「カルトと対決する国」 [著]広岡裕児

 著者はフランス在住のジャーナリストで、この30年来、フランスを中心にカルト問題を追いかけてきた。カルトを分析すれば、現代社会の複雑に絡んだ糸が解けてくるという。なるほどと頷(うなず)ける事象・史実が紹介されていて、説得力を持つ。
 本書は、フランス社会がセクト(日本でいうカルト)をいかに法的に規制し、宗教の自由など根本理念を守りながら、その影響力に歯止めをかけてきたかを丹念に説く。
 カトリック教会でセクト対策にあたる有力神父が、セクトは「三つの破壊」を行うと話す内容は衝撃的だ。「個人の破壊」「家族や友人関係などの破壊」、そして「社会の破壊」。セクトによる精神操作(マインドコントロール)は、すでに社会に入り込んでいるとの分析であろう。
 1995年、国民議会調査委員会のギュイヤール報告がセクトを定義した。宗教とは関係なく、「精神の不安定化」や「法外な金銭的要求」など、識別するための具体的な指標を示している。セクトは宗教問題ではなく、社会問題だとの認識が広まる契機になった。
 2001年に成立したアブー・ピカール法は、マインドコントロールを初めて定義した。「宗教、金、票、セクトは今の社会の既得権力のすべての要素を持っている」と、著者はいう。セクト対策にあたる市民勢力は弱い。この法律も、両者の不均衡を是正する条件を整えるものだという。
 こうした取り組みから二十数年。基本的自由を侵害せずに、モラルハラスメントを刑事犯罪とすることのできる時代に入り、マインドコントロール罪も可能になった。著者はその変化が、セクトに対する社会の関心の故と理解しているようだ。
 日本では、フランスのカルト対策について、依然として宗教対策だという誤解があるとも指摘する。フランスの対策の歴史的経緯と本質を理解することから、日本のカルト対策は始まる。そこから歩が進むのだろう。
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ひろおか・ゆうじ 1954年生まれ。ジャーナリスト、シンクタンクの一員として調査研究、翻訳を行う。著書に『EU騒乱』など。