車内に置かれた投票箱に投票する有権者(24日、和歌山県新宮市熊野川町で)

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 27日の衆院選投開票日に、全国の約4割の投票所が法定の投票終了時間(午後8時)を繰り上げることが総務省のまとめで分かった。

 投票立会人の負担を軽減したり、職員の時間外手当を削減したりする狙いがある。有権者の間では期日前投票が定着してきたものの、「投票の利便性拡大の動きに逆行する」と、慎重な対応を求める意見もある。

 栃木県では、県内の全792投票所が午後7時までに閉まる。県都・宇都宮市も、衆院選では初めて投票時間を1時間繰り上げた。

 「ちょうど行楽シーズン。遊びに出かけた後、投票するのは難しいのでは……」。市役所で23日午後7時半過ぎに、期日前投票を済ませた高校教諭の男性(49)はこう心配した。

 市選挙管理委員会の大根田清次事務局長は「午後7〜8時は投票者が少なく、長時間、従事できる立会人の確保も難しい」と説明する。22年の参院選で、3割超が期日前投票を利用したことも踏まえた。

最大4時間

 1998年の公職選挙法改正で、投票終了時間は午後6時から2時間延び、午後8時となった。ただ投票に支障をきたさない特別の事情があれば、市町村選管の判断で終了時間を4時間まで繰り上げられる。

 総務省によると、今回の衆院選では、全国の投票所4万5429か所中、1万7713か所(39・0%)で投票時間を繰り上げる。繰り上げる投票所の割合は、期日前投票の導入後、初となった05年の衆院選(24・1%)と比べて15ポイント増えた。

 繰り上げ率100%は栃木県だけだが、茨城県では96・7%の投票所で繰り上げ、福島94・0%、島根93・6%と続く。これに対し、神奈川と大阪はゼロで、都市部での繰り上げは少ない。

 投票所を早く閉めれば、職員の業務時間も短くできる。水戸市は市内の75投票所に職員計約540人を配置するが、1時間早めることで、時間外手当を80万〜90万円削減できるという。

 山形県南陽市も今回から1時間繰り上げる。3月の市議選では、午後7時以降の投票者は全24投票所中、5か所でゼロだった。市選管が市議選で投票管理者や立会人を務めた222人にアンケートを実施したところ、回答者の約95%が繰り上げに賛成。理由は「立会人の負担軽減になる」「経費節減になる」などだった。

なり手不足

 立会人は、投票用紙の交付などが公正に行われるかを確認する役割がある。投票所ごとに最低2人が必要で、地元の区長らが担ってきたものの、各地でなり手は不足している。

 群馬県甘楽町選管の渡辺博司書記は「1日拘束され、個人の都合があっても抜けられないと、立会人を辞退する人もいる。交代制にすれば、多くの人が必要になる」と話す。今回の衆院選では、包括連携協定を結ぶ高崎商科大(高崎市)の学生5人を立会人に選び、一般公募もした。

 町役場で22日、期日前投票の立会人を務めた同大3年の女子学生(21)は「思った以上に多くの人が投票していた。若者にも投票してほしい」と語った。渡辺書記は「学生らが投票所にいることで、若い人の選挙への関心が高まるといい」と期待する。

 江藤俊昭・大正大教授(地方自治)は「投票時間の繰り上げは立会人の負担軽減などのため仕方がない面もあるが、投票率アップには逆行する一面もある。地方が取り残されていると思われないように、しっかり議論した上で投票時間を決めることが必要だ」と指摘する。

人口減 進む統廃合…移動型倍増

 人口減少などの理由で、投票所の統廃合も進んでおり、今回の衆院選は4万5429か所で、前回2021年から1026か所(2・2%)減った。

 一方、期日前投票は21年衆院選で35%と利用が増えており、期日前の利便性を高めることで投票機会を確保する自治体も目立つ。バスなどに投票箱を載せて巡回する「移動期日前投票所」は131か所で、前回衆院選(59か所)の2・2倍に増えた。

 和歌山県新宮市では、人口減少が進む山あいで高齢者らの投票を手助けするため、前回衆院選から導入。24日には、奈良県境にある地区の集会所跡地などを回り、住民の女性(83)は「選挙は欠かさず投票してきた。移動手段がないので、本当にありがたい」と感謝していた。

 投票日当日に、商業施設などに投票箱を設置し、その自治体の有権者なら誰でも利用できる「共通投票所」の設置も進む。

 今回は全国で217か所で、前回選の68か所から3・2倍に増えている。