北海道天塩郡幌延町のオトンルイ風力発電所に並ぶアウディ「e-tron」モデル(写真:アウディジャパン)

9月の北海道を舞台に「アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアー北海道」と銘打った、メディア向け取材ツアーが開催された。アウディの日本法人であるアウディジャパンによる、持続可能な未来を一緒に考える旅だ。

「資源を節約しつつ、持続可能なプレミアムモビリティプロバイダーへの変革を加速させる道を進んでいる」と、本国のプレスサイトでうたうアウディ。デジタライゼーションとサステナビリティは、アウディにとって“もっとも重要なテーマ”とされている。

しかし、「再生可能エネルギーの活用で先進的な取り組みをする地域」を訪問するとしたこのツアーは、グローバルで行われているものではないという。

「アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアーは、アウディジャパンの独自企画として始めました」


日本市場でのキャリアも長いマティアス・シェーパース氏(写真:アウディジャパン)

そう話すのは、アウディジャパンのトップであるブランドディレクターにして、フォルクスワーゲン グループ ジャパンの代表取締役社長を務めるマティアス・シェーパース氏だ。

「技術による先進」を掲げるアウディ

アウディといえば、「技術による先進=Vorsprung durch Technik」を企業スローガンに掲げての製品づくりを進めてきたブランドだ。よく知られているのは、1980年に登場して、全輪駆動技術とターボエンジンでラリー界を席巻したアウディ「クワトロ」である。

直近では、2018年に発売されて世界的な話題を呼んだ、BEV(バッテリー駆動のEV)の「e-tron(イートロン)」。これも、“技術による先進”だ。

e-tronには「走行中にCO2をほとんど排出せず、持続可能な社会を実現するため」という開発目的がうたわれる。これが、アウディの企業活動とつながっているのだ。

【写真】北海道天塩郡幌延町の絶景とともにツアーの様子を見る(20枚)


「Q4 e-tron」や「e-tron GT」など、e-tronシリーズは複数のモデルを展開する(写真:アウディジャパン)

「2033年までに内燃エンジン搭載モデルの生産を段階的に廃止する」というアウディにとって、再生可能エネルギーとBEVを結びつけることは、技術による先進と深く関係するアクションと捉えていいだろう。

「アウディが、世界各地でサステナビリティの重要性を伝える活動を行っているのは事実です。アウディは環境保護プログラム『Mission:Zero(ミッションゼロ)』として、2050年までに全社でネットカーボンニュートラルを達成するという目標を設定しています」

そう、シェーパース氏は言う。そして、次のように続けた。

「そもそもアウディ・サステナブル・フューチャー・ツアーを企画したのは、BEVへのトランスフォメーションの中で、アウディジャパンとして確固たるポジションを獲得するためです」

アジア初の急速充電ステーションを開設

フォルクスワーゲンとポルシェとともに、高出力の急速充電器を使えるPCA(プレミアム チャージング アライアンス)を開設。90kWから150kW級出力のCHAdeMO規格急速充電器ネットワークを統合したもので、2024年8月1日の時点で、日本全国346拠点で展開中だ。

もうひとつは、「Audi charging hub(アウディチャージングハブ」。2024年4月に東京・紀尾井町に開設したアウディ独自の急速充電ステーションは、アジアで初だという。


Audi charging hub紀尾井町はアウディ全体で7番目、ヨーロッパ以外では初となる拠点(写真:アウディジャパン)

再生可能エネルギーで運営され、150kWの急速充電器を使えば、航続距離100km分の充電を、「Q8 e-tron」なら約8.5分間、「e-tron GT」なら約6.5分間で行えるそうだ。

これらは「”BEVならアウディ”と、日本のユーザーにイメージを定着させるためのブランディング活動の一環でもある」とシェーパース氏。アウディ・サステナブル・フューチャー・ツアーも、やはり、重要なブランディング活動なのだそう。

「たとえ、アウディの目標と結びついたすぐれたプログラムでも、ドイツの企画をそのまま日本に持ってきても、意図が伝わりにくいことがあります。もっと身近なテーマにすることが重要です」

そんなわけで、サステナブル・フューチャー・ツアーは、日本国内限定だ。このツアーではこれまで下記の土地で開催している。

■2022年4月:真庭市(岡山)バイオマス発電
■2022年10月:八幡平市(岩手) 地熱発電
■2023年1月:浜松市(静岡)太陽光発電店舗
■2023年7月: 屋久島町(鹿児島)水力発電

「このツアーでは、”こんなふうになっているなんて知らなかった”と驚かれるぐらいに、新しい情報を提供していきたいと思っています。テーマ自体に馴染みがあっても、見る角度が違えば、新鮮な内容をお届けできます」

風の強い街、稚内の風力発電

第5回目となる2024年9月のツアーは、北海道の北端に位置する稚内(わっかない)。目的は、風力発電の現場を見ること。

2023年から稼働が始まった北豊富変電所は、1年を通して強い風が吹く土地の特徴を活かし、風力発電を利用している。


一直線に走る道路とe-tronモデルの大きさから風車が巨大なものであることがわかる(写真:アウディジャパン)

なにしろ稚内では、年間の平均風速が7m/s。風速10m/s以上の日も、年に90日を超すそうだ。私が乗った新千歳空港から稚内へ行く航空便も、稚内空港での強風で着陸が困難とのことで、2時間もディレイが生じたほど。

稚内で風力発電を利用し、変電・蓄電を行うのが北豊富変電所。蓄電量は「e-tron、8000台分に相当」(アウディジャパン)だという。

そこから、右手にぎりぎり日本海の存在を感じながら南下し、約3kmにわたって28基の陸上風車が並ぶ、幌延(ほろのべ)風力発電株式会社のオトンルイ風力発電所を訪れた。約50mの直径を持つブレードが、ぐわんぐわんと音を響かせて回り続けている。

幌延風力発電によると、年間予想発電量は約5000万kWh。これは、一般家庭なら約1万2000世帯分の消費をまかなえる電力量だ。


オトンルイ風力発電所にある発電状況を知らせる表示(写真:アウディジャパン)

「石油火力発電所で発電した場合と比べて、CO2の排出量で約35,000トンの削減になります」と同社のホームページに書かれている。

このツアーでは、札幌市厚別区の北星学園大学の学生らとともに、NPO法人 北海道グリーンファンドの鈴木亨理事長と、北星学園大学経済学部経済学科の藤井康平専任講師が参加しての「未来共創ミーティング」も、アウディジャパンの主催により旭川で開催された。

エネルギーの地産地消を実行している地域の行政担当者や事業者、学生たちの取り組みを直接見聞きし、“持続可能な未来を一緒に考え、想いを共有する仲間づくりの旅”だと、アウディジャパンは説明する。

自力での取材が難しい場所へ行けて、ここで書いたような現状に触れられたのは、アウディジャパンの熱意によるものだ。

未来共創ミーティングで印象的だったのは、「北海道の自然エネルギーで作った電力を本州に送れるシステムの構築があればいい」という発言だった。話題になっている長距離海底直流送電や、蓄電池による輸送のことだろう。


普段、見えない部分を見せることで、エネルギーについて考える機会を与えてくれたといえる(写真:アウディジャパン)

北海道では、発電できる電力量は多くても、需要が足りない。余ってしまっているのが現状なのだ。そのうえで、シェーパース氏は次のように話す。

「電気を“出していく”ことが難しいというのは、驚きでした。作った電気をどこにどうやって売るかを考えるのが、課題だということも。それでも、電力が余っているのは、BEVにとって明るい情報です。このさき、日本がBEVに向かない市場だと判断されないようにすることが、アウディジャパンにいる自分の仕事です」

BEVへの関心を高めるために

いま、アウディジャパンはBEVのラインナップ拡充に努めている。「Q4 e-tron」「Q4スポーツバック e-tron」「Q8 e-tron」「Q8スポーツバック e-tron」「SQ8スポーツバック e-tron」「e-tron GT quatro」、そして「RS e-tron GT」と日本での布陣を構え、この先には「Q6 e-tron」や「Q6スポーツバック e-tron」などの発売も控えている。


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シェーパース氏は、BEVに関して次のようにつけ加えた。

「私たちの活動報告に触れて再生エネルギーやBEVに興味を持ってくれたら、(日産の小型BEVである)サクラに乗ってくれてもいいんです。将来、アウディを選んでくれたらベストですが(笑)」

まだまだBEVが身近でない日本の自動車環境で、アウディとアウディジャパンが果たす役割は小さくなさそうだ。

【写真】アウディ・サステナブル・フューチャーツアー北海道の現場から(20枚)

(小川 フミオ : モータージャーナリスト)