和田秀樹さん、池田清彦さん(撮影・新潮社)

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「近ごろ、どうも気力が湧かない」「どこか悪いのでは?」と不安を覚え、あちこち調べてみても原因がわからない――。そんな中高年男性が少なくないそうだが、「年のせい」と決めつけるのは早計だ。

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「元気を取り戻すヒントは男性ホルモン・テストステロンにある」と指摘するのはメディアでもおなじみ、和田秀樹さん(医師)と池田清彦さん(生物学者)。タブー知らずの二人による“不適切対談”をお届けする。

※本記事は、和田秀樹氏、池田清彦氏による対談『オスの本懐』(新潮新書)より一部を抜粋・再編集し、全4回にわたってお届けします。

コレステロール値よりテストステロン値をみよ

池田清彦(以下、池田) 日本の「オス」の元気不足を解決するにはどうすればいいのか。一つのヒントとして、テストステロン(男性ホルモン)を上げることが考えられそうですね。

和田秀樹さん、池田清彦さん(撮影・新潮社)

和田秀樹(以下、和田) そう思います。日本の医者は「男は年とったら元気がなくなるのが当たり前」という発想しかなくて、テストステロンの重要性を説明しない。それが、高齢者が色めいた感性をもつのは恥ずかしいことだという偏見を広めてしまったように思います。

 もっと気軽に血液検査でテストステロンの値をチェックしたほうがいいし、とりわけ高齢者は、コレステロール値よりテストステロンの値を気にしたほうがよほど意味がある。

池田 テストステロン値はすぐにわかるしね。

本来、ホルモンは内分泌科の領域ですが、男性ホルモンというとどうしても泌尿器科が扱う分野のようになっています。こういう境界領域の問題がテストステロンの普及を阻んでいる(撮影・新潮社)

和田 最近は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの血中濃度を調べる検査もあります。ただ、セロトニンは血液検査で出る値と、実際に脳まで届けられる血中濃度がまったく違うんです。

 池田さんには釈迦に説法ですが、セロトニンがブラッド・ブレイン・バリア(血液脳関門)をくぐり抜けられないのに対して、テストステロンは通過できるので数値が変わらない。つまり、数値を計測する意味があるということです。

「最近、どうもやる気が出ない」……に効くのは?

池田 若い人がどうも気力が出なくてうつっぽいけど、あちこち調べてみても原因がよくわからない。そういう時に血液の値をみるとテストステロンが足りていなくて、投与すると元気を取り戻す。そういうケースが少なからずあるようですね。

近頃、ニッポンの男性は元気がない。コンプラにポリコレ、健康常識に老後設計……時代の変化と社会の要請に揉まれ、オスとして大切な何かを失いつつあるらしい。「高齢になればなるほど、性ホルモンは若々しさや元気の秘訣になる」(和田)、「多くの凡人は色めいたことと食い気が満たされていなければ、楽しく生きられない」(池田)など、オスがオスらしく生きるためにどうあるべきか、医師と生物学者が本音で語り合う 『オスの本懐』

和田 テストステロン値が下がるとうつっぽくなることがあるので、補うことで回復するケースはよくみられます。でも、本物のうつ病だと少々悩ましい悪循環が起こります。うつ病の薬を投与すると不安や不眠、食欲不振は改善しても、意欲が出ないのです。

池田 なるほど。意欲を出す薬というのは難しいんだね。

和田 現在の科学では、人間の意欲を刺激する薬はメタンフェタミンという覚醒剤のようなものになります。

池田 太平洋戦争の時代は「ヒロポン」という名称で兵士に投与されたよね。元気がみなぎって、怖いもの知らずになる。でもメタンフェタミンは依存性が高くて副作用がきつすぎるので、やがては人間が壊れてしまうんだけど。

和田 そうなんです。だから「今すぐ意欲を上げたい」という時は、現時点ではテストステロンが最も有効ではないかと私は思います。

「臓器別診療」の大問題

池田 テストステロンはもともと人間の体に備わっているものだから、投与による副作用はそうひどくない。ただ、元気になって活性酸素が増えることで、がんになりやすくなるリスクがあるそうですね。

和田 そういうデメリットも指摘されています。それと、人によっては性欲が過剰になったり、攻撃性が強まったりする場合もあります。テストステロン値が低い人が打つ分には比較的副作用は少ないですね。

池田 このくらいの低さなら打っても大丈夫、と目安が設けられている。

和田 そうです。きちんと目安に従い、必要な人にはテストステロンを補うほうがいいと思うのですが、日本ではそれがまったくできていない。その背景には臓器別診療という問題があります。

池田 テストステロンを含めて、ホルモンは全身に効くものだからね。患者の立場では、どの診療科に相談すればいいのかわからないよな。

和田 本来、ホルモンは内分泌科の領域ですが、男性ホルモンというとどうしても泌尿器科が扱う分野のようになっています。こういう境界領域の問題がテストステロンの普及を阻んでいる。

 男性ホルモンであるテストステロンは、中年以降は年齢とともにジヒドロテストステロン(DHT)に変化します。最近はAGA(男性型脱毛症)をケアするクリニックが増えましたが、そこで使われるプロペシアという薬にはこのDHTを抑える効果があるんです。

「ハゲの人は精力が強い」は本当か

池田 DHTが男性ホルモン受容体と結びつくと頭が禿げる、つまりハゲの素。

和田 DHTは前立腺肥大も誘発します。前立腺が腫れると、尿道が縮まってしまうのでおしっこが出にくくなる。

 そこでこのプロペシア、テストステロンがDHTになるのをブロックする薬に注目が集まりました。前立腺の肥大も収まるし、禿げにくくもなる、いいことずくめの薬とされていましたが、実はけっこうな割合でED(勃起不全・勃起障害)を発症することがわかってきました。

池田 人間の体というのは、実に上手くできてるよね。

和田 DHTはテストステロンの約3〜4倍も強い男性ホルモンですから、歳をとるほどDHTが増えるのは、加齢に適応するためには必要な現象だということです。

 よく「ハゲの人は精力が強い」と昔からいわれますが、与太話ではなくて科学的根拠があった。適応現象を薬で安易にブロックしてしまうことで、結果的に男性ホルモン不足が起こってしまうのです。
 
 でも、これにも簡単な治し方があります。

池田 テストステロンを打つんですね。テストステロン自体はハゲの原因ではないから、バンバン打っても薄毛に影響がないし、性欲も回復すると。

 でも、そういう全身的なことを診てくれる医者は少ないんじゃない?

和田 そうですね。プロペシアを扱っているのは皮膚科の医者なので、そういうホルモン医学のことをほとんど知りません。だから、髪が生えてきたのはいいけどEDに悩まされている、という男性は実はかなりいます。

※新潮新書『オスの本懐』より一部抜粋・再編集。

※記事内で言及のある医療アドバイスについては、医師や専門家にご相談のうえ行なってください。

デイリー新潮編集部