過去MVPを2回受賞

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 プロ野球セ・リーグの優勝争いは白熱するばかりだ。ここまで首位を走り、4年ぶりの優勝のチャンスを手にしている就任1年目の巨人・阿部慎之助監督は、残りゲームで34歳の菅野智之投手を「中4日」を含めフル回転させるローテーションを決めている。菅野はここまで14勝と最多勝争いのトップを走る。3年連続1億円以上の大減俸が続いているベテランはなぜ復活できたのか。

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【写真】菅野が信奉する名コーチ

 就任一年目での優勝を狙う阿部監督が最後にすがったのはエース菅野だ。今月に入ってから「智之と戸郷を中4日で回すこともある」とスクランブル指令を出した。それを受けた菅野は10年連続で負け越しが続いている鬼門・マツダスタジアムでの広島戦(10日)に先発して勝利を収めた。そして今季初、3年ぶりとなる「中4日」で中日戦(15日・東京ドーム)に登板。「中6日に比べたらしんどいのは間違いない。この数試合で順位が決まると思うので頑張ります」という言葉通り、10安打を浴びながらも6回途中まで3失点と試合を作り、チームも勝利を収めた。

過去MVPを2回受賞

原前監督も鼻高々

 菅野は、昨季は4勝で終わり、3年連続で“大減俸”が続く土俵際。昨オフには「来季の目標は最多勝、15勝が目標。このままでは野球人生が終わってしまう」と述べて迎えたシーズンだった。

 復活できた理由は2つある。「1つは原前監督と違い、阿部監督が日曜日を中心に登板する“サンデー菅野”としてしっかり間隔をあけさせたこと。今回のスクランブル登板についても、100球以下(広島戦・57球、中日戦・93球)の球数制限をかけています」(夕刊紙記者)。そしてもうもう1つは「あるコーチの存在です」(同)。

 それが久保康生巡回投手コーチである。岩隈久志氏(元近鉄など)、能見篤史氏(元阪神など)らをエースとして育成した名伯楽でもある。

 菅野は昨年から2年越しのフォーム改造に着手している。軸足の右足をしっかり使い、体重移動への一連の流れの中で、握った球へ力を入れることに重点を置いている。これを指導したのが久保コーチ。はじめは全く聞く耳を持たなかったという菅野だが「今やすっかり久保コーチの信者の一人ですよ」(巨人軍関係者)。今季の完全復活は2人による共同作業でもある。

 その久保コーチにラブコールを送り続けたのが菅野の伯父にあたる、原辰徳前監督なのだ。原は何年もかけて久保に巨人入りを口説き続けた。その熱意が実って巡回コーチという役職で22年に巨人入り。「久保コーチは原さんの推しで入閣したわけですから、原巨人が終わった昨オフに一緒に退団する覚悟だったが、球団が異例の契約延長を打診して今季も続投しました。その理由に“菅野の完全復活”がミッションとしてあったようです。甥の復活に、原さんは鼻高々だと思いますよ」(テレビ局ディレクター)。

後輩にキレる

 就任1年目の阿部巨人を支えてきたのは紛れもなく菅野だ。ここまで14勝で防御率は1点台。巨人が優勝すればMVPどころか沢村賞のダブル受賞もありうる。

 菅野は残り2試合に登板する見込み。次の登板は22日の首位攻防・阪神戦になると見られている。しかし、15日の中日戦では気になる場面も見られた。

 この試合では捕手登録の大城卓三が9試合ぶりに一塁を守った。ベテラン坂本の体調不良による欠場が原因で、阿部監督が手駒を必死にやりくりした上での起用だった。ところがこの大城卓が3度も拙守をした。中でも、2点リードしていた5回表二死一塁、福永を外角低めのスライダーで一塁ゴロに打ち取ったかに見えたがこれを追わずに内野安打。ベースカバーに入った菅野は打球のコースに指を示して明らかに“激怒”していた。6回にその菅野に降板を告げる際に阿部監督は自らマウンドに向かい「大城をね、ファーストで使ったのは僕のせいなんで。申し訳ない」と謝罪をした。阿部監督自ら“火消し”に走った格好だ。しかし、「エースが試合中に味方にキレるなんてことはプロ野球ではあってはいけない」(夕刊紙記者)行為だ。大城卓は母校(東海大)の後輩でもある。

采配にブーイング

 阿部監督は今年が3年契約の1年目。原前監督が2年連続Bクラスという“負の遺産”を残したことで、巨人・山口寿一オーナーは「今シーズンのジャイアンツはどうしても勝ちたい。(阿部監督は)分かってくれていると思います」と、1年生の阿部監督に4年ぶりの優勝を厳命している。

 阿部監督は大混戦の優勝争いの状況に、ベテランの菅野に中4日という「まるでクライマックス・シリーズか日本シリーズの時のような采配」(巨人担当記者)をあえて選択した。そもそも今季は、打順やレギュラーを固定せず、4番・岡本和真には本職の三塁はもちろん一塁や左翼まで守らせるなど、うるさ方が揃う巨人OBから「阿部監督の采配はバランスが悪すぎる」という声も出ている。「(阿部監督の)契約は3年ですから、監督人事をあれこれ言う状況ではない」(巨人山口オーナー)とはいいつつも、V奪還のチャンスを逃したら采配にブーイングが出ることは間違いない。歓喜のVか。監督批判が巻き起こるか。それもこれも、すべては菅野の今後の出来にかかっている。

小田義天(おだ・ぎてん)スポーツライター

デイリー新潮編集部