増加も寄与している。

医療・介護産業が日本最大の産業に

産業別の付加価値額に注目してみることで、この数十年間の日本経済の成長に貢献した産業が見えてくる。しかし、付加価値額が増加したから成長に貢献しているというのはやや誤解があるかもしれない。安い労働力を大量に利用し、効率性を高めないままにその産業の経済規模が大きくなったのだとしたら、それは必ずしも好ましい変化とは言えないからである。

この点でみれば、付加価値額に加えて、各産業にどのくらいの人が従事しているのかという視点も重要である。図表1-32は総務省「労働力調査」から各産業の就業者数の推移をみたものである。

就業者数に視点を移してみると、先ほどとは異なる光景が広がっている。まず、製造業に従事している人の数はこの20年ほどで減少している。2003年に1178万人いた製造業従事者は2013年に1041万人に減り、2023年も1055万人にとどまっている。20年間でみると10.4%の減少となる。この間、日本全国の就業者数は6316万人(2003年)から6747万人(2023年)と、6.8%増加していた。製造業の就業者が就業者全体に占めるシェアを算出すると、18.7%から15.6%まで低下している。結果として、現代においては日本の就業者の多くがサービス業に従事している。

製造業と並んで就業者数が多かった卸・小売業も2003年の1095万人から2023年の1041万人へと減少傾向にある。小売業界に関しては、過去、全国の各地域に張り巡らされていた専門個人商店が時代を経る中で消失し、近年ではコンビニエンスストアや大規模ショッピングモールが台頭している。また、ECサイトが普及し、大手アパレルでは商品の企画から生産、販売までの機能を垂直統合した製造小売(SPA)の業態が世界的にも広がるなど、卸売業の必要性が低下している。農林業(293万人→199万人)、建設業(609万人→485万人)なども減少が著しい。ここからは、多くの業界が限りある労働力を効率的に活用するための努力を継続している様子がうかがえる。

一方、就業者数が増加している業界も存在している。特に増加が著しいのは医療・福祉産業である。2003年の502万人から2013年に738万人、2023年には910万人と、この20年間で倍近く増えた。この20年間の医療・福祉産業の就業者数の増加数は408万人となるが、これは同期間の全産業の就業者数の増加幅(431万人)とほぼ同じ規模になる。近年、日本全体で増えた労働力のほぼすべてを、医療・福祉産業が吸収しているのである。

医療・福祉産業の就業者数の増加スピードは衰えることなく、この10年間ほどでみても年平均2.1%で伸び続けている。日本社会の少子高齢化の勢いはとどまることなく、このペースで医療・福祉産業が膨張していけば、2030年には日本で最大の雇用を抱える産業になるだろう。

つづく「日本企業は労働力を有効活用できているのか…「人口減少経済」でこれから起きること」では、生産性が低いサービス業に人が集まってしまっている実態を掘り下げる。

日本企業は労働力を有効活用できているのか…「人口減少経済」でこれから起きること