娘・いろはちゃん

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娘が生きていた証を伝えることで、病名が広く知られてほしい。そんな想いから「クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群」に関する情報を発信する、うにさん(@uniii0304)。

【写真】生後間もない、いろはちゃん…しかし他院のNICUに緊急搬送されます

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群は、血管やリンパ管の構造や機能に問題が生じる先天性の病気。症状には個人差があるが、地図状の赤あざが見られたり、四肢の大きさや形に左右差が生じたりすることがある指定難病だ。

うにさんの娘・いろはちゃんは生後すぐ、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群と診断され、度重なる入院も乗り越えてくれたが、1歳1カ月でお空に旅立った。

生まれて間もない我が子の右足に赤あざが…

うにさんの場合、出産前の超音波検査では異変が見られていなかった。我が子がクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群であることを知ったのは、出産直後。助産師から、右足全体にあざがあり、血管腫も多数見られると言われたのだ。

いろはちゃんはすぐ、他院のNICUに緊急搬送。検査の結果、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群である可能性が高いと診断された。

「聞いたことがない病名で、ネットで調べても情報が少なかったので混乱しました。何かの間違いじゃないのかなと…」

搬送先の病院では医師から「この病気を見られる医師は、日本に1人しかいない」と告げられた。偶然にもその医師がいたのは、隣県の岐阜。専門医がいる病院で検査をするように勧められたうにさんは、いろはちゃんと共に岐阜県にある大学病院へ。

そこで専門医の診察やMRI検査を受け、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群であることが確定した。

クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群にはこれまで根本的な治療法がなかったが、最近では研究が進み、血管やリンパ管を作る遺伝子の異常な働きを抑える新薬の臨床実験が行われるようになった。

いろはちゃんはその新薬を飲み、経過観察をすることに。うにさん親子は、月1で岐阜の病院へ通院し、半年に1度、MRI検査で薬の効果を確認するになった。

「娘はいい子で、入院中もご機嫌に過ごしてくれることが多かったです。小さな体で頑張ってくれた。検査の時は絶食になってしまうので、検査後に食べられるお菓子をたくさん用意していましたし、嫌いな採血が終わった後にはおもちゃで遊んだりしました」

血管腫からの大量出血で我が子が天国へ

いろはちゃんは四肢の左右差は見られなかったが、血管腫からの出血に注意が必要だった。

血管腫は成長に伴って増えていき、何の前触れもなく突然、出血する。慎重に見守っているのに、気づけば服や布団に血が染みていたことは何度もあった。

出血は少量であることがほとんどだったが、NICUに入院中だった生後1カ月の頃には大量出血を経験。タオルで体を拭く、自分で体を引っ掻くなどの些細な行動も血管腫からの出血に繋がるため、うにさんはできる限り摩擦を起こさないように気を付けて体に触れるなど、細心の注意を払った。

「出血した時は絆創膏で抑えたり、包帯を巻いたりして圧迫止血していました」

そうした配慮も、うにさんにとっては負担にならず。最愛の娘と過ごせる日々が、ただただ愛しかった。

だが、かけがえのない時間は突然、奪われてしまう。その日、たまたまワンオペ育児だったうにさんはいろはちゃんとの入浴を楽しみ、“いつもの日常”を終えようとしていた。

「娘が楽しそうに蛇口をひねっていたので、先に上がる準備をしながら遊びを見守っていました。遊び終わった後、娘をお風呂から出させて体をタオルで拭き、保湿の準備をするために、ほんの一瞬だけ目を離し、再び娘を見たら足からすごい速さで血が噴き出ていて…」

それは、生まれた時から太ももの上にあった大きな血管腫からの出血だった。

うにさんはすぐに119番をして圧迫止血をしたが、大量出血であったため、血は止まらず。いろはちゃんは救急搬送された病院で心肺蘇生も受けたが、1歳1カ月で生涯を終えた。

「太もも上の血管腫は、常々『ここから出血したら危険だね』と医師や家族と話していたものでした。いずれ、こうなった、それがこの時だったんだと思うことで気持ちを整理するしか、今はできません。他にできることはなかったのかと考えてしまう自分もいますし…」

最愛の娘を亡くしたうにさんは、心が空っぽな状態に。だが、いろはちゃんが亡くなったのと同時期、妊娠が発覚したことで、なんとか踏ん張ることができたという。

「娘からの贈り物みたいだと思いました。無事に生まれてほしいです」

なお、うにさんは“我が子の死”という耐えがたい現実に直面したからこそ、似た状況に置かれた親への支援が広まることも願っている。

「私は精神科へ行こうとは思えず、似た境遇の人と集まって話したいと思っていました。難しいかもしれませんが、病院側などでも子どもを失くした親同士が交流を持てるような場を設けてもらえたら、ありがたいです」

特徴的な「赤あざ」が誤解されない社会になってほしい

うにさんが専門医に聞いた話によると、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の発症率は10万分の1で、日本の患者数は3000人ほどと言われているそう。

患者数が少なく、病名の認知度も低いことから、特徴的な症状である“赤あざ”には厳しい視線が向けられることもある。実際、うにさんはいろはちゃんと児童館へ行った際、他の母親から「お怪我しちゃったんですか」と尋ねられ、周囲の目が気になった。

「夏に足が出る服装をしていた時も周囲の視線をすごく感じ、赤あざがどう見えているんだろうと悩みました。同じ病気の子の中には顔に赤あざがある子もいるので、この病気への理解がもっと広がってほしいです」

子どもが五体満足で生まれてこられるのは、当たり前なことではない。その事実を、より多くの人に伝えたい。そう話すうにさんは自身と同じく、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の子を持つ親御さんに「どうか負けないで」とエールを送る。

「きっと、変わってあげたい気持ちでいっぱいだと思います。最近では新薬の研究も進んでいるので、もしかした治療法が良い方向に大きく変わる日は近いかもしれない。近いと信じ、その日が来るまで諦めないでほしいです」

また、うにさんはクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群と生きる当事者の心も包む。

「本当に頑張っているねと言いたい。誰が何と言っても、あなたの赤あざは個性だから気にしなくていい、あなたのことを大事に思っている人はちゃんといると伝えたい。周囲の視線に負けないで、と心から思います」

子どもを守りたいという想いが強い人ほど、クリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の特徴的な赤あざは目についてしまうかもしれない。だが、子どもの心を守るには、こうした病気と生きている人がいるという知識を得ておくことも大切だ。

当事者やクリッペル・トレノネー・ウェーバー症候群の子を持つ親に理解ある視線が向けられる社会になってほしい。

(まいどなニュース特約・古川 諭香)