扁平苔癬

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監修歯科医師:
遠藤 眞次(歯科医師)

長崎大学歯学部を卒業後、東京と群馬の歯科医院で分院長を歴任。臨床のかたわら、歯周治療やインプラント治療についての臨床教育を行う。「Dentcation」の代表を務める。他にも、歯科治療のデジタル化に力を入れており、デジタルデンチャーを中心に、歯科審美学会やデジタル歯科学会等で精力的に発表を行っている。

扁平苔癬の概要

扁平苔癬(へんぺいたいせん)は、慢性炎症性の皮膚・粘膜疾患です。発症の原因は完全には解明されていませんが、自己免疫反応が関与していると考えられています。

典型的な症状として、白色の平らな丘疹が現れ、強い痒みを伴います。
これらの症状は、手首の内側や足首、腰、四肢体幹、口腔内など全身に現れやすいです。口腔内に発生した場合、両側の頬粘膜に出現することが多く痛みなどの症状を伴います。

扁平苔癬の診断は主に臨床所見に基づいて行われますが、確定診断には皮膚・粘膜生検が必要となる場合もあります。治療法としては、ステロイド剤を用いた薬物療法が一般的です。
扁平苔癬は自然に軽快することもありますが、症状が消えてから再発する可能性もあるため症状消失後も注意が必要です。

患者の生活の質に大きな影響を与える可能性があるため、適切な治療とケアが重要です。また、まれに皮膚・粘膜がんに進展するリスクもあるため、定期的な経過観察が推奨されます。

扁平苔癬の原因

扁平苔癬の原因ははっきりとしていませんが、遺伝的要因、薬剤的要因、免疫異常力の低下などの要因が考えられます。

遺伝的要因に関しては、詳しくは解明されていません。また、薬剤的要因では、β遮断薬、非ステロイド性抗炎症薬、アンギオテンシン変換酵素阻害薬などの薬剤が原因になることがあります。

免疫の異常も主な原因の一つです。身体の免疫システムが何らかの理由で過剰に反応することで、皮膚や粘膜の細胞を攻撃します。精神的なストレスも免疫系に影響を与え、症状を引き起こしたり悪化させたりする可能性があります。
また、C型肝炎などの肝炎ウイルスに感染している人で扁平苔癬の発生が多くみられるとの報告もありますが、はっきりした原因は分かっていません。

これらの要因が複雑に絡み合って扁平苔癬を引き起こすと考えられていますが、個々の患者によって原因や誘発因子が異なる可能性があります。そのため、適切な診断と個別化された治療アプローチが重要となります。

扁平苔癬の前兆や初期症状について

皮膚の扁平苔癬では、直径数ミリの赤色や紫色の発疹が現れます。この発疹は、横から光を当てると光沢感があるのが特徴的です。発症しやすい部位は、手首、下肢、体幹などが挙げられます。
最初は離れた場所に出現しやすいですが、徐々に複数の発疹が合わさってザラザラしたうろこ状の発疹になります。

皮膚の症状に加えて、扁平苔癬は口腔内にも影響を及ぼすことがあります。口腔内に発症した場合、両側の頬粘膜に出現することが多く、接触や刺激による痛みなどさまざまな症状が現れます。

例えば、熱い物や辛い食べ物を食べた時に刺激痛があったり、食事の際に粘膜が擦れたりなどです。これらの口腔内病変は、食事や会話など日常生活に支障をきたすため、症状の軽減が必要になります。

扁平苔癬の症状は長期間持続することが多く、症状の強さは時間とともに変化することがあります。ストレスや特定の薬物、環境要因によって症状が悪化することもあるため、適切な診断と治療が大切です。

扁平苔癬の検査・診断

扁平苔癬は、外観が特徴的な病変であるため、見た目から臨床診断がなされることも多いです。粘膜表面が隆起し、白斑を呈する病変が特徴的です。
ただし、その他の疾患でも同様の症状が現れる可能性があるため、必要に応じて皮膚・粘膜生検が行われることもあります。

似ている疾患には、口腔カンジダ症、悪性腫瘍、過形成、水疱性疾患などがあります。鑑別の方法としては、病変の一部を採取し、顕微鏡で観察する生検が行われます。
もし、金属アレルギーが原因として疑われる場合、パッチテストで検査を行います。

また、必要に応じて血液検査も実施します。鑑別疾患として天疱瘡や粘膜類天疱瘡などの水疱性疾患があり、これらの疾患には特徴的な抗体が含まれるため、血液検査が鑑別の一助になります。

扁平苔癬の治療

扁平苔癬の治療には、薬物療法が用いられます。体幹や四肢などに扁平苔癬が発症した場合、ステロイドの外用薬を用いて治療します。ステロイドは炎症を抑える作用がある薬剤です。病変部が厚い場合には、軟膏やクリームが用いられます。

全身に扁平苔癬を発症している場合、薬剤の経口投与も選択肢となります。
経口投与では、ステロイドの内服薬を継続的に使用します。ただ、ステロイドは長期間使用すると、さまざまな副作用を引き起こすことがあるため、用法・用量については医師の指示に従うことが重要です。

扁平苔癬は慢性疾患であり、治療には時間がかかることも多いため、長期的な管理と定期的な経過観察が必要です。

扁平苔癬になりやすい人・予防の方法

肝炎ウイルスに感染している人や、自己免疫疾患を持つ人も扁平苔癬になりやすいとされています。これらの疾患は、免疫系の機能に影響を与え、皮膚の異常な炎症反応を引き起こす可能性があるためです。また、口腔内扁平苔癬では、歯科用金属に対するアレルギーが原因と考えられることもあるため、口腔内に銀歯が使用されている場合には注意が必要です。

扁平苔癬は、原因が完全には解明されていない慢性の炎症性皮膚・粘膜疾患ですので、明確な予防法は存在しません。

口腔扁平苔癬においては、歯科用金属に対するアレルギーが原因と考えられることもあるため、金属を用いない虫歯治療を受けることも選択肢になるかもしれません。


関連する病気

金属アレルギー

C型肝炎ウイルス感染

カンジダ症

悪性腫瘍

天疱瘡

粘膜類天疱瘡

薬物アレルギー

参考文献

日本口腔外科学会扁平苔癬(へんぺいたいせん)

難病情報センター(重症型)扁平苔癬

口腔扁平苔癬全国調査に基づいた病態解析および診断基準・治療指針の提案

口腔病理基本画像アトラス口腔扁平苔癬