うっ滞性皮膚炎

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監修医師:
高藤 円香(医師)

防衛医科大学校卒業 / 現在は自衛隊阪神病院勤務 / 専門は皮膚科

うっ滞性皮膚炎の概要

うっ滞性皮膚炎は、足に血液やリンパ液が溜まることにより皮膚に炎症が起こる病気です。「うっ滞」とは、流れや動きが滞ることを指します。

血液は心臓から送り出され、全身に栄養や酸素を届けた後、静脈やリンパ管を通って心臓に戻ります。
足の血液が心臓にうまく戻れなくなると、血液やリンパ液が足に溜まりやすくなり、炎症が起こります。

炎症が起こった皮膚は、かゆみや痛みなどの症状が現れます。

うっ滞性皮膚炎は、中高年の女性、長時間立ち仕事をしている方や肥満の方に多くみられます。
家族内で同じ症状が見られることも多く、遺伝的な要因が関係している可能性も考えられます。

うっ滞性皮膚炎の原因

うっ滞性皮膚炎は、足に血液やリンパ液が溜まることで発症します。

動脈は心臓のポンプ作用で血液を送り出しますが、静脈にはそのようなポンプがありません。
静脈の血液が心臓に戻るためには、重力に逆らって上昇する必要があります。

通常は、歩くことでふくらはぎの筋肉が収縮し静脈内の血液を押し上げ、静脈内にある弁が血液の逆流を防ぎます。しかし、筋肉のポンプ作用が弱くなったり、弁がうまく機能しなくなったりすると、静脈内に血液がたまりやすくなり、うっ滞性皮膚炎につながると考えられます。

うっ滞性皮膚炎の前兆や初期症状について

うっ滞性皮膚炎の初期症状として、下腿に皮膚の赤みやかゆみなどの症状が現れます。
静脈の逆流が進行すると、足首周辺の血管に圧力がかかり、これらの症状が起こります。

そのほかの症状として膝から下の血管が浮き出て見えたり、足のむくみ、静脈の一部が詰まるなどの症状が現れることがあります。
また皮膚が硬くなりふくらはぎ全体が黒く色素沈着したり、悪化した場合、足の皮膚に治りにくい傷ができることがあります。

うっ滞性皮膚炎の検査・診断

うっ滞性皮膚炎の診断では、視診、触診を行い皮膚の状態を観察します。
静脈の閉塞や逆流の場所と程度を確認する場合は、超音波検査や造影検査などの画像診断を行います。

下肢超音波検査

下肢動脈超音波検査は、足の動脈に閉塞や狭窄、解離などの問題がないかを調べるための検査です。
深部静脈血栓症や静脈瘤の有無を確認するために行われます。

下肢造影検査

造影検査を行い、静脈瘤の有無や血管の状態を詳しく調べます。

皮膚に近い静脈が拡張しているか、曲がりくねっていないか、不完全な交通枝があるかどうかを確認します。
さらに、深い静脈に血の塊ができていないか、血管が詰まっていないかも調べます。

うっ滞性皮膚炎の治療

うっ滞性皮膚炎の治療は、静脈の逆流があるかどうかによって治療方法が異なります。逆流がない場合は足を高く上げて安静にしたり、弾性ストッキングや弾性包帯を使った圧迫療法を行うことが一般的です。
逆流がある場合は、血管内焼灼術で静脈の逆流を遮断します。

保存的治療

皮膚炎にはステロイドの塗り薬や潰瘍治療薬を使用することがあります。
血液が足に溜まらないようにするために、弾性ストッキングや弾性包帯といった特殊な靴下や包帯を使用し圧迫します。

弾性ストッキングは、脚を圧迫するために特別な編み方で作られたストッキングです。
脚の静脈の血流を改善し、血液が固まるのを防ぐ効果があります。
ただし、弾性ストッキングは正しく使用しないと、かえって足の調子が悪くなることがあるため注意しましょう。
たとえば、かかとの位置を間違えたり、ストッキングを折り曲げたり、しわを作ったりすると、足に負担がかかることがあります。

弾性包帯は、圧迫療法に使われる伸縮性のある包帯です。
比較的安価で圧迫力や圧迫範囲を調整しやすいのが特徴ですが、ずれやすく、ほどけやすいという欠点もあります。
また、巻き方によって圧迫力に差が出やすくなります。
しかし、圧迫による痛みが少なく、潰瘍を覆うガーゼがずれにくいため、潰瘍がある場合にはストッキングよりもおすすめの圧迫方法です。
足から巻き始め、静脈瘤のできている場所まで巻きます。
均一に圧迫するために、巻き方に注意しないといけません。

手術治療

手術治療には血管内焼灼術や内視鏡下不全穿通枝切離術などがあります。
血管内焼灼術は細いカテーテルを静脈内に挿入し、レーザーや高周波エネルギーを使って静脈の内側を焼灼する治療法です。
焼灼後に静脈瘤を圧迫します。

内視鏡下不全穿通枝切離術は、内視鏡を使用して不全穿通枝(血液の逆流を引き起こす異常な血管)を切離する方法です。
内視鏡を使用するため従来の手術よりも小さな切開で済むため身体への負担が少なく、術後の回復が早いのが特徴で潰瘍ができるほど重症の下肢静脈瘤に適しています。

うっ滞性皮膚炎になりやすい人・予防の方法

うっ滞性皮膚炎は、女性に多く見られることが特徴です。
年齢を重ねることで発症しやすい傾向があり、家族に静脈瘤がある場合、そのリスクはさらに高まります。
妊娠や出産、肥満、心不全や腎機能の低下も一因です。
立ち仕事に従事する方は、うっ滞性皮膚炎を繰り返し発症することがあるため注意してください。

予防法として、長時間立ち続けることを避け、適度に休憩をとってください。
足を高くして休むことも効果的です。
生活習慣では、適度な運動を取り入れることで血流を促進し、静脈の健康を保てます。
食生活においても、塩分を控えめにし、バランスの取れた食事を心がけましょう。


関連する病気

下肢静脈瘤

深部静脈血栓

硬化性脂肪織炎

慢性静脈不全症

うっ滞性症候群

参考文献

日本臨床皮膚科医会うっ滞性皮膚炎

国立循環器研究センター下肢静脈瘤

日本赤十字社愛知医療センター名古屋第一病院超音波検査

公益社団法人 日本放射線技術学会血管造影検査

日本静脈学会弾性ストッキングの着用をすすめられた方へ

静脈疾患における圧迫療法ガイドライン 2024

日本皮膚科学会ガイドライン

厚生労働省内視鏡下不全穿通枝切離術