松田凌「お互いの芝居に対する思いが共鳴していた」樋口幸平「最初から近いものを感じていた」注目の2人が語る初共演の舞台裏『追想ジャーニー リエナクト』【インタビュー】
過去と未来の自分自身との会話劇を軸に人生を舞台と捉え、ステージ上で展開するユニークな表現が話題を集めた『追想ジャーニー』の第2弾『追想ジャーニー リエナクト』が10月18日から全国公開となる。執筆に悩む脚本家の横田雄二(渡辺いっけい)が、退行睡眠によって30年前の自分と出会い、人生をより良い方向へ導こうとする物語だ。
30年前の横田雄二役で主演を務めるのは、ミュージカル「薄桜鬼」(12)、や「仮面ライダー鎧武/ガイム」(13)、舞台「刀剣乱舞 心伝 つけたり奇譚の走馬灯」(24)など、幅広く活躍する松田凌。横田の親友・峯井を演じるのは「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」(22)の主演で注目を集めた樋口幸平。公開を前に、作品への思いやその舞台裏を語ってくれた。
−まずは、台本を読んだときに感じた作品の魅力を教えてください。
松田 新しい切り口の作品だと思いました。舞台と映画が織り混ざったように、人生を板(舞台)の上で表現するというアイデアが斬新で。しかも、「追想」という普段あまりなじみのない行為が、僕らが生きていく上で必要なことかも、と思わせてくれるところもあって。
樋口 今まで見たことのないユニークな作品に出演できることを、ありがたく思いました。これまでの23年の人生の中で、自分にとって大切なものを考え直すことができる作品になるんじゃないかなと。
−お2人は初共演とのことですが、親友の横田と峯井の関係はどのように作り上げていったのでしょうか。
松田 最初から向かう先が一緒で、お互いの芝居に対する思いが共鳴していたような気がします。その点、素晴らしいお芝居をしてくれたので、時間を掛けて関係性を詰めていくというより、お芝居に対する嗅覚をしっかりすり合わせ、本番で出てきたものの重なりで勝負した部分が大きかった気がします。
樋口 その感覚は僕も同じで、最初から近いものを感じていました。その上で、クランクインして松田さんの話し方や空気感を見て、どんなお芝居をされるのか、僕なりに理解した上で、監督やほかのキャストの意見も聞きながら、峯井と横田の関係性を作っていきました。
松田 繊細なお芝居には僕も助けられました。限られたシーンで、峯井が横田に与えた影響を感じさせなければいけない中、安易な方法を取らず、丁寧に表現してくれて。俳優として、そのチャレンジは素晴らしいなと。
樋口 でも僕は、松田さんの演じた横田が大好きだったんです。それは、劇中の峯井とも重なるので、そういう意味では、僕と峯井の波長が合っていたんでしょうね。
−現在の横田雄二を演じる渡辺いっけいさんとの共演はいかがでしたか。
松田 さまざまな経験を経て人生を歩んできたいっけいさんが、「今本当にお芝居が楽しい」とおっしゃっていたのが、すごく印象的で。
樋口 おっしゃっていましたね。
松田 その言葉がうれしく、自分もそう言える俳優になりたいと思いました。さまざまな経験を重ねるにつれ、気持ちも変わってくる中で、「今が一番楽しい」と思える俳優人生は最高だろうなと。まだまだ若輩の僕らにとっては、この世界に入ってよかったと思える言葉で、それを面と向かって言ってくださったことに安堵(あんど)しました。そういう意味で、今の僕が「渡辺いっけいさんはどんな人ですか?」と聞かれたとき、最もふさわしい答えは「希望」です。俳優としての希望を与えてくれる方という意味で。こんなことを言うと、いっけいさんは「違うよ」とおっしゃるかもしれませんが。でも、本当に出会えてよかったです。
樋口 僕にとってもいっけいさんは、「出会えてよかった」と思える大先輩のおひとりです。長年、この世界で生きてきた方なので、お芝居はもちろん、カメラが回ってないときも含め、たくさんのことを学ばせていただきました。特に印象的だったのが、本番を待つ間、いっけいさんがおひとりでお芝居されていたことです。いろんなシチュエーションを想定し、本番でどんな状況にも対応できるように準備していました。数々の現場を経験してきた方ならではのすごみを目の当たりにした瞬間でした。
−タイトルにある「追想」という言葉にはどんな印象をお持ちでしょうか。
松田 演じながら、自分の過去を追想してみようかなという気になりました。というのも、資格も何もない俳優という仕事を僕がここまで続けてこられたのは、応援してくださるファンの皆さんや友人、家族のおかげです。そういう、今まで出会ってきた縁に対する感謝の気持ちが強いので、「追想」という言葉に引かれる部分があるのかもしれません。
樋口 僕は「追想」を「生きてきた人生の宝庫」だと思っています。例えば、新しい作品に入るとき、「こういうせりふ、あのときどう言ったかな?」と振り返って参考にできるのは、追想があればこそ。そういう意味で、「追想」は「引き出し」でもあるのかなと。お芝居に限らず、「こういう人に会ったことあるな。じゃあ、こう言ってみたら、この人はこう答えるかもしれない」と過去の似た人を思い出して会話することは、日常的にありますよね。そんなふうに、あえて言葉にしなくても、無意識のうちに誰もが「追想」しているんじゃないでしょうか。
−それでは最後に、この映画の楽しみ方をお願いします。
樋口 いろんな楽しみ方ができますが、「あのとき、ああすればよかった」と後悔を抱えている方には、特に刺さる映画だと思います。でも、そこにこだわらず、皆さんそれぞれに楽しんでいただければうれしいです。
松田 誰でも日々、心に引っかかるものはあり、それが積み重なると、歩くことがつらくなる瞬間もあると思うんです。そんなとき、曇った心にささやかなスポットライトを当て、少しだけ明るく照らしてくれるような映画じゃないかなと。ぜひ劇場に足を運び、その瞬間をその目で確かめてください。
(取材・文・写真/井上健一)
『追想ジャーニー リエナクト』
10月18日(金)渋谷HUMAXシネマ、池袋シネマ・ロサほか全国公開