「ノックアウトボクシングジム」でスパーリングした中谷潤人(右)【写真:浜田洋平】

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中谷潤人の米国合宿に潜入

 ボクシングのWBC世界バンタム級王者・中谷潤人(M.T)が23日(日本時間24日)、米ロサンゼルス合宿のスパーリングを打ち上げた。10月14日に東京・有明アリーナで同級1位ペッチ・ソー・チットパッタナ(タイ)と2度目の防衛戦を予定。THE ANSWERの記者が合宿中のジムに潜入し、日本とは異なる風景を体感した。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 まず、ボクシングにしては朝が早い。午前9時前、気温17度の肌寒いロサンゼルス。観光客が集まるダウンタウンから車で30分のサウス・ゲートにある「ノックアウトボクシングジム」を訪れた。近くに犯罪率の高い地域があり、治安がいいとは言えない。日本のジムは午前にロードワークをこなし、午後から夜にかけてジムワークに励む選手が多いが、ここでは逆だった。

 練習場は大きなガレージのようなつくりで、学校の教室4つ分ほどの広さ。サンドバッグ、筋トレマシーンなどが所狭しと並び、中央にはリングが一つ。壁にはモハメド・アリや過去の興行ポスターに加え、拠点を置く選手たちの国旗が並んでいた。米国、中南米などの中には日の丸も。中谷がいるからだ。

 9時になると、女子ボクサーが5人ほど順番にやってきた。見知らぬ記者にも「おはよう」「元気?」と挨拶。リングをぐるりと回り、その場にいる全員と握手かグータッチを交わしていく。後に来た選手、トレーナーたちも同様だ。「来た時と帰る時にも全員とタッチします。コロナ禍では肘でやっていました」。車で30分の家から到着した中谷が教えてくれた。

 10時には30人ほどの選手でごった返し、活気に溢れていた。リングは基本的にスパーリングに使われ、みんなが自分の順番を待つ。一方、練習中の雰囲気は人それぞれ。スパーはバチバチにやっても、それ以外は和気あいあいとした選手も。日本なら怒られてしまいそうな気もするが、選手それぞれの裁量に任されているようだった。

中谷「スパーのテンポはゆっくりかもしれないです。日本の選手は4ラウンドをやるなら、そのラウンドをみっちりと集中してやるような感じですけど、こっちの選手はそんなことはないです。長いラウンドもするので、テンポ的にはゆっくりですね。そういう練習の文化なのだと思います」

日本では得られないもの「戦うことに特化している選手が多い」

 中谷もウォーミングアップを済ませ、リングに上がった。次戦の挑戦者と同じサウスポーと10回、右構えの選手と2回の計12回、各インターバルは30秒。次第にヒートアップし、鈍いパンチ音が室内に響いた。「いつも通りですよ」。汗を拭う表情は充実感に溢れていた。

 日本のボクサーはジムに所属するが、ここでは個別のチームで活動する。トレーナーらを連れ、その場でスパー相手を探すことも。右、左などの条件が合えば拳を交える。相手がランダムに決まるため、「いろんなタイプの選手とできる」と中谷。ノックアウトボクシングジムはあくまで練習場ということだ。

 日本なら当たり前にある3分を計るタイマーもない。リング横にランプがあり、ラウンド中の緑、残り30秒の黄色、30秒のインターバル中を示す赤の3色が光るだけ。残り時間がわからない環境は、精神的に追い込まれていきそうだ。

 タイトル保持者やランカーもいる。三重出身の中谷は15歳で単身渡米。地元や現在所属する神奈川・相模原では、定期的に実力者を呼ぶのは難しい。この環境だからこそ、若くして豊富な技術が身についた。

「やっぱり強い選手が集まってくるので刺激的です。基本的に実戦練習をします。実戦慣れしている選手が多いので、どういう戦い方をすれば相手が嫌がるか、そういったことをより深く知っている選手が多い。戦うことに特化している選手です。その辺りは日本と違うと思います」

 日本では得られないものがある。だから、中谷は毎回のように試合前に米国で調整する。渡米当初は言葉もわからず、「誰?」という視線を向けられた。「ボクシングで見せるしかなかった」。拳で仲間をつくり、今では英語でコミュニケーション。世界で評価される選手の背景を垣間見た。

 余談だが、ジム内には犬までいた。日本ではあり得ない。10月14日のV2戦でも、豊富な海外経験に裏打ちされた強さを発揮してくれそうだ。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)