『マル秘の密子さん』密子の決め台詞の集大成となった最終回 専務・荻野目の真の正体
お人好しですぐに騙されてしまうシングルマザー・夏(松雪泰子)の前に、ある日突然現れた謎多きトータルコーディネーターの密子(福原遥)。『マル秘の密子さん』(日本テレビ系)最終話は、彼女が繰り返し唱えてきた決め台詞「あなたが変われば、世界は変わる」を実感させる展開だった。
参考:福原遥の二面性と松雪泰子の冷酷さの応酬 『マル秘の密子さん』で序盤から変化したもの
身から出た錆で失脚した美樹(渡辺真起子)の逆恨みで誘拐されてしまった夏。しかし、システムエラーで監視カメラに犯行の瞬間は写っていなかった。そのことから九条開発の会長・五十鈴(小柳ルミ子)に誘拐容疑をかけられてしまった密子のもとに、遥人(上杉柊平)、玲香(志田彩良)、智(清水尋也)、彩(吉柳咲良)、千秋(桜井日奈子)が集結。社長の座をめぐり、何かと対立してきた九条家と今井家が密子のために手を取り合う。
これまで密子は、姉・鞠子(泉里香)のためにたった一人で戦ってきた。だけど今、周りを見渡せば自分のために力になってくれる人たちが大勢いる。それは密子がみんなに「あなたが変われば、世界は変わる」と魔法をかけてきたからだ。最初はただ鞠子の死の真相を探るためで、彼らがどんな人生を歩もうと、どうでもよかったのかもしれない。けれど、夏と出会ったことで人の温かさを知り、少しずつ周りの人を信じられるようになってきた。密子も変わった、だから世界が変わったのだ。
灰色だった世界を鮮やかにしてくれた夏。そんな彼女を救うため必死で居場所を捜索する中、密子は夏が誘拐されていた場所に落ちていたファイルを見つける。夏と同様にそのファイルに貼ってあるメモの筆跡が、鞠子の残した裏帳簿メモの筆跡と一致していることに気づいた密子。美樹と裏で繋がり、九条開発の不正に関わっていた人物……それは専務の荻野目(石井正則)だった。
実は五十鈴の隠し子であり、九条の後継者であるはずの自分が社長になれないことを不満に思い、会社の金を使ってその鬱憤を晴らしていた荻野目。だが、鞠子に裏帳簿の存在を知られたために放火を起こして殺害したのだ。現場から立ち去る自分の姿を目撃した夏の夫も口封じに殺したのだった。そんな荻野目は自分が社長になるため、美樹の犯行に見せかけて、夏と密子を殺害しようとする。
最後の猶予として夏と話す時間をもらった密子。荻野目の目を忍び、夏に見せるのはあのキツネのハンドサインだ。辛い時や不安になった時の対処法として密子が夏に教えた“アンカリング“。それはいわば心の支えであり、これまでハンドサインを見るたびに密子は鞠子、夏は子どもたちと過ごした幸せな瞬間を思い出してきた。けれど、いつしかその中に互いの顔を思い浮かべるようになっていた2人。密子は鞠子を殺した犯人に復讐するためなら、自分はどうなってもいいと思っていたのだろう。だけど、今は自分を大切に思ってくれる人がいる。大切に思う人がいる。だからこそ、荻野目にトドメを刺すことができなかったのだ。
その後、夏をかばう形で美樹に刺された密子は鞠子の夢を見る。最後に思い出のかき氷を一緒に食べ、「今度はみっちゃんが幸せになる番。自分のために生きるの」と背中を押された密子。一命をとりとめた彼女は退院後、介護士に戻った夏に「助けが必要な人がいるので」と別れを告げる。そんな密子を夏は「いってらっしゃい」と笑顔で送り出すのだった。
思い通りのならない世界を嘆くのではなく、なりたい自分になるために自ら変わる大切さを教えてくれた本作。そこには困難が付きまとうかもしれないが、自分を愛してくれている人の存在が心を支えてくれる。密子はこれからも変わりたいと願う人たちに「あなたが変われば、世界は変わる」と魔法をかけ続けていくのだろう。キツネのハンドサインで、夏と過ごした日々を思い出しながら。
(文=苫とり子)