「部下を使い捨てる」ヤバすぎる上司たち…「自爆」営業を強要する「職場を腐らせる人」の心理

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根性論を押しつける、相手を見下す、責任をなすりつける、足を引っ張る、人によって態度を変える、自己保身しか頭にない……どの職場にも必ずいるかれらはいったい何を考えているのか。5万部突破ベストセラー『職場を腐らせる人たち』では、これまで7000人以上診察してきた精神科医が豊富な臨床例から明かす。

離職率が高いことは想定内

〈20代の女性社員もその一人で、家族や友人などに頼み込んで保険に入ってもらったものの、後が続かず、結局「自爆」営業に手を染めなければならなくなった。そのせいで、毎月かなりの額の保険料を自分で負担しなければならず、保険料を払うために働いているような感じさえして、この先やっていけるのかと不安を覚えずにはいられなかった。〉(『職場を腐らせる人たち』より)

この女性としては退職することも考えているという。実際、この会社の離職率はかなり高く、その背景には、ノルマを達成するために「自爆」営業に手を染めても、結局いつまでも続かないことがあるらしい。上司も「自爆」の実態を薄々知りつつ容認しているのか、やがて限界がきて辞めていく部下が一定の割合で存在することは、想定内のようだ。

こんなことが可能なのは、見せかけの給与が割と高いためか、求人広告を出せば、いくらでも入社希望者が集まってくるからだという。もっとも、給与が高そうに見えるとはいっても、基本給は低く、歩合給が高いので、契約を取れない人は稼げない仕組みになっている。だから、稼ぎたいと思えばノルマを達成するしかないのだが、そのために「自爆」営業をしていたら、手元にはそれほど残らないことになる。

こうした仕組みは正当なのか、少なくとも雇われている自分たちにとっては損なのではないかという疑問を、この女性は休職してしばらく職場を離れてから初めて抱いたそうだ。それまでは、「ノルマを達成するためにはどんなことでもする覚悟が必要だぞ」と上司から言われ続けていたうえ、ノルマを達成した同僚がほめられ持ち上げられる雰囲気にのまれて、彼女自身もがむしゃらに頑張ってきたからだろう。

会社の仕組みも上司のノルマ至上主義も何となくおかしいと感じ始めてから、退職者の一人の女性に連絡を取って話を聞いた。すると、彼女も「自爆」営業が限界にきて辞めていたことがわかった。

「あの上司は部下を使い捨てにするだけ。周りの人に一通り保険に入ってもらったら、辞めてもらって構わないと思っているんだから。以前は女性社員に枕営業をほのめかすようなことを平気で言っていたそうだから、あれでもマシになったのよ」と聞かされ、恐怖すら覚えたという。

ただ、退職後も、他人の保険料を払い続けるのは嫌だった。だから、どうすればいいのか尋ねると、「解約すればいいだけの話」という答えが返ってきた。解約の際に多少損することになるかもしれないが、現在の会社に勤めている限り心身の不調が続きそうなので、辞める決心がつき、転職サイトに登録した。

上司の自己保身の裏に潜む転落への恐怖と喪失不安

過大なノルマを押しつけられた部下が「自爆」営業に手を染めざるを得なくなり、それに限界がきて退職することが続いたら、退職に伴う保険の解約件数も相当な数にのぼるに違いない。上司にとってはそれも想定内なのだろうかという疑問が湧くが、ある程度は想定しているのではないか。たとえ、後で解約される事態になっても、とにかく自分の部署が保険の契約をたくさん取り、稼いでいるように見せかけることができれば、それでよかったのだと思う。

その根底には、上司の強い承認欲求が潜んでいるように見える。何としても実績をあげて、上層部から認められ、昇進したいという執念のようなものさえ感じる。そのためには、それこそどんなことでもするという姿勢であり、部下に過大なノルマを押しつけ、それを達成できるようにあの手この手で誘導する。

巧妙なのは、決して暴言を吐くわけではなく、「君の将来を思って」「君のため」といった言葉を頻用し、あくまでも部下のためを思っているかのようなふりをすることだ。これは、万一部下からパワハラで告発されるような事態になれば、昇進どころか、降格さらには解雇の憂き目に遭いかねないので、用心しているからだろう。

常に自己保身のための計算が働いているわけで、部下がノルマを達成できるように保険の積み増しを依頼する顧客のリストまで上司が自分で作成する"親切ぶり"を示すのも、同じ理由に違いない。

この上司のような自己保身の塊は、部下が「自爆」営業に手を染めようが、心身に不調をきたそうが、知ったことじゃないという姿勢になりがちである。これは、現在の地位から転がり落ちるのではないかという転落への恐怖、そして肩書や収入など、自分にとって大切なものを失うことへの不安、つまり喪失不安が強いせいかもしれない。

その裏に、上司自身が上層部から課せられている厳しいノルマがあることも少なくない。ノルマ未達だと降格や左遷、場合によっては失職という事態に直面するのではないかと不安にさいなまれているからこそ、駆り立てられるように部下に過大なノルマを押しつけるとも考えられる。

しかも、こういう不安をかき立てるようなことが実際に行われている会社もある。ノルマ未達だと、出世コースから外されたり給与を下げられたりすることがあり、そのうえ上層部から「そうならないように頑張れよ」と"脅し"まがいの励ましの言葉をかけられたと打ち明けた元管理職もいる。このような会社にいると、上司が部下に過大なノルマを押しつけたくなる気持ちもわからなくはない。

上司が過大なノルマを押しつけた結果、不祥事で揺らいだ事例は、東芝の粉飾決算、日本郵政グループによる「かんぽの不正販売」、JAの共済事業における「自爆」営業など、枚挙にいとまがない(『農協の闇』)。メディアで盛んに取り上げられ、散々叩かれた他社を見ても、過大なノルマの押しつけをなかなかやめられないのは、上司自身が転落への恐怖と喪失不安にさいなまれているからだろう。しかも、そうした不安をかき立てるような構造に組織全体がなっているのではないだろうか。

つづく「どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体」では、「最も多い悩みは職場の人間関係に関するもので、だいたい職場を腐らせる人がらみ」「職場を腐らせる人が一人でもいると、腐ったミカンと同様に職場全体に腐敗が広がっていく」という著者が問題をシャープに語る。

どの会社にもいる「他人を見下し、自己保身に走る」職場を腐らせる人たちの正体